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深淵の慟哭(1)

 結晶が空に浮かび上がったかと思うと、そこから虹色とは相反するどす黒い煙のようなものが発生しだした。そして、それは巨大な球状になったかと思うと、今度は何本も突起物が伸び始める。


 俺たちがそんな光景に絶句している間にも、それは変異を続ける。

 突起物はやがて手足のようになり、頭部や尻尾のようなものまでもが形成された。そして変異を終えると、それはドシンッ! という音と共に地面へと降り立った。


「こ、こいつは……!」

「ガアアアアアアアアアァァァッ!!」


 ――それは、伝承にさえも語られる存在。

 体は暗黒の陰により構成され、体長は二十メートルほどもあった。強靭な足を地につけ、尻尾は長く同様に首も長く太い。背中から翼のような器官も伸びてはいたが、それはかなり小さかった。

 口は大きく張り裂け、そこからは無数の牙が生えている。鋭い眼光を俺たちに向けてきてはいたがそこに眼球はなく、代わりに赤い光球が眼窩(がんか)に浮かんでいた。


「……ドラゴン」


 そう、それの正体はおとぎ話によく出てくる、『ドラゴン』だった。しかし、どうやらこのドラゴンは普通の存在ではないようだ。

 首元には虹色の結晶――アンデッドコアが埋まっており、すでに死んでいる……いや、もはや俺にはどういった存在なのかはよくわからない。ただ一つ言えるのは、ちょっとまずい状況になったということだ。


「氷室、魔法は……?」

「……弱い魔法は多少使えるけど、強力なのはあと一時間は使えない」


 となると、氷室の力を当てにすることはできなくなったわけだ。氷室がいれば安心だと思っていたのだが、正直これは本当にまずい。


 ドラゴンのランクはS+だ。こいつが当てはまるのかはわからないが、ドラゴンと同等、もしくはそれ以上に強い可能性がある。

 俺たちでは明らかに力不足だ。勝てるなんて、とても思えなかった。

 しかし、逃げるなんて選択肢はない。逃げきれたとしても根本的な解決ができるわけではないし、こんな存在を野放しにはできないのだ。


 一度引いて態勢を立て直すという手もある。氷室はあと一時間もすれば本調子に戻るのだ。一度引いてから、再び《アストラルレイ》を打ってもらうという手もあった。

 だが、もし目を離した隙にこいつを見失ってしまった場合、それは最悪な事になりかねないのだ。

 だからこそ、ここで逃げるという選択肢はない。


 ドラゴンは前足を振り上げると、俺たちのいる場所へと振り下ろしてきた。俺たちはそれをかわす。


「やるぞ!! 氷室はできる限りでかまわないから、援護に回ってくれ!」

「わかった! 前線は頼む!」


 俺が見たところ、氷室はあまり調子がいいようには見えなかった。この状態で前線に立たれるのは、さすがに不安である。

 心もとないというのも事実だが、無理をしてケガをされてもこいつを相手している状況ではカバーしきれないのだ。

 そんなリスクをおかしてまで、前線に来てもらうわけにはいかない。


 俺はバスタードソードを取り出し、ドラゴンの下へと走り出す。ドラゴンは少し息を吸ったかと思うと、黒い霧のようなものを吐き出してきた。

 それを転移してよけると、バスタードソードで前足を斬りつける。しかし、なにかを斬った感覚はあったが、全くダメージになっている気配はなかった。

 それならば、狙いづらいがコアを直接狙えばいいだけだ。


 コアに攻撃するために近づこうとするが、ドラゴンは再び前足を叩きつけてくる。しかし今回叩きつけたのは、俺たちがいる場所とは全く関係のない場所だった。

 なにがしたかったのか疑問に思っていると、ドラゴンの体を構成する陰が地面へと吸い込まれていく。そして、ドラゴンの周りの地面が黒く変色し始めた。


 本能的にここにいてはまずいと感じ、俺はすぐにドラゴンから離れた。その瞬間、変色した場所から暗黒の炎を立ち昇る。

 もしその場に居続けていたら、今ごろは黒焦げになっていたことだろう。


「ウォーターカッター!!」

「シャイニングアロー!!」


 アリスと氷室が魔法を、アルバニアが矢を放つ。

 魔法はすべて陰の部分に当たり、全く効果がなかった。矢はコアへと直撃したが、突き刺さったり傷をつけたりすることはできずはじかれた。

 だがしかし、コアに攻撃が当たったからか、さらにドラゴンから反感を買ったようだ。


「ガアアアアアアアアアァァァッ!!」


 ドラゴンは咆哮を上げると、光線の予備動作を始めた。しかし、今回は赤い球体が見えた瞬間には準備が完了したようで、強烈な光と音を発しながら光線が発射された。

 以前に見たものよりは何倍も細いが、それでも当たればただでは済まないだろう。


 その場から身を投げ出すようにして回避を行うと、光線が俺たちをかすめる。それだけで、すさまじい熱量を感じた。

 もはや一度食らってしまえば、跡形もなく消滅してしまうのではないかと思えるほどだ。その予想は、光線が通った場所の赤熱した地面を見れば、なお強まった。


「少し時間のかかる魔法を使う!! ちょっとの間気を引いててくれ!!」

「わかった!」

「了解です!」

「できるだけ早くしてよねっ!」


 俺はそう告げると魔法の準備を始めた。その間、三人は魔法や矢を放ってドラゴンの気を引こうとする。

 その目論見は成功し、三人に向けてドラゴンはどす黒いブレスを吐き、尻尾を振るう。しかし、その攻撃はことごとくかわされた。

 そして、しばらくして魔法の準備が整った。


「みんな離れてくれ! いくぞっ!!」


 俺はスターデュームで作り出した球体を、ドラゴンに向けて打ち出した。

 赤色巨星のような球体はまっすぐ飛んでいくと、ドラゴンの左前足あたりで大きな爆発を引き起こす。


「グルゥ……ッ!」


 ドラゴンはよけようとしたため狙った胸部あたりではなかったが、その周辺にあった陰を爆発は焦がした。ドラゴンは苦しそうに呻き、後ろに飛ぶ。

 そして、俺たちはドラゴンとにらみ合う――。

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