信頼(1)
「――それで、また急用なわけ?」
「あ、あぁ……ちょっと外せない用事があってな」
俺は、帝国で独裁政治を敷いているカイルを暗殺することにした。
どうせ放っておけば、くだらないことをするのは目に見えているのだ。なら、とっとと排除した方がいいと考えた……のだが。
「ふーん、これで急用は二回目ね? しかも、今回もなにをするのかは言わないで、ね。なにかやましいことでもあるのかしら?」
「……いや、そんなことはない。ちょっと言うのは気が引けるというか、そのえっと……個人的な用事というか……」
アリスは笑みを浮かべながら俺に問いかける。だがそれと同時に、以前俺に何者かと迫ったときにも勝る気迫を放っていた。
ちょっと話があると言って二人を呼び、リビングで急用ができたと告げたらこうなった。心なしか、アリスの隣にいるアルバニアの眼光が鋭い。
俺の腹がキリキリと痛んだ。
「そういうのいいから。私はやましいことをしたのかと聞いたんだけど、ちゃんと話を聞いてた?」
「……あぁ」
「なら答えられるわよね? やましいことをしていない限りは、だけど」
端的に言って、怖い。
頭の中が真っ白になり、顔がこわばっているのを感じる。どんどんと受け答えがしどろもどろになっていく。
「いや、その……あー、えーと……」
「……」
アリスは俺の答えを黙って待つ。すぐにでも答えないといけないのはわかっているのだが、頭が真っ白で考えがうまくまとまらない。
そうして、数分がすぎた。
アリスの表情は笑顔からしだいに真顔となり、機嫌が悪くなっていくのがよくわかった。しかし、めまいがしてきて頭が回らない。
「――ねぇ」
急にそう言われ、俺の体はビクッと震えた。
「私たちのこと、信用できない?」
俺は言葉を返すことができなかった。
もちろん、二人のことは信用している。信頼しているといってもいい。でも、なぜか言葉につまってしまった。
「私はあなたのことを大体知ってるわ。だから、人となりは充分に把握しているし、趣味嗜好も知っているつもりよ。そして……これまでに、何度も助けてくれたり一緒に楽しいことをしたわね。だから、私はソータのことを信頼しているわ。背中を預けても、なんの不安もないくらいには。でも、もしソータがそうじゃないなら……私は腹が立つし、とても……悲しいわ」
そう語るアリスの涙腺は徐々に緩んでいき――そして、涙が頬を伝い落ちる。
俺はその光景を目の当たりにし、胸がズキリと痛んだ。
「ソータ……もう一度聞くわ。――私たちのこと……信用できない?」
「……ごめん。今まで隠してたこと、ちゃんと話すよ」
俺はレナード帝国で皇帝を殺したことや、ファーガス聖王国の研究所に無断で侵入したことなどを話した。
二人は驚愕を顔に浮かべたが、それは最終的に納得がいったというような表情に変わる。
「……なるほどね、なんでそこまで言いたくなかったか、よくわかったわ」
「ソータさん……あなたなにやってるんですか」
「……返す言葉もない」
俺はうつむいた。自分に対する失望で、自己嫌悪におちいる。
「――私はね、ソータが最初からなにかしら人には言えないようなことをしているのには気がついていたわ。だけど、いつかは教えてくれると思っていたの。だからなにも言わなかったわ。でも、いつになっても教えてくれないし、今回で二回目よ? だからこうやって問い詰めさせてもらったわ」
アリスはソファーから立ち上がると、俺の隣に再度腰かける。そして、俺の手に自分の手を被せた。
「別に私はソータのしたことを咎めるつもりはないわ。それに、レナード帝国の皇帝を殺したのは、私たちにこれ以上危害が及ばないようにするためなんでしょう? もちろん、ソータは大馬鹿者に違いないわ。こんなことがばれたら、終身奴隷になるのは確実だしね」
「……っ」
あらためて、今まで犯してきた罪の重さが俺にのしかかった。どれほどの事をしてしまったのか、それを再認識した。
「でも、私たちはソータの味方よ。だからなにか困ったことがあるなら、どんなことでも相談にのってあげるわ。そうよね? 姉さん」
「えぇ、ソータさんがいなくなればアリスが悲しみますし、私も悲しいです。ですので、可能な限りですが協力させていただきます」
「私たちは利害じゃなくて、信頼関係を基にした仲間よ。だから、次になにかあったらすぐに頼って。……いいわね?」
「……あぁ、すまなかった」
罪悪感や自分への嫌悪感……そして、それと同時に自分のことを信頼してくれているのだという幸福感を覚える。今までコソコソとバレないようにしていたのが馬鹿みたいだ。
――そうだ、周りには俺を信頼してくれている仲間がいる。これからは一人で悩む必要はないんだ。
「……そうね、ソータはちゃんと話してくれたし、そろそろ私たちも『あのこと』について話した方がいいかしら。どう? アルバニア」
「はい、問題ないかと」
俺は二人のやり取りに違和感を覚えた。二人の態度が、明らかにいつもとは違ったのだ。
「ソータ、私たちのこと……周りとは少し違うと思わない?」
アリスはそう言い、ニヤリと笑うのだった。




