不穏な依頼(2)
ミーナが言ったのは、驚愕ではあるが納得のいく相手だった。
「……なるほど。でも、よく平気できょうだいを暗殺する依頼なんてできるね、そんなに嫌いなの?」
「えぇ、嫌いよ。親が正妻か側室かの違いでしかないのに、それだけを理由に昔からよく蔑まれていたわ。頭ごなしに否定されて、何度殺してやりたいと思ったことか」
俺の質問に即答し、ミーナは顔を曇らせる。歯を食いしばり、明らかに殺意を抱いていた。
「カイルたちとは親が違うの?」
「私とマイルズは側室、お兄様たちは正妻の子供よ。母親が貴族か元平民かの違い。本当に理解できないわ、たったそれだけしか違わないのに」
「……ミーナにとって、『家族』ってなんなの?」
なんて言葉を返せばいいのかわからず新たに話題を振ると、ミーナは不敵に笑った。
「家族だとか血のつながりだとか、私にとってそういうのはどうでもいいものよ。有用ならしっかりと活用して、邪魔ならば排除すればいい。こういう考え、嫌いかしら?」
「……別に嫌いじゃない」
「そう……じゃあ――」
「でも、好きじゃない」
俺はミーナの言葉に割って入り、再び答える。マイルズとベストから険悪な雰囲気が漂ってくるが、依然としてミーナは笑顔のままだ。
「確かに、『有用なら活用して、邪魔なら排除すればいい』っていう考えには同意できる。でも、私はそれを他人にしかしない。身内なら、それも血のつながりがあるのならばなおさら。身内も排除していったら、周りから誰もいなくなるよ?」
嫌いな奴を排除するなとは言わない。俺だってするし、それも積極的にやっていることだからだ。
だがしかし、身の回りの人間まで排除してしまえば、それは本当の意味で孤独になってしまうだろう。……これは俺の生まれた環境や、今までの経験がそうさせているのかも知れないが。
「私には関係ないわ、もう充分に慕ってくれている仲間がいるもの」
ミーナは周りを見る。すると、ミーナと目の合った二人がうなずいた。
「……そう、じゃあこれ以上は聞かない。本当に二人を殺すからね」
「あなた……面白いことを聞くわね、ますます気に入ったわ。えぇ、お願いするわ」
ミーナは満面の笑み浮かべた。
――本当に、この家系にはやばいやつしかいないのか?
リロイしかり、カイルやミーナはとても常人とは思えないような言動が多々見られる。感性や考え方が根本から一般人と違い、どこか俺たちとは別の世界を見ているかのようだ。
「それでだけど、暗殺するにあたっていろいろと情報がほしい。まずは、二人の趣味嗜好とかを」
「そうね、お兄様はなんとしても皇帝になりたかった向こう見ずな馬鹿よ。無理やり皇帝となった今は、王国をなんとしても手中に収めようと躍起になっているわ」
うん、聞いていた通りだな。なんていうか、欲に忠実すぎて周りをあまり見れていない感じだ。俺が手を下さなかったとしても、いずれは別の要因で殺されるだろう。
「そして、お姉様は宝石にしか目がない愚者よ。まるで取り憑かれたように四六時中宝石を眺めているわ。基本的に宝石以外には興味がないような人ね」
「えぇ……」
やっぱり、アルドもやばいやつだったのか。この城、ちょっと人外魔境すぎないか?
「お姉様がお兄様に協力しているのは、王国が宝石の産地であるというのが大きい……というか、それが理由よ。主に資金提供をしていて、それなりに厄介なの」
「宝石が欲しいのなら、なんでこっちに協力しないの? 融和派の目的は王国とビジネス関係になることでしょ? なら、交易で宝石も手に入ると思うんだけど」
普通に考えて、それが一番合理的だろう。わざわざリスクを負ってカイルに協力する意味がわからない。
「そういう思考ができる人なら楽だったんだけどね、お姉様がこちらに寝返る可能性はほぼゼロよ」
「なんで?」
「お姉様はとにかく宝石を自分のものにしたいの。だから交易でちまちまとやるより、強引に鉱山を奪って自分のものにしたがっているのよ。私には到底理解できないわ」
「……なるほど」
難儀な奴だな。まぁ、私怨はないが依頼は依頼だ、暗殺することに変わりはない。
「じゃあ、二人が普段いる場所は?」
「お兄様は謁見室、お姉様は上階の展示室と一体化したような部屋ね。詳しくはベストに案内してもらって」
「わかった」
「ほかになにか聞いておくことはない?」
ミーナにそう問われるが、今のところは――あっ、結構重要なことを聞き忘れていた。
「結局、二人を排除してなにがしたいの? 王国とビジネス関係になりたいのは知っているけど、先のことが不透明でやりたいことがいまいち分からなかったんだけど」
「あぁ、そういえば言ってなかったわね」
「――ミーナ姉様、ここは私が」
突如、今まで沈黙をつらぬいていたマイルズが口を開いた。




