麦穂の海
早朝、俺はメイド服を着ていた。
着心地に違和感はないので文句はないが、少し落ち着かない。周りにも俺のものと同じメイド服を着た者がいるので変に目立つことはないが、俺の背が小さいせいで普通に目立つ。
部屋にあった姿見で全体像は一度確認したが、まるで子どもがままごとで着ているようにしか見えなかった。
「それじゃあ私たちの護衛、しっかりとたのむわね」
「うん、わかってる」
俺たちがいるのは、帝城の敷地内にある厩舎とほど近い場所だ。
そして、現在ここには四台の馬車が止まっており、メイドやいかにも戦士という格好をした護衛に、ミーナとマイルズがいた。
護衛の数は確かに少ない。強さもまちまちだが、一番強そうな者でも俺であれば完封できてしまうほどの強さしかなさそうだった。
馬車へ俺たちは乗りこみ始める。
一番前と後ろは護衛、そして前から二番目の馬車にメイドたちが乗りこみ、最後の後ろから二番目がミーナとマイルズが乗る馬車だ。
外から見れば、どこにミーナたちが乗っているかわからないように、馬車は地味なものかつどれも同じものだ。
映画とかでよくある、どこに護衛対象が乗っているかわからないようにするためのものだろう。
俺はベストと共にミーナたちが乗っている馬車へと乗り込んだ。二人を護衛するにあたり、メインの戦力を一か所に集めた形だ。
この馬車は御者以外にはミーナとマイルズ、そして俺とベストしか乗っていない。だが、それはこの中では断トツで強いのが俺とベストだというのが理由である。
中途半端な戦力では、邪魔になるだけだしな。
すべての者が乗り込むと、ほどなくして馬車は動き出す。その速度は非常にゆっくりとしたものだ。
「無事に終わるといいわね」
「えぇ、そうですね。何事もなく帰ってこれるのが一番ですが、あれがなにも企んでいないということはないでしょう。ですので、どんなことがあってもすぐさま対処できるよう、心構えをしておく必要がありそうです」
馬車は順調に速度を上げていき、着実に工房があるという町へ進んでいくのだった。
―― ―― ―― ―― ――
広大な麦畑がわきに広がる街道を、四台の馬車がつらなるように轍を刻む。俺はそよそよと風が吹き、麦の穂を波打つようにゆらす光景を眺めていた。
まだどこも収穫が開始されていないため、さながら広大な海のど真ん中にいるかのようである。
これを全部収穫するのは、骨が折れるだろうな。便利な農業機械はないし、農民はこれを手作業で収穫するというのだがら恐れ入る。
「……本当に農地が多いね」
「そうね、それがレナード帝国の強み……というか、これしか取り柄がないしね。肥沃な土地はたくさんあるし、有効活用しない手はないわ」
確かにそれが帝国の強みであり、同時に弱みだろうな。
これだけ豊かな土地があるのにもかかわらず切羽詰まっているのは、あまりにバランスが悪すぎるということか。
ここに来てかなり驚いたことがある。それは、『物価の違い』だ。
例えば、王国では農地が少ないので穀物や野菜が高く、鉱山がたくさんあるので鉱物資源が比較的安い。しかし帝国では農地が余るほどあるので、穀物などの農作物がとにかく安いのだ。その差は王国と比べて十倍以上にもなる。
だがしかし、鉱山がないにも等しいので鉱物資源はあまりに高すぎるのだ。優先的に政府へ資材をまわしているというのもあるだろうが。
そこで、これを解消するのが王国とビジネス関係になることである。
帝国は余剰分の穀物を王国と交易し、代わりに鉱物資源を手に入れる。王国も比較的にたくさんある鉱物資源を帝国へゆずるかわりに、大量の穀物を手に入れることができるようになるのだ。
ギブアンドテイクであり、ウィンウィンな関係だろう。
カイルもこのことには気がついているはずなんだが……あまりにも自己の利益を優先しすぎるあまり、先のことが全然見えてないんだろうな。本当に、馬鹿な男だ。
「――ほら、見えてきたわ。あれが目的の町よ」
ミーナにそう言われ、俺は街道の先を見る。すると、そこには町というよりも村といった方がいいほどの大きさの集落が見えてきていたのだった。




