深淵の慟哭(2)
俺たちはドラゴンの出方をうかがう。双方が示し合わせたように動かなくなり、膠着状態が続いた。
しかし、しばらくしてそれを破ったのはドラゴンの方だった。
ドラゴンは走り出すと、勢いよく俺に前足を叩きつけてくる。それをよけると、今度は尻尾を俺めがけて振り下ろしてきた。
……ちょっと、俺へとヘイトが溜まりすぎじゃないか?
「ガアアアアアアアアアァッ!!」
咆哮を上げると、ドラゴンのまわりに漆黒の槍のようなものがいくつも現れた。どす黒いその槍の長さは一メートルほどもあり、それが無数にドラゴンの周りを浮いている。
漆黒の槍は連続して放たれると、それは俺へと殺到した。俺がよけると槍は地面へと突き刺さり、その周辺が黒く変色する。
「ブラストウォーター!!」
よけてもよけても槍は収まらずなにも手出しできずにいると、アリスが水球を放った。それはドラゴンの首元へと飛んでいくと、コアに直撃する。
「グギャアアアアアアアアアァッ!?」
先ほどとは比べものにならないほどの悲鳴を上げ、ドラゴンはしばしよろついた。
コアを見てみると、一筋の亀裂が入っている。あまり大きくはないが、それでもコアが傷つくというのはアンデッドにとって、致命傷なのだ。
だがこのドラゴンほどの存在になると、致命傷ではないようである。
ドラゴンの眼の光がさらに強くなる。
ひとたび唸ると、ドラゴンの体の周りから赤い稲妻が走り出した。そして、その状態でアリスに突進していく。
その際、ドラゴンの眼は強力な光を放ち、空中に残光を描いた。
アリスはなんとかよけたが、ドラゴンはすぐさまターンして再びアリスに突進を加えようとする。
「ファイアボール!!」
俺はドラゴンを食い止めるために、火球をいくつも放つ。すると、狙い通りドラゴンはアリスから離れると、今度は標的を俺に移した。
俺は突進をよけるために体勢を整えたが、ドラゴンは向かってくる途中口の中に赤い球体を生成する。
それを見た瞬間、俺はその場を一目散にとんで回避しようとした。だがしかし、最善策は転移魔法を使って回避することだったのだろう。
「がはぁっ!?」
俺の近くに来た瞬間、ドラゴンは赤い球体を意図的に爆発させる。それによって強烈な爆炎と衝撃波が生じ、俺は吹き飛ばされた。
なんとか体勢を立てなおし、俺は立ち上がる。ぎりぎり内臓は無事だったようだが、少し髪が焦げたようでタンパク質の焼けた臭いがした。
俺が吹き飛ばされてもドラゴンは手を緩めず、追撃を開始する。しかし、そこへ魔法と矢が飛んできて、ドラゴンの体を貫いた。
まともなダメージにはなっていないが、ドラゴンは俺から標的を移す。俺はその隙を逃さない。
ドラゴンの纏う稲妻に当たれば、ただでは済まないだろう。しかし、これ以降再びチャンスがやって来るとは限らない。
ここは多少の怪我を覚悟してでも、攻撃するべきだ。
捨て身の覚悟で俺は走り出す。そしてドラゴンの首の下までくると、俺はバスタードソードを振り上げた。
突然のことに驚き、ドラゴンは悲鳴を上げる。コアにはさらに深い傷がついていた。
その際赤い稲妻が俺を襲い、全身に激痛が走った。しかし俺は痛みを我慢し、ドラゴンから離れる。
ドラゴンはよろめいており、心なしか眼の光が弱く、そして体を構成する陰が薄くなってきている気がする。稲妻もきれいさっぱり無くなっており、確実に弱ってきているのを感じた。
「一気に畳みかけるぞっ!! ブラストボール!!」
「わかった!! シャイニングアロー!!」
「ブラストウォーター!!」
「はぁっ!!」
俺たちは魔法と矢を放ち、逃げ場がないほどの攻撃をドラゴンにくわえた。
ドラゴンは逃げようとしたがそれはかなわず、コアを中心に攻撃が殺到する。ドラゴンはそれに耐えきれず、地面に倒れ込んだ。
俺はドラゴンに近づき、バスタードソードでコアへと突きを放つ。
「ギャガアアアアアアアアアアアアアァッ!?」
見事バスタードソードはコアへと突き刺さり、ドラゴンはけたたましい悲鳴を上げる。暴れ出したので、俺はバスタードソードを引き抜きドラゴンから離れた。
――だがその瞬間、ドラゴンの首はこちらへ向くと、口の中に赤い球体を生成した。そして、薙ぎ払うようにして光線を俺たちに向けて発射する。
転移したり高くとんだりして、俺たちは光線をよける。そして、光線を出し終えると、ドラゴンの頭はばたりと地面に崩れ落ちた。そのまま動く気配はない。
どうやら、ドラゴンは俺たちを道づれにするつもりだったようだ。
次第に眼の光は失われていき、陰が空気中の溶けるように消えていく。そして、その場には虹色の巨大なコアだけが取り残されたのだった。




