動乱の序章
三十畳ほどのとある一室には、ほのかな緊張感が漂っていた。
見るからに高級そうな家具が立ち並んでおり、この部屋の持ち主は裕福であるということがうかがえる。
「――なるほどねぇ……『お兄様』はこのまま独裁体制維持して、もう一度王国に攻めるつもりと。愚かなことだわ、自らの首を絞めているのに気がつかないなんて」
「『ミーナ姉様』の言うとおりですね、『あれ』の蛮行はとどまることを知りませんから。おのれの考えを絶対的に正しいものと信じて疑わない、愚物の末路ですね」
「幸い、『カイル殿下』は近々に動くつもりはなさそうです。手を打たれるなら、できるだけ早いうちがよろしいかと」
小さな円卓をかこむのは、三人の男女。二人は椅子に座っているが、一人は立ったままだ。
立っている女はメイド服を着込み、凛とした雰囲気を纏っている。
そして座っている男女は共に茶髪の碧眼であり、顔の輪郭などが似通っていた。血のつながりがあることは明らかである。さらに、二人は誰がどう見ても高価な服装を纏っていた。
「そう言われてもねぇ……護衛の状況は固いのでしょう?」
「はい、どのような時でも護衛をつけており、全く隙がなかったと言っても過言ではありません」
「じゃあ、裏から消すのは却下ね。民衆を煽って暴動を起こさせるのは?」
「それも厳しいかと。暴動が起きたとて、すぐに騎士たちによって鎮圧されるでしょう。並みの者では到底騎士には敵いませんから。さらにそのようなことがあれば、抑止力として首謀者や扇動者は公開処刑されることとなるでしょう。そうなれば、お二方も危険にさらされます」
メイドは心底心配そうな表情を浮かべており、二人のことを本気で心配しているのだと物語っていた。
「少なくとも、いま我々にできるのは裏からの根回しくらいしかありませんね。有効な切り札はありませんし」
「そうねぇ……『ベスト』は再度裏からいろいろと探ってちょうだい。『マイルズ』は私と引き続き案を考えてもらうわ」
「御意のままに」
「かしこまりました、ミーナ姉様と一緒にいられるのであれば」
今後の方針を決めると、三人は各々の役割に面を向けた――。
―― ―― ―― ―― ――
「――おいっ、税金の徴収はどうなっている?」
「はい、多少の混乱はありましたが、滞りなく回収されております」
「ならいい。税金もまともに払えんような奴は、捕まえて強制的に働かせろ。働くことすらもできないような無能は、我が国には必要ないからな」
「かしこまりました、そのようにいたします」
絢爛豪華な一室にある王座にふんぞり返り、執事に命令を下しているのは、第一皇子である『カイル・メルキオール・ヒドルストン』。軍部を我が物顔で使い、正当な選挙を差し置いて皇帝となった下郎である。
「『ミーナ』と『マイルズ』の方も問題ないよな?」
「ご安心を、きちんと幽閉されております。監視体制も万全です。しかし、少々気がかりなのはあのメイドですね」
「『ベスト』、だったか。あれは隠密の手練れだからな、確かに今の体制では抑えることができんだろう。だが、たかが一人ではなんの脅威にもならん。今の厳格な体制を突破できるほど、あれには力がないからな。放っておいて問題はない」
カイルのいるこの部屋にはつねに護衛が十人以上おり、これをしりぞけてカイルに危害を加えることのできる者は、あいにく帝国には存在しなかった。
「護衛は十二分に配置しておりますので、確かにこれを抜けはしないでしょう。しかし少々心配ではあるので、誠に勝手ながら身辺の護衛をより増員させていただきます。それと、構成員にも気を使い、スパイを防止することも心がけておきます」
「あぁわかった、しっかりとたのむ。ミーナとマイルズにも、誰が皇帝として相応しいのか身をもって知らしめる必要があるからな。あいつらを排除する手筈も整えておけ」
「承知しました。事故を装い、排除する方向で準備を進めさせていただきます」
カイルは執事のその言葉を聞き、悪辣な笑みを浮かべるのだった。




