別れ
メイソンへと帰還したのち、さらに馬車に乗って王都へと戻ってきた。そして、俺はアリスとアルバニア、そして氷室にセレスティアと一緒にいた。
いま俺たちがいるのは、教会の目の前だ。
「今一度言っておくよ。ありがとう、最後までつき合ってくれて」
「気にすんな、いったい何度目だよ。それに、別に善意だけで協力したわけじゃないしな。利があっての行動だ、そこまで感謝されるいわれはないぞ」
今回の依頼では多額の報酬――それこそ、すき焼きを何百回行ってもまだお釣りが返ってくるほどの金額を受け取っている。それは、最初に提示された金額とは二倍近い差があるのだ。
まぁ、最初は調査だけを行う見込みで提示された金額なので、それよりも高くなるのは当たり前なのだが。
あとそれに加え、あのドラゴンのコアを半分ほど譲り受けていた。
半分でもなお、アリスの身長よりも大きいのだ。換金すればとてつもない金額になるだろう。……する気は一切ないがな。
「うん、でもそれくらい感謝しているんだ。三人がいなかったら、僕は今どうなっていたか……感謝してもしきれないよ」
「そうか。――まぁ、なんか困ったことがあれば一報くれ、可能な限り協力するぞ」
「わかった。じゃあ奏多もなにかあれば連絡してね、助けに向かうよ」
そう言うと、氷室は手を差し出してきた。俺はそれに応じ、手を握り返す。そして、俺たちは小さく笑みを浮かべた。
これで、聖王国の教会が敵になる最悪の事態は未然にふせげそうだ。それどころか、まずい状況になれば勇者である氷室の力を借りることができるようになった。これほど心強いことはない。
「――あぁそうだ! いつか折を見てチェイスまで会いに行くよ。あまり時間はないから一年に一回とかになりそうだけど、行ってもいいかな?」
「全然かまわない。俺も近くに用事があったりしたら、積極的によることにしよう。せっかく友達になったんだし、ここで疎遠になるのは嫌だからな」
「『友達』……うん、約束だよ?」
「……ん、わかった」
氷室は人がいい笑顔を浮かべた。
「――別れは済んだかしら?」
「あぁ、待たせたな」
俺と氷室のやり取りが終わるのを待っていたアリスが、用意されていた馬車の中から俺に言葉をかけた。すでに馬車にはアルバニアも乗っている。
この馬車は、氷室とセレスの二人が気を利かせて手配してくれた、貸切の馬車だ。料金はあっち持ちで、チェイスまで送ってくれるらしい。
こんなものを手配しておいて『全然気にしなくていい』と言うんだから、教会の財力は恐ろしいものだ。本当に教会を敵に回すことにならなくてよかった。
俺も馬車に乗りこんだ。
「じゃ、またな」
「ご一緒できて嬉しかったです」
「お二方もお元気で」
「うん、じゃあね」
「またお会いしましょう」
馬車が走り出すと、俺たちは手を振りながら二人と別れたのだった。
―― ―― ―― ―― ――
「――行ってしまいましたね」
「……はい、そうですね」
氷室はセレスティアに声をかけられて、そう返事をする。から返事ともとれるその言葉に、セレスティアはいたずらな笑みを浮かべた。
「初めてできた友達との別れはつらいですか? 本当に楽しそうでしたからねぇ」
「い、いや、別に初めての友達というわけでは……」
「上辺だけの付き合いの者は友達とは言いませんよ? 本に友達といえるのは、あの方々くらいではありませんか?」
「……否定できませんね、なんか悔しいです」
げんなりとした表情を浮かべ、氷室はそうつぶやく。その様子に、セレスティアは勝ち誇った顔を見せた。
「……いや、セレスティア様だって私とたいして変わらないではありませんか! なに勝った気になっているんです?」
「なにを言います、私には両手では数え切れないほどの友人がいるのです」
「そうなんですか? 私はこれまでにそういった方々は、一度も見たことがないのですが」
氷室はセレスティアにジト目を向ける。
「……その方々は私にしか見えないのです。昔はよく一緒に遊びました」
「それ、『イマジナリーフレンド』っていうんですよ。今の友達にはふくまれませんよ、もう見えないでしょうに……」
二人は言い合いを続け、しばらくすると教会の中へと戻っていった。その頃には、氷室の顔に別離の面影は見られなくなっていた。




