護衛の協力
「――え? 幽閉を解かれる?」
「そうなのよ、今朝お兄様の執事にそう言われてね。さらに視察の代行よ? 明らかに罠だわ」
ミーナは若干あきれた様子でそう告げる。
アルドを偵察しに行った次の日の昼頃。ベストに城の構造を教えてもらっているとメイド服を着た女が俺たちの下にやってきて、ミーナが俺に用事があると言伝を聞かされたのだ。そして、戻って話を聞いてみるとこれである。
「視察ってどこの?」
「ここから馬車で一日の所にある町の工房ね。帝国一腕がいいと言われている鍛冶師がいる所で、良心的な価格で武器を販売しているのよ。戦争になったら、軍も武器や防具を購入していたりするわ。雑兵が使うなまくらじゃなくて、精鋭が使うような品質の高い物をつくっているの」
なるほど、カイルはミーナたちに戦争の準備を手伝わせようとしているわけか。
転んでもただは起きない精神は評価できるが、あまりに盲目的で欲が強すぎる男だ。
「さしずめ、お兄様はアンジェリカちゃんに私たちを始末させようとしているんじゃないかしら?」
「私が始末するってどういうこと? ミーナとは協力関係にあると思うんだけど」
「お兄様はあなたが私たちと接触しているとは知らないのよ。だから、外出させればあなたの標的になると思っている。……でも、本当に馬鹿な男ね。少し考えれば融和派である私たちが狙われるはずがないじゃない、考えなしにもほどがあるわ」
啞然と、ミーナはため息をつく。
まぁ、ミーナの言う通りだな。王国に対して友好的である融和派の人間を狙う気は最初からなかったし。
「じゃあどうするの? 拒否する?」
「いや、それはできないわね。事実上現在皇帝なのはお兄様だし、その命令にはそむけないのよ。つまり、行くしかないわ。でも、確実にこれは罠よ。だから、少しあなたに協力してもらいたいことがあるの」
ミーナは真面目な顔をし、俺を見つめる。その眼差しは、とても真摯だ。
「協力?」
「えぇ、知っての通り私は暗部に強いわ。でも、それは情報収集だとか偵察に関してだけなのよ。だからというわけではないんだけど、あまり物理的な戦闘力は持っていないの。もし戦闘を強いられたら、多くの場合こちらが不利になるわ」
確かに、ミーナの部下は隠密が得意な者にかたよっている。
ベストは隠密にたけ、戦闘力はそれほどという話だ。聞けば、暗殺をする際は一瞬の隙をつき、一撃で仕留めるらしい。なので、それが成功しなければ交戦せずに撤退するようだ。
「だから、アンジェリカちゃんに私たちの護衛を一時的に手伝ってほしいのよ。お兄様は絶対保険をかけているわ。きっと、別で殺し屋をけしかけるつもりよ」
「……なるほど、わかった。私もミーナたちに死なれたら困るし、協力するよ」
「ありがとう、助かるわ。……それでなんだけど、護衛している間はこれを着てほしいのよ」
ミーナは控えていたメイドに目配せをし、近くに呼ぶ。そのメイドは、まるでクリーニングに出した後のように袋がかぶせられた、一着の『メイド服』を持っていた。
俺はそのメイド服を受け取る。
「アンジェリカちゃんにきちんと合うように寸法を直させたから、ちゃんと着れると思うわ」
「……いや、え? これを着るの? なんで?」
戸惑いしかない。なぜ、俺がメイド服を着なくてはならないんだろうか?
「私たちの護衛についてもらうには、どうしてもその服は目立ってしまうわ。だからそちらに着替えてほしいの。そうすれば、うまく溶け込めると思うわ」
確かに、いま着ている服は黒いからほかのメイドといれば嫌でも目立つか。ほかにも服は持っているからそれで……いや、それだとこの服を着るのとなにも変わらないな。
……ほかに道はない、のか。
「わかった、着るよ」
幸い、ここで使われているメイド服はいろいろと動きやすいように設計されているらしいので、違和感はそれほどないだろう。
「そう……寸法を直させたかいがあるわ。メイド服の着方はわかるかしら?」
「それは知っているから大丈夫」
あいにくとアリスに一度着せられたことがあるので、着方は知っている。役に立ったと喜ぶべきか、なんで知っているんだと恥じるべきか。
「視察は明日出かけることになっているから、明日はそれを着てちょうだい」
「ん、じゃあ用が済んだならこれで」
「えぇ、頑張ってね」
俺は再びベストに案内してもらい、城の構造を覚えるために様々な場所を回るのだった。




