対策会議
工房の視察は無事に終わった。
特筆することではないが、金属の棒を熱して槌で鍛えて一本の剣にしていく様子は、けっこうおもしろいものがあった。よくあれだけ熱い場所で、何十分も槌を振り続けられるものである。
そうやって打った剣を持たせてもらったが、なかなかいい出来だった。下手に扱ったり手入れを怠らなければ、かなり長持ちすることだろう。
わらの太い束を、その剣で斬らせてもらうことができた。切れ味も悪くなく、重心がおかしいということもなかった。腕のいい鍛冶師というのは、噓偽りないようだ。
ミーナとマイルズはそんな様子を見て思ったことや、工房の状態などを紙にメモしていた。後でカイルに提出しなければならないらしい。
視察の代行という話だから、そういうものも必要なのだろう。
その夜、俺たちは馬車の中で会議をしていた。議題は明日のことに関してである。
メンバーはミーナとマイルズ、そして俺にベストと護衛の体長だ。
そして、会議をわざわざ馬車の中で行っている理由だが、どうやらこの馬車には防音処理がなされているらしい。そのため泊まっている宿ではなく、盗み聞きされづらい馬車の中で会議することになったのだ。
「行きはなにも仕掛けてこなかった。でも、帰りはそうはいかないわ。確実に、お兄様はなにかしら仕掛けてくるはずよ」
「予想は『殺し屋をけしかけてくる』、だっけ?」
「そう、だから対策の確認と変更を行うわ」
俺の言葉に、ミーナは即座にうなずいた。
「十中八九、仕掛けてくるのは途中にある森林地帯ね。あそこなら隠れることのできる場所はたくさんあるから。襲撃するには絶好のポイントだわ」
ここへ来るまでにも一度通った森林地帯。確かに、あそこほど襲撃するのに適した場所はない。
幹の裏や樹上、ほかにも迷彩服のような物を着て地面に這っているという手もある。とにかく、隠れられる場所は山ほどあるのだ。
「事前に決めていた通り、今回はベストにも応戦してもらうわ、少しでも戦力は多い方がいいからね」
「かしこまりました、この命を賭してでもお守りいたします」
「ふふっ、頼もしいわ、よろしくね。そして『ファイブ』だけど、あなたには引き続き指揮を執ってもらうわ」
「はい、お任せください。臨機応変に対応してみせましょう」
そう声を上げるのは、ファイブという三十代ほどの男。護衛隊の隊長で、背中にロングソードを携えている。今回の護衛のメンバーでは、一番の腕利きだ。
あと、ファイブという名前だが、たぶん偽名だ。ここにはいないが、『スリー』とか『セブン』という人がほかにいるからな。『ベスト』も偽名だと思う。
「それでアンジェリカちゃんだけど、もちろんあなたも戦ってもらうわ」
「うん、それで?」
「あなたには防御ではなく、積極的に攻撃してもらうわ。ほかは防御中心だから、襲撃者を撃退できるかはあなたにかかっているわ。攻撃の要はあなたよ、任せたわ」
「ん、了解」
つまり、攻撃はすべて俺に任せ、ほかの者は防御に徹して足りない戦力を補うということか。標的はあくまでもミーナたちだし、隙をつくのは簡単そうだな。
「あと、あなたにもう一つ、別でお願いしたいことがあるの」
「そうですね、これは私からもお願いしたいことです」
続けざまに、ミーナはそう言う。そして、それにマイルズが同調した。
ミーナはいつものほほえみではなく、いたって真面目な表情を浮かべている。
「なに?」
「あなたが帝国に侵入するときや、お父様を暗殺したときにも使った霧魔法を使って、一時的に遠くから見てもわかりやすいように私たちの周りを覆ってほしいのよ」
「えっと……、それになんの意味があるの?」
ちょっとなにを言っているのかわからなかった。一体全体なにがしたいのだろうか?
「お兄様が、あなたに私たちを始末させようとしているというのは話したわね?」
「うん」
「そこで、あえて本当に襲われたかのように見せかけるわ。そして、『なんとか無事でした』とお兄様に報告するの。きっと、悔しがるでしょうね」
カイルの悔しがる顔でも想像したのか、ミーナはくすくすと嘲笑した。
「あと、そうすることによってお兄様に臆病者のレッテルをはることができるわ。現皇帝は怖気づいて引きこもっていたのに、そのきょうだいたちが無事に帰ってきた上に視察も完璧にこなした。そんな情報が民衆に知られれば、そんなことはないと言って表にも出てくるでしょう」
「なるほど! そうすれば暗殺もしやすくなる!」
「えぇ、うまくいけば現状を打開する足掛かりとなるわ、試さない手はない。あなたには泥をかぶってもらうことになるけど、お願いできるかしら?」
「うん! 任せて!」
二つ返事で、俺はうなずいたのだった。




