独裁の影響
「――もう一度言うわ、くれぐれも気をつけてね」
「あぁ、わかってる。できるだけ安全を心がけるから、そこまで心配しなくても大丈夫だ」
「そう、ならいいけどね」
屋敷の玄関を少し出た所に、俺たちはいた。
現在の時刻は朝六時という早朝。まだ太陽はあまり顔を出していなかったが、いくぶんか空は明るくなっていた。
「とにかく、もう行くから『仮面』を使うぞ」
俺はそう言い、ストレージから『虚実の仮面』を取り出し、顔に貼り付け魔力を流した。すると煙のようなものが発生し、体が熱を持つ。
しばらくすると煙は俺の体へと吸収され、そこにはアリスほどまで縮んだ俺の体があった。
「……私は初めて仮面を使っているところを見ましたが、不思議な光景ですね」
「まぁ、そうだな。俺はもう何度も使っているから、もう慣れてしまったんだが」
アルバニアはさも不思議そうにつぶやいた。確かに、俺も初めて見たときはかなり取り乱したものだ。
「アンジェ、言葉」
「あー……うん、そうだね、気をつけるよ」
アリスにひじで突かれ、俺はそう言葉を返した。
やっぱり、この姿でいるときは言葉を正されるな……いささか面倒ではある。
「本っ当に気をつけてよね! なにかあって傷が残ったりでもしたら許さないんだから!」
「う、うん、わかってるから。顔が近いって、怖いよ」
ジト目で、アリスは俺の両肩をつかみながら忠告する。是非もなく、俺はそう答えることしかできなかった。
「じゃあ、行ってくる! しばらくは頼んだっ!」
「あっ……!」
「いってらっしゃいませー」
俺は逃げるようにして屋敷を後にした。
あのままいれば、もっと小言を言われていたことだろう。だから、こればかりは致し方のないことだった。
―― ―― ―― ―― ――
レナード帝国の帝都にある正門は、ひどく混んでいた。門の前には長蛇の列ができており、苛立っている人も多数存在している。
しかし、その理由はすぐにわかった。
「――ここを通るには入市税銀貨十枚が必要です。お持ちでない場合は、ここを通すわけにはいきません」
門番は通行人に同じ言葉を告げていく。
多くの者は仕方がなく銀貨を払って中へと入っているが、強引に突破しようとした者は控えていた兵士が取り押さえ、どこかへと連れていった。
以前に来たときは素通りできたのだが、前とはすごい違いだ。やはり、これはカイルが独裁体制を敷いた影響だろう。
「ここを通るには入市税ぎ――あ、君は」
「ん? どうかした?」
ようやく俺の番になったので、門番に銀貨を十枚渡そうとした。しかし、門番は言葉を途中で止める。
「いや、覚えてないか? 前に酒場で、情報を対価に料理をおごってもらったんだが」
「あぁー思い出した、そういえばそんなこともあったね。ここで働いてたんだ」
確かにそういえば、酒場でこの人に情報を聞いたことがあったな。
あのときは結構役に立つ情報をくれたはずだ。今回も聞いておくことにしよう。
「ねぇ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「ここで入市税を回収するようになったのって、その……」
「あぁ、そうだ。カイル殿下――あっ、いや、今は陛下だな。陛下から『入市税を通る者から例外なく回収するように』と命令があってな、それでこうなっているんだ」
門番は『カイル殿下』と言った瞬間、しまった! といったような顔をした。かなり焦ったようで、この一瞬で動機が早まったのが見て取れる。
「……もしかして、言論統制とかあったりする?」
「ご想像にお任せするよ。……まぁ言っておくと、この状況はあまり長くは続かないだろうな」
げんなりとした様子でそう言う門番だったが、その予想には不思議と説得力があった。たぶんだが、なにか公にできないことでも知っているのだろう。
「――おいっ!! こっちはもう一時間も待ってるんだぞ! 早くしてくれ!」
「あっ、すまん! 俺は仕事があるからこの辺で!」
「……仕事、頑張ってね」
男の文句を聞いている門番を背に、俺は帝都へと入っていった。
――あっ、入市税を出し忘れた。……まぁ、別にいいか。




