忠告
あのパーティーが終わってから、三日がすぎた。
早急に片づけなければならないことがあるそうで、ミーナたちがある程度落ち着くまではしばらく待機だ。
その間は暇だったので、俺は帝城の中を自由に見て回っていた。
構造や抜け道は大体把握しているので、今では特に案内がなくともある程度好きな場所へいくことができる。
いろいろとおもしろい発見もあったが、同時にこの城は無駄が多すぎることも痛感した。
まぁ、有意義にすごせたことは違いない。城の中を自由に見て回れる機会なんて、そうそうないからな。
―― ―― ―― ―― ――
場所は変わり、ミーナの部屋。
そこで、俺はミーナとマイルズの二人と、テーブル越しに向かい合っていた。ミーナの後ろにはベストの姿もある。
「すみません、事後処理や根回しが早急に必要な案件がいくつもあったので遅れてしまいました」
「ごめんなさいね」
マイルズは頭を下げ、ミーナは小首を傾げほほえみを浮かべた。
そこまで簡単に頭を下げられてしまうと、逆にこっちが遠慮してしまう。
「それは別にいいけど、今は大丈夫なの?」
「はい、急を要するものはすべて片づけたので、あとはそこまで緊急性のないものです。お気になさらず」
口角を上げ、マイルズはにっこりと笑顔を見せる。
だが目の下にクマがあり、明らかに寝不足の状態で言われても、どうにも心配してしまう。
「さて、まずは兄と姉を暗殺していただき、ありがとうございました。おかげで順調に事が運んでおります」
「私からも、ありがとう」
「うん、依頼だから当然だよ」
それに、なによりこの依頼を受けることによって、俺にも利益があった。直接的な報酬を抜きにしてもだ。
「これで推進派はほぼ壊滅ね。あとは残党だけだけど、お兄様たちに比べたらそこまで厄介じゃないわ。長きにわたる不毛な争いに、終止符を打てたわね」
「はい、今後は様々な方面を掌握し、この国の意思を一つに固める必要があります。このまま放っておけば、内部から崩壊しますし」
確かに、このままの状態で放置するのは大分まずいな。
カイルたちが死んだことは、まだ公にはなっていない。だがしかし、貴族たちはカイルが死ぬのを目の前で見ているし、いろいろと不安になっているはずだ。
それが原因で暴走し、反乱でも起きて内乱にでも発展されたら、また面倒なことになるだろう。
「だからこそ、できるだけ早く皇帝として正式に名乗りを上げる必要があります。ですが、そのためにはまず兄が死んだことを公表しなくてはなりませんね」
「そうね、適当に病で倒れたと言っておけばいいんじゃないかしら? わざわざ暗殺されたと公言する必要はないわ」
「そこら辺はうまくやります。ともかく、現状一番最初にすべきことは、国を一つにすること。長きにわたる推進派の支配で、国民は都合のいいように洗脳されています。まずはそれを解く必要がありますね」
……洗脳ね。
リロイの演説を思い出すと、それがどんなものなのかは大体理解できた。それがずっと言い続けられてきたんだったら、簡単に洗脳を解くことはできないはずだ。
「まぁ、民衆というのは世論に大きく影響を受けるものよ。世論さえ操作できればこっちのものね」
「ですね、それさえ握れば民衆は掌握したも同然。ここは抜かりなく行いましょう」
なんか、社会の闇が見えた気がする。
否定できない事実ではあるんだが、そんなことを俺の目の前で言ってしまってよかったんだろうか?
「――おっと、すみません、長らく話し込んでしまいました。確か、報酬の件ですね。どのようなものをご希望でしょうか?」
報酬……どうするか。
元々帝国にきたのは、カイルを暗殺するためだけだった。でもそれが依頼になり、報酬が発生した。
だから、報酬はそこまで重要ではなかった。しかし、もらえるものはもらっておくべきだろう。
「アルドが持っていた宝石があるでしょ? あれをある程度ほしい」
貨幣としてもらうよりも、普遍的な価値のある宝石をもらった方が合理的だろう。
もしかしたら、場所によっては売却価格が高騰するかもしれないしな。……逆もあり得るが。
「なるほど、ほかにはありますか?」
「……マジックアイテムかな、たくさん保管されてるでしょ?」
確か、厳重に管理されたコレクションルームがあったはずだ。
ミーナに聞くと、マジックアイテムとかを保管してあると言っていたし、いろいろと役立つ物があるはずだ。
「確かにマジックアイテムはたくさんありますね。では、どのようなものをご希望で?」
「うーん……娯楽用のじゃなくて、もっと実生活に役に立つようなのかな」
自動で絵が変わる絵画とかをもらっても、はっきり言って俺には使い道がない。
高価ではあるんだろうが、あっても生活が豊かになるわけじゃないしな。
「そうなりますと、んー……」
「マイルズ、ちょっと前に手に入れたものはどうかしら。あれならアンジェリカちゃんの役に立つんじゃない?」
「なるほど、それがいいかもしれませんね」
マイルズはミーナの意見に同意すると、俺と向き合う。
「アンジェリカさんには、『鳥銀のマスク』というマジックアイテムをお譲りすることにします」
「どういうものなの?」
「マスクとあるように、仮面型のマジックアイテムです。金属製で、顔につけている間は毒ガスが充満しているような場所でも、なんの影響もなく呼吸できるようになります。いかがでしょうか?」
すごいな。それが本当なら、《ポイズンミスト》で自分の周囲にいる者も、一網打尽にすることだってできるようになる。
ポイズンミストの毒は自分にも作用してしまうので、自身の周囲には使用することができない。
しかしそれが可能になると、戦略の幅が広がることになる。
「うん、それがほしい」
「かしこまりました。ほかにはありますか?」
「……いや、これ以上はいいかな。貰いすぎな気もするし」
「そうですか。では、余剰分は宝石の方に上乗せしておきます。――ベスト、報酬の準備をお願い」
「かしこまりました」
ベストは部屋を出ていった。
「これからは、より一層気を引き締めなければならないわね。まだベネット王国と友好を結ぶには、いろいろと早すぎる」
「ですね、手を回さなければならないことがたくさんあります」
「……ねぇ」
二人はこれからのことを話し始めた。だが、俺はそれを遮る。
「なにかしら?」
「もし今度はミーナたちがふざけたことをしたら、私は二人を狙うからね」
そう、本当の目的はミーナたちを手助けすることではない。帝国を沈静化させるために協力したんだ。
もし今度は二人が暴走した場合、俺は二人をどうにかしなくてはならない。
話し合いで解決できるならそれでいいが、もしそれができないのなら……。
「えぇ、わかっているわ」
ミーナは俺にほほえみを返した。それは覚悟が決まっているとすら見える、清々しい表情だった。




