共鳴(2)
「――アリス、実は渡したいものがあるんだ」
俺はアリスから離れると、ストレージからあるものを取り出した。
それは金属製のリングであり、その中央には大きな宝石がついている。しかし、これは指輪ではない。
「これは?」
「イグニスに作ってもらった『バングル』だ。本当はブレスレットにしようと思っていたんだが、バングルの方が頑丈って聞いたからこっちにしてみた」
このバングルのリングはミスリルで作られている。そして中央についている宝石は、レナード帝国でミーナたちからもらった報酬の中にあったものを使っていた。
イグニスに持っている宝石を全て見てもらい、その中から一番よさそうなものを選んでもらったのだ。
取りつけてもらった宝石の名前は『スターサファイア』というものらしい。
きれいな青色の楕円形であり、その中心から六本の線が外側にのびている。価値にしてミスリル硬貨五枚はくだらないそうだ。
非常に強力な魔法的効果があるらしく、身につけていれば発動する水と聖属性の魔法を安定させてくれるらしい。
「アリス、腕を出してくれ」
「う、うん」
アリスは左腕を差し出すと、俺はその腕にバングルを滑り込ませるようにしてゆっくりとはめた。
ちゃんと大きさもあっており、入らなかったり簡単に外れてしまうということもない。
「問題はなさそうだな」
「そうね、変な感じはしないわ」
アリスは腕を振ったが、それで取れたりはしなかった。
なぜバングルにしたのかというと、杖を持ったりするので指輪だと邪魔になりそうだと思ったからだ。だからバングルにしてみたんだが、やっぱりこっちで正解だったな。
「――ありがとう、大切にするわね」
アリスはバングルを撫でながら、そう言葉を口にした。
―― ―― ―― ―― ――
時計の短針が十時を回る頃、俺たちは屋敷へと帰ってきた。
普段なら夕方には城門が閉まってしまうのだが、今回は特別にアベルが気を利かせてくれたので、夜になっていても特に面倒な手続きなどもなく、町の中に入れてもらうことができた。
本当に、コネやツテはできるだけ作っておくべきだな。
「――おかえりなさいませ、ずいぶんと遅くなりましたね」
リビングの扉を開くと、そこではアルバニアが本を読んでいた。
いつもはもう寝ているような時間なのだが、どうやら俺たちを待っていてくれたらしい。
「あぁ、ただいま」
「ただいま、私たちを待っていてくれたの?」
「はい。こんな時間になるまで外にいたということは、よほど楽しかったみたいですね」
ライトインセクトの羽化を見に行ったのは完全にサプライズだったので、どれぐらいの時間に帰ってくるかは言っていなかった。
まぁ、大体こんな時間になるだろうとは思っていたのだが。
「そういえばアルバニアは夕食を食べたのか? こっちはもう食べてしまっているんだが」
「私も少し前に食べましたので、お気になさらず」
町を出る前に夕食は済ませていたので、もう食べる必要はなかった。もしアルバニアが俺たちに気を遣って食べていなかったなら、だいぶ悪いことしてしまっていたな。
俺とアリスもソファーに腰を下ろす。
別にそこまで疲れるようなことはしていなかったのだが、少し体がだるかった。もしかしたら、少し前までずっと気を張っていたからかもしれない。
「よければ、どのようなことをしたのかを聞いてもいいですか?」
「まぁそれはいいんだが……一つ、その前に言っておきたいことがあるんだ」
そう口にすると、俺はアリスを見た。すると、アリスは頷きを返す。
「実は、その……アリスと結婚することにしたんだ」
俺が今いるベネット王国において『結婚』というものは、日本での結婚と少し意味が違う。こちらでいう結婚とは、夫婦になる者同士が誓う契りのことだ。
別に婚姻届を政府に提出する必要はないし、事実婚が一般的である。
どうやら貴族は様々な問題から国に結婚したことを報告しなければならないそうだが、一般市民には関係のないことだ。
式を挙げる人もいるらしいが、多くの人は挙げることはないようである。
かく言う俺たちも、挙げる気は特になかった。
「もしかしたら信じられないかもしれないけど、本当のことよ」
アルバニアは驚愕を顔に張り付け、しばらくしてその表情は緩み笑みへと変わった。
「――そうでしたか、おめでとうございます」
アルバニアは頭を下げた。その様子からは、あまり動揺は感じられない。
「俺はもっと驚くと思ってたんだがな……」
「そう言われましても、前々からお二人の気持ちには気づいていましたし、いずれこうなるとは思っていました。まぁ、予想よりも少し早かったんですが」
アルバニアにはバレバレだったか……。
できるだけ平常心でいたつもりだったが、気づかないうちに感情が表に出してしまっていたのかもしれない。
「それに最近は報酬を分割せず、ソータさんが一括で管理していことも知っていますし、急になにかが劇的に変わるわけでもないでしょうしね。そこまで驚愕するほどでは」
「……意外だな、少しは嫉妬されるかと思っていたんだがな。『アリスを取られた』って」
「確かに少しは嫉妬もあります。ですが、私の願いは『アリスが幸せになること』です。であれば、私から離れていったとしてもアリスが幸せならそれは忌避することではありません」
アリスを見ながらアルバニアはそう言った。
「姉さん……」
「この様子を見ていれば幸せそうなのは見て取れます。そんな中に割って入るなど、私はしませんしできません。――ソータさん、こうなったからには半端なことは許されませんよ」
「……あぁ、それは重々承知しているよ」
アルバニアは俺に忠告した。
その眼差しは絶対に虚言は許さないとでも言うかのごとく鋭い。思わず息を呑むほどだった。
「姉さんも早く相手を見つけないとね」
「……そうですね、私も少し考えておきます」
アリスの軽口に、アルバニアは笑みを返したのだった。




