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虚構のスピーチ

 高さが二階分ほどもある大きな一室には、数多くの貴族が集っていた。


 立食形式で、豪華で様々な料理の数々や、年代物の高級ワインが参加者たちへと振る舞われる。

 そんな料理などを盛り付けたりするメイドは数多くいた。メイドたちはそれぞれ所属する組織が違ったりするわけだが、現在俺はその中に潜りこんでいた。

 名目上、俺はミーナが雇っているメイドの内の一人である。


 今回のパーティーは、カイルを暗殺するのにはかなり適していた。

 一見、かなりの人数が会場にいるので暗殺には向いてないように思える。だが、それさえどうにかしてしまえば、絶好のチャンスなのだ。

 これほどカイルに近づける機会はまたとない。逃す選択はないのだ。


「――おい、そこの。この皿を返してきてくれないか」

「かしこまりました、お任せください」


 俺は一人の貴族に呼び止められ、皿を受け取った。そして、それを厨房の方へと持っていく。

 メイドとしてここにいる以上、相応の働きはしておく必要がある。

 いささか面倒ではあるが、仕方のないことだと割り切るほかないだろう。



 そんなことをしばらくしていると、会場にある大きな扉が開かれた。

 どうやら、カイルがお出ましのようだ。


「皆の者、待たせてしまい申し訳ない。少々準備に手間取ってしまった」


 スーツを纏ったカイルが、会場へと入ってくる。

 そのわきには護衛をつけ、いかにも万全といった様子だ。


「いえいえ、滅相もないことであります。このご時世、陛下にこのような場を設けていただける、その度量には感服するばかりでございます」

「なにを言う。其方こそ、わざわざ遠路はるばるこの場に出席してくれたこと、感謝する」


 カイルと会話を交わすのは、『対王国特別対抗委員会』の会頭。

 推進派であり、なかなかに大きな権力を持っているのだそうだ。

 普段は帝都から馬車で二日ほどの距離にある町にいるそうだが、今回はパーティーへ参加するためにわざわざ帝都までやってきたという。


 会頭へ続くように、ほかの者たちからもカイルを擁護(ようご)する声が上がる。

 その中には、少し前まで陰ながらカイルの悪口を言っていた者の姿もあった。

 どんな場所でも、トップを持ち上げるのは重要なことのようだ。


 ……アルドを殺したのは五日ほど前だが、カイルにそれを嘆いている様子は見られない。それどころか、楽しそうですらあった。

 普通、家族が殺されたら最低でも一ヶ月は気分が憂鬱になるだろう。にもかかわらず平然としていられるカイルは、本当にどうかしていると思う。


 カイルは用意されていた舞台へと上がった。

 事前に、数分ほど演説を行うと伝えられている。その間は食事を謹み、演説をしっかりと聴くことが礼儀らしい。

 カイルは演説台に置かれていた、マイクのようなマジックアイテムを手に取った。


『まず、これほどの人数がこのパーティーに参加してくれたことを、うれしく思う。国のことを思い、考える者がこれほどいるということは、とても心強いものだ』


 会場に設置されていたスピーカーから、増幅されたカイルの声が聞こえてくる。


『我々は、日夜ベネット王国の脅威に苛(さいな)まれている。それは戦争であり、政治的圧力だ。このままでは、この国に未来はない』


 カイルは懸命に声を上げる。

 言っていることは一見筋が通っているようにも思えるが、実際は完全に的外れなことを言っており、虚言(きょげん)である。

 そんなカイルに、周りからは見えないよう失笑をあらわにしている者もいた。


『そこで、今年の秋……再び戦争を起こす。今度こそは攻め落とし、なんとしても王国を手中に収める。これしか、今の我々に生き残る道筋はない! 明日を生きるためには、王国に打ち勝つほかないのだ!』


 一所懸命にカイルはまくしたてるが、はたから見ていると滑稽でしかなかった。

 ありもしない事をさもあったかのように言い、だまして従わせようとする。こんなことを平気で行うカイルは、はっきり言って一国を担う者としてはあまりにもふさわしくない。


『そのためには、其方らにも協力してもらう必要がある! 皆が協力してこそ、我々に未来があるのだ! 無論、強制ではない。しかし、この国のことを思う者ならば、協力するのは当たり前と言えよう!』


 ここまでカイルが無能だとは、さすがに思いもしなかった。普通の者なら、今の状態が続くのはまずいと理解できるはずである。


 少なくとも、ここにいる貴族の半分はカイルのことを支持していない。

 表面上は支持しているように見えるが、本心ではカイルのことは毛ほども支持していないはずだ。

 それは、カイルの演説を聞きながら鼻を鳴らしている、対(・)王(・)国(・)特(・)別(・)対(・)抗(・)委(・)員(・)会(・)の(・)会(・)頭(・)を見ればわかる。


 この人は、カイルのことを最初は支持していたらしい。だが、ミーナたちからの根回しを受け、融和派に寝返ったそうだ。

 ミーナたちの話を聞き、このまま帝国の命運をカイルにゆだねるのはまずいと感じたらしく、今ではいろいろと後のことを考えて行動してもらっているらしい。


『今は危機的状況だ。だからこそ、我々は協力する必要がある! 皆が懸命な判断をすることを、切に願う』


 カイルは演説を終えると、演説台にマイクを戻す。そして、舞台を降りるために移動を始めた。


 今までこいつの身勝手な行動によって、いわれのない不幸をこうむった者がたくさんいるはずだ。『ルーサー』の住民しかり、カイルの身勝手な言動に振り回されている帝国の国民しかり……。

 そういった者たちのためにも、カイルの暗殺は絶対に成功させなければならないのだ。


 カイルがあ(・)る(・)ポ(・)イ(・)ン(・)ト(・)に足を踏み入れた瞬間、俺はミーナから預かっていた物――とあるスイッチを押した。

 すると、会場の灯りが一つも残らず消え、辺りは真っ暗となった。

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