デートの誘い
クレアといろいろ話し合った結果、『買い物と食事ははずせない、あとは素敵な場所に行くのもいい』という結論になった。
そう決まったはいいが、ここからが一番の問題だ。
これはクレアから聞いたのだが、待ち合わせ場所や着ていく服装もかなり重要らしい。
待ち合わせ場所を定食屋や、あまりにも人がたくさんいる場所にするのは避けなければならず、わかりづらい場所も問題があるそうだ。そして、服装はいつもの戦闘用のものはもってのほかであり、あまりにもいつも通りなのもだめだという。
はっきり言って、ここまで気にしなければならないことがあるなんて思いもよらなかった。
面倒ではあるが、これを蔑ろにするのはよくない。あまりにも手を抜いていると、相手のテンションを下げることにつながるらしいからな。
まぁ服装は店で適当に見繕ってもらうとして、問題は待ち合わせ場所だ。
ここ最近は熱くなってきたし、あまりにも直射日光が当たる場所は避けたいところだ。かと言って、どこかの店の中というのも人がいるからな……。
そうなると高級な店で予約を取っておくという手もあるが、そもそも俺はそんなおしゃれな店を一軒も知らない。
……しょうがない、ちゃんと事前にリサーチをしておくことにするか。
俺はそう決めると、チェイスの様々な場所について調査を始めるのだった。
―― ―― ―― ―― ――
クレアと相談をした日から十日ほどがたった。そして、俺とアリスは屋敷のリビングにいた。
現在は夕食を食べた後であり、アルバニアはキッチンで片づけをしている。
――つまり、いま俺とアリスは二人きりだった。
「……なぁ、アリス」
「ん? なに?」
俺は覚悟を決め、本から顔を上げてアリスの顔を見る。
その際に胸が締め付けられるような感覚を覚えたが、今は我慢だ。
「明日は狩りをする予定だが、明後日が空いていたりはするか?」
「え? まぁ別に用事はないけど、私になにか用?」
「あぁ、そんなところだ」
いよいよデートに誘わなければならない。そう思うと、どんどん鼓動が早まり、息が苦しくなってきた。
事前に言う言葉は決めていたのだが、思うように口には出なかった。
「明後日にさ、一緒に買い物へ行かないか? 美味しそうなレストランを見つけたから、そこで一緒にご飯を食べたりもしたいんだ」
少し遠回しな言い方ではあったと思うが、なんとか噛まずに言い切ることができた。
でも、完全に安心はできない。なぜなら、まだアリスから返事は帰ってきていないからだ。
「いいわね! じゃあ後で姉さんも誘って、一緒に予定を調整しましょうか」
「あっ、いや、そうじゃないんだ!」
「ん? どういうこと?」
悪いが、今回はアルバニアと一緒にいくことになるのは、絶対に避けなければならない。
普段ならそれでかまわないのだが、アルバニアと一緒に行くことになってしまうと、全部計画を変更しなければならない。そして、それをするとどんどん後回しになってしまう気がするのだ。
「今回は俺とアリスの二人で行きたいんだ」
「え? それって……」
アリスの頬が紅潮していく。
どうやら、やっと俺の意図が伝わったようだ。
「だ、だからさ、今回は悪いけどアルバニアは抜きでお願いしたいんだ。……ダメか?」
「……えっと、その……わ、わかったわ、二人で行きましょう」
アリスはうつむき気味でそう答えた。
……よかった、了承してれた。断られることはないだろうとは言われていたが、今までは断られるかもしれないという不安で胸がいっぱいだったんだ。
一気に脱力感が襲いかかってきた。今までずっと気を張っていたからだろう。
「じゃあ……何時ごろにここを出る?」
「えっと、それなんだが……待ち合わせをしないか? ちょうどいい場所を見つけたんだ」
ここ数日はずっと調査をしていたので、待ち合わせにぴったりな場所をちゃんと見つけていた。
『人があまりおらず、外であることかつ涼しい場所』という条件で情報屋を何人もはしごしたので、意外と場所はすぐに決めることができた。
「わ、わかったわ、そうしましょう」
「えっと……それで、場所なんだが――」
非常にゆっくりとしたペースではあったが、アリスと待ち合わせ時間などを話し合い、しっかりと約束を取り付けるのだった。
―― ―― ―― ―― ――
俺は物静かな公園のベンチに座り、アリスを待っていた。
この周辺の上部には藤棚のようなものがあり、ほどよく日差しがさえぎられている。すでにいくらか花は散ってしまっているが、それでもなお綺麗だった。
さらに俺の近くには噴水があり、見ているだけでも暑さが和らぐ気がした。
ここは情報屋に教えてもらった、知る人ぞ知る公園だ。
別にわかりづらい場所にあるわけではないが、ここ周辺が貴族街のため利用する者は少ないのだそうだ。
そして貴族街にあるため定期的に手入れされているそうで、外観はかなり小綺麗だった。待ち合わせ場所として最適だろう。
「……どうも落ち着かないな」
さっきから俺の心拍数が落ち着かない。ずっとバクバクと、マラソンをした後のように動機が収まらなかった。
今から緊張していてもなにもいいことがないのはわかっているのだが、心と体は全く別の問題だった。
本当に、ここまで落ち着かないのはひさしぶりである。
そうして心を落ち着かせていること十数分。公園の入口から人が入ってくる。
入ってきた人物を確認するために視線を向けると、俺の胸が高鳴った。
「……待たせたわね」
そこにいたのは、普段とは違い白色のワンピースを着て、革製のローファーを履いたアリスだった。
服装はおしゃれで夏らしく、纏う雰囲気はいつもよりも大人びている。
「いや、そんなに待っていないぞ。俺が早く来すぎただけだし、なんなら待ち合わせ時間よりも早いしな」
公園に設置されている時計を見ると、七時五十分あたりを示していた。
待ち合わせ時間は八時を予定していたので、アリスが謝る必要は全くもってなかった。
「そう……ならよかったわ」
そう言い、アリスは安堵した様子を見せる。
アリスは俺の近くまで来た。
心音がうるさいが俺は平常心を保ち、なにか話題を切り出そうと口を開こうとする。しかし、そこで俺はアリスのとある変化に気がついた。
「ん? 香水を変えたのか?」
「ど、どうしてわかったの……?」
いつもつけているフローラルタイプの香水ではあるものの、アリスはいつもとは少し系統の違う香水をつけていた。
いつもは落ち着いたものなのだが、今日は少し大人びた上品な感じである。
「いや、そりゃあいつもとは明らかに違ったし、これくらいは気づくさ」
「いつも……」
「あぁ、同じ系統の香水っぽいけど、いつもとは――あっ、いや、そういうことじゃなくて……っ!」
……しまった、まるでいつもアリスのことを気にしているみたいなことを言ってしまった。
別に間違いではないのだが、だいぶ恥ずかしいことを口走ってしまった気がする。
「ふふっ、まぁいいわ。さぁ、ここでじっとしているのは時間がもったいないし、さっそく行きましょう?」
「あ、あぁ……そうだな」
アリスは頬を赤く染めながら俺に手を差し出す。その手を取ると、俺たちは手をつなぎながら歩き出すのだった。




