不透明な存在
――どうにも考えがまとまらない。ここ最近はずっと帝国のことで頭を悩ませている気がする。
『カイル』を暗殺するか否か。どちらの場合でも、確実に面倒なことになる。
暗殺すれば、帝国の情勢が一時的に荒れるだろう。かと言ってなにもしなければ、また戦争が起きるのだ。
……ダメだな、単一の思考パターンで頭がいっぱいになってしまっている。こういうときは、気分転換をした方がいい。
俺は果ての森を歩いていた。目的地は俺がこの世界に来たとき最初にいた、遺跡のような建物である。
ここに来たばかりの頃はそれどころではなかったので、遺跡のことをあまり見れてはいなかった。だが今なら、この世界についてもある程度理解してきたので、今一度調べておいた方がいいと思ったのだ。
最初はひさしぶりに一人で魔物狩りでもしようかと考えたのだが、最近はこの辺の生態系も落ち着いているらしく、魔物は奥の方に引っ込んでいるらしい。
そのため、俺は狩りをするのをやめて、遺跡に向かうことにしたのだ。
ギルドの方針で、魔物を過度に狩るのは控えるように言われている。ただ、これは平常時に限った話なのだ。
考えなしに魔物を狩りすぎると、かえって一部の魔物が大量発生する要因を作ってしまいかねないそうだ。
冒険者ギルドの本質は、自然保護団体に近い。だが前のものと世界と明らかに違う点は、生物を積極的に狩るということだ。
魔物というのは、放っておけば結構な速度で勝手に増えていく。その状態が続くと縄張り争いが起き、その結果敗れた魔物がほかの場所に移動することで、また新たな問題を引き起こすのである。
だから適度に魔物を間引くのだ。
俺は遺跡に行くのにあたって、詳しく知っていそうな人――オーウェンに遺跡のことについて尋ねてみた。
その答えは、『付近にはどういうわけか知らないが人間のアンデッドがたくさんおり、とても危険だ。中はよく知らん』だそうだ。
俺が最初に出会ったアンデッドは一体だけだったが、どうやらそれ以外にも無数に存在しているらしい。
たぶんだが、遺跡の外に転がっていた人骨たちが動き出すのだろう。
「――おおむね、俺の考えていたとおりか」
前にも使った苔だらけの石畳に沿って数時間歩くと、唐突に道のわきに転がっていた人骨が独りでに起き上がった。それにともなって、ほかの場所からも同じように人骨が起き上がる。
その数はまだ四体ほどだが、それはまだ遺跡から少し距離があるからだろう。もっと近くまで行けば、もう少しその数も増えてくるはずだ。
とりあえず、手っ取り早く倒してしまうとしよう。
「……え?」
ストレージからバスタードソードを取り出し、いざ! と走り出そうとすると、なぜかアンデッドたちの動きが一斉に止まり、そのまま地面に崩れ落ちた。
俺はその様子に拍子抜けし、バスタードソードを下す。人骨に近づいてみるが、急に動き出すようなこともなかった。
「もしかして、このバスタードソードになにか関係があるのか……?」
いや、でもな……あの遺跡で手に入れたのは確かだが、それは違う気がする。しかし、このバスタードソードを取り出したとたんに活動を停止したのは、この目でしっかりと見たしな……。
バスタードソードを収納してみるが、人骨が再び動き出すことはなかった。
俺は気にせず遺跡を目指す。同様の事が数回あったが、それらもバスタードソードを取り出すと同じように活動を停止した。
どうやらこのバスタードソードが、あの遺跡となにかしらの関係があることは確実らしい。
遺跡の扉を開き、中へと入る。
最初に来た頃となにも変わっておらず、そこには静かに風音だけが聞こえる広場があった。その中央に果物が植わっているのも変わらない。
この広場からつながる廊下の部屋はすべて探索済みなので、ここは放っておくことにする。
なにか見落としがある可能性もあるが、別になにか新しい物が設置されるわけではないし、その可能性は低いだろう。
俺はさらに扉を通り、奥の広場へと足を踏み入れる。すると、そこには破壊されたマネキンの残骸と、俺がこの世界で最初に戦った骸骨が地面に転がっていた。
「あー……そういえば、そのまま放っておいたんだったな」
骸骨を眺めていると、そのそばに十センチほどの虹色に輝く結晶が落ちているのが見えた。
骸骨のアンデッドコアだ。確かここに来たばかりの頃はなにもわからず、怖かったので触らないことにしたんだったか。
俺はコアをつかみ上げると、ストレージに収納した。きっと、なにかの役に立つはずだ。
骸骨はそっとしておくことにすると、アーチ状の穴を通ってその先へと足を踏み入れた。そこは、俺がこの世界に転移してきた際にいた、祭壇のような物がある場所だ。
この場所も、なにも変っていなかった。しいて言えば、最初に骸骨がいた場所には、何もなくなっていたことぐらいか。
しばらくその光景を眺めていると、祭壇のふちに小さく文字が書かれているのが見えた。
「……読むことはできないか。あっちの遺跡に書いてあった言語とも違うみたいだし、あそことは違う年代に作られた場所なのかもな」
規則性があるので意味のある文字なのはわかるのだが、それ以外のことはどれだけ考えてもわからなかった。
聖王国の遺跡とは明らかに文明レベルが違うし、やはりあそこのものとは作られた時代が違うのだろう。
俺は小一時間ほど、祭壇付近を重点的に調べてみた。だがしかし、なにも目新しいものは見つからなかった。
――ただ、当初の目的は達成したようなものだ。
この遺跡を探索したことでいい気分転換をすることができ、俺の中にあった悩みに終止符をうつことができた。
考えがまとまったことで、自然とやる気もでてくる。
「うん、決めた。早く帰っていろいろと準備しないとな」
少し名残惜しさを感じつつも、俺は遺跡を後にした。




