奇襲者
四台の馬車が森林の中を駆ける。その速度は遅く、人が小走りする程度の速さしかない。襲撃を警戒し、ここまで速度を落としているのだ。
それにしても、この森は静かなものだ。獣の咆哮や悲鳴が聞こえてくることはなく、不気味なほど穏やかである。
聞いた話によれば、どうやらレナード帝国の城壁内には魔物がほとんどいないらしい。小型の魔物や飛ぶことのできる魔物以外は基本的にいないそうである。
なんでも、城壁ができた当時はまだ普通に魔物はいたらしいのだが、大規模な魔物狩りを何度も行うことによってここまで減らしたというのだ。そのため、現在は村人が一人でも安心して出歩けることができるのである……盗賊などに遭遇しなければだが。
「――ん? きた?」
突然、馬車が減速して止まる。何事もなければ、この馬車が止まることはない。ということは、なにかがあったと言うことだ。
「確認します」
そう言うと、ベストは小窓から付近を見渡す。するとなにかを見つけたのか、ベストの目の色が変わるのがわかった。
「野盗のようです。ざっと確認したかぎり、二十は下りません。ですが、これがすべてではないかと」
「そう……じゃあ二人とも、頼んだわ」
「かしこまりました」
「わかった、行ってくる」
事前に、相手の要求は一切聞く必要がないと言われている。なら、さっさと排除するに限る。
馬車を出てどういう状況か確認してみると、馬車を挟むように前後から盗賊が襲いかかってきていた。
それらには護衛たちが相手をしているのだが、中にはメイドの姿もあった。こういうのを見ていると、メイドというものが何なのかわけがわからなくなってくる。
「上です! アンジェリカさんっ!」
ベストにそう言われ上を見ると、そこには一人の男が俺に向かって落ちてくるところだった。
俺はとっさにストレージから『冥府の短剣』を取り出し、男の持つロングソードを受け止める。あぶないあぶない、さっそく一撃もらうところだった。
「……ちっ」
男は舌打ちをし、後ろへ飛び去りこちらの出方をうかがう。その動作は、とてもただの盗賊には見えなかった。
「こいつは私がやるから、ベストはほかのをお願い」
「かしこまりました」
ベストは俺たちの乗っていた馬車の反対方向に回り込んだ。
「あんたいったい何者? どこの組織で、誰の依頼で動いているんだ?」
「……」
男はなにも言わず、ただこちらを睨み付けてくる。どうやら、本当にただの盗賊ではないらしい。
「まぁ、答えないよね。じゃ――っ!」
一瞬気が抜けたのを察したのか、男は言葉の途中にロングソードで突きを放ってきた。
警戒は怠っていなかったのでロングソードを横へはじくことには成功し、カウンターで男の首を掻き切ろうとする。だが、男はロングソードを盾にして防いだ。
「なかなかやるな」
「……」
男は終始無言を貫き、なにも喋らない。仕方がない、ここは搦め手を使わせてもらおう。
今度は俺から攻める。真正面から突っ込み、突きの構えをとった。
リーチは男の方が長い。そのため、攻撃は先に男の方からとどく。だが、こっちはブラフである。
俺は男の剣がとどく前に転移魔法を使い、男の真横に転移した。男の顔に、驚愕の色があらわになる。
「ぐがっ!?」
冥府の短剣を男の脇の下へと突き刺した。男は悲鳴を噛み殺し、後ずさりする。これで片手は使えなくなった。
追撃を入れるために男へと近づこうとしたが、男はふところから白い球体を取り出した。それには見覚えがある。
だがしかし止めることはできず、男はそれを地面にたたきつけた。
「くっ……!? ……しまった」
瞬間、大量の白い煙が発生し男の姿が見えなくなる。すぐに煙は晴れたが、そこに男の姿はなかった。
……まぁいい、とりあえずあの男は放っておくとして、ほかの盗賊たちをとっとと片づけてしまおう。




