腹の探り合い
「……生きていたのか」
「えぇ、なんとかね。大変だったわよ? 帰ってくる途中に野盗と例の暗殺者に襲われてね。いろいろと疲れたわ」
ここは帝城にある謁見室だ。そして、そこでは二人の皇族が向かい合っていた。
一人は第一皇子の『カイル』。偉そうに玉座へと腰を下ろし、頬杖を突きながら俺たちを見下している。
そして、もう一人が第二皇女の『ミーナ』である。その後ろには俺とベストの姿もあり、形式にのっとり片膝をついている。だが、ミーナは普通に立ったままだ。
俺たちとカイルとの間には数段の階段があり、カイルは玉座に座っていたとしても俺たちを見下すことができた。
俺がここにいるのは、一度カイルを直接見てみたいとミーナに言ったからである。
このメイド姿なら、見られてもそこまで目立つことはないだろう。それに、謁見室へ来れるまたとない機会だったのだ。これを逃す手はない。
「そうか、ご苦労だった。世話をかけたな」
「ご心配感謝するわ」
明らかに『世話をかけた』なんてかけらも思っていない落胆した表情を見せながら、カイルはそう告げる。
聞いていた通り、嫌みな男だ。その姿や言動からは、ひしひしと悪辣さがにじみ出ていた。これが現皇帝だなんて、世も末である。
「それで? 例の暗殺者とは本当に矛を交えたのか?」
「えぇ、麦畑を通る街道でね。あそこで、しかもあの時間に霧が発生するなんて普通はあり得ないでしょう? もしかして、疑ってるの?」
「ふん、ただの確認だ」
小首をかしげながら、カイルはそう答える。……だが、なんかうさんくさい。
腹の内が読めない言動からは、いやがおうでも怪しさを感じ取ることができた。
「お前の部下でも大丈夫なら、俺ならば安泰か。はっ、これだけ警戒していたのが馬鹿みたいだ。そんな奴に暗殺されるとは、父上はふぬけだったか……嘆かわしい」
「そうね、そんなふぬけの二の舞を演ずるのは、私もごめんだわ」
……なんだろう、一見普通の会話のように思えるが、俺にはマウントを取りあっているようにしか見えない。言葉の節々に棘があり、相手よりも優位に立とうとしている感じだ。
これが血の繋がりのあるきょうだいの会話というんだから、恐ろしいものである。
「おまえも気をつけろよ? 一度襲われたのならば、またこないとも限るまい」
「えぇ、もちろんそのつもりよ」
「視察のレポートはまた後で読ませてもらう。今回は助かった」
「そう……じゃあ、私はもう行くわ。いろいろと頑張ってね」
「言われるまでもない」
ミーナと共に、俺とベストも謁見室を後にするのだった。
―― ―― ―― ―― ――
ミーナたちが立ち去ってから一分ほど、謁見室は静寂に包まれていた。
「――おい、これはどういうことだ? なぜミーナどもは生きている?」
「も、申し訳ございません。襲わせた野盗や暗殺者共々、撃退されてしまったようです」
その静寂を破り、最初に口を開いたのは――カイル。隠しきれぬ怒気をあらわに、そばに控えていた執事へと叱責する。
「ほう? 『追加で腕のいい暗殺者も一緒に襲わせるから、これで失敗することはない』とか言っていた奴はどこの誰だ?」
「……どうやら、ミーナ様方の持つ戦力を見誤っていたようです。私の、責任です」
「そうか、次はないぞ。今後の働きで挽回してみせろ」
「はっ!」
深く頭を下げ、執事は力強く声を上げた。
カイルに執事の謝罪の意が伝わったのだろう、それ以上追及することはなく冷めたようにため息をついた。
「……例の暗殺者も、所詮はこの程度か。使えない」
「ミーナ様方も暗殺できぬほどとは、私も予想外でした。もしかすると、実戦はあまり得意ではなく、奇襲を得意とする者なのかもしれません」
「なるほど、確かにそう考えられるな。では、今の体制で問題はないか?」
「はい、つねに護衛は常駐させておりますし、奇襲も警戒させております。これを突破するのは不可能でしょう」
執事の言葉を聴き、カイルは満足そうに『そうか』とつぶやくのだった。




