一筋の光
――その姿を例えるならば、骨そのもの。人型ではあるものの、かなり異形な姿をしていた。
胸部が異様に膨張しており、そこは強固な骨の鎧によって守られていた。
腕はかなり長く、立っていても手をつくことができるほどだ。
頭部はほかの部位と比べるとあり得ないほど小さく、四対ある目は不気味に赤く光りを放ち、口は獣のように大きく裂けている。
そして、それらを支える足は太く、容易に傷つけることはできないと思えるほどだった。
だが、最も脅威なのはその大きさ。
体長は優に百メートルを超えているのだろう。俺たちとはそれなりに距離があるにもかかわらず、その姿は大きく鮮明に見えていた。
「これが……『死と破壊の権現』」
言い得て妙だ。もし、俺が初めてこいつを見て異名をつけるとしたら、似たり寄ったりなものになるだろう。
「オオオオオオオオオオオオォォォ……ッ!!」
空気が揺れるのを感じるほどの大きな咆哮を上げたと思たら、巨人はゆっくりと歩み始めた。
「ちょ、ちょっと! これ、どうするのよ!?」
「い、いや……どうするんだ!?」
「……っ、シャイニングレーザー!!」
俺たちがどうするか決めかねていると、氷室が光線を放った。
光線はまっすぐ巨人へ飛んでいくと、その胸部を焼き付ける。しかし、全く傷ついているようには見えなかった。
「……効いてないか」
氷室はくやしそうに手を握りしめた。
攻撃を受けたからなのか、巨人の小さな顔が俺たちのいる方向に向く。そして、口を開いたかと思うと何かが一点に集まり始め、赤い球体が現れる。
たぶん……いや、高確率であの光線の予備動作だろう。
一撃で山が砕け散るほどの威力があるんだ、もしそれを俺たちがくらいでもしたら……。
「ブラストボールっ!!」
俺は咄嗟に爆発する火球を放った。
火球は今にも光線を放ちそうだった巨人の口の中へ飛んでいき、そこで爆発する。すると、どうやら収縮していた赤い球体に誘爆したようで、今度は比べものにならないほど大きな爆発を引き起こし、黒煙を上げた。
「オオオオオォォォ…………ッ!!」
「よしっ!」
巨人はひるみ、一歩後ずさる。しかし、しばらくすると何事もなかったかのように再び歩き出した。
そして巨人が少しかがんだかと思うと、持ち前の巨腕で地面をすくい上げる。すると、土砂や生えていた木などを巻き上げ、それらを俺たちのいる場所に飛ばしてきた。
「みんな集まれ!! 転移するぞ!!」
俺がそう言うと、三人はそれぞれ俺の体に手を触れる。そして転移魔法を発動すると、今までいた場所から三十メートルほど離れた場所の上空へと転移した。
特に怪我をすることもなく、俺たちは地面に着地した。どうやら今ので俺たちを見失ったようで、しばらく巨人は周囲を見回していたが、見つけられなかったのか再び歩き出す。
「……なぁ、どうするんだ? 正直、俺はお手上げだぞ」
「私もダメそうよ」
「今回はお役に立てそうにありませんね……」
正直言って、俺たちではどんな攻撃もあの巨人には通用しないだろう。
今回頼れるのは、氷室しかいないのだ。
「……わかった、僕がやるよ。強力な魔法を使う。代償としてしばらく複雑な魔法は使えなくなるけど、それでもいい?」
「いや、もうそれしかできることはないだろ。俺たちじゃ力不足だ。……頼むぞ」
「うん、それじゃあ準備するよ。発動には時間がかかるし、準備している間は無防備になるから、なにかあったら教えてほしい」
そう言うと、氷室は目をつむった。なにもしていないようにも見えるが、その内ではとてつもない量の魔力が渦巻いているのがわかる。
しばらく経ち、氷室は目を開けると空に手を掲げた。
「《アストラルレイ》!!」
氷室は魔法名を口にしたが、なにも起こらなかった。しかしその少し後、空から巨人のいる場所へ一筋の光が降りてくる。
次第にその光は太くなっていく。だが、突然その光は巨人を覆い隠すほどになり、強力に降り注いだ。
「オオオオオオオオオオオオォォォ……ッ!?」
物理的に天を裂くほどの光が、巨人の体を蒸発させ始める。
苦痛を感じているのか、いないのか。巨人は悲鳴のような声を上げると、後ろ側へと倒れた。それだけで大きな地震を引き起こし、地を揺らす。
「ぐっ……!?」
俺やアリスとアルバニアは地震により膝をついたが、氷室はまた違った理由で膝をついたように見えた。
「大丈夫か?」
「あぁ……うん、ちょっと反動でね。もう大丈夫さ」
俺は手をつかみ、氷室を立ち上がらせた。
さっきまで巨人がいた場所を見る。今のところ起き上がってくるような様子はないが、きちんと活動を停止しているか確認した方がよさそうだ。
……ただまぁ、あんな高威力の魔法を受けてまだ動けるとは考えづらいのだが。
「歩けそうか? なんなら肩ぐらい貸すが」
「いや、大丈夫。平気だよ」
俺たちは巨人が倒れた場所まで歩いて行く。それなりに距離があったが、十数分ほどで来ることができた。
そこは完全に更地となっていた。
以前まではここに森が広がっていたはずである。しかし、もはやその面影は一切ない。
この光景こそが、さっきの魔法にどれほどの威力があったのかを、如実に示しているだろう。
更地を歩き、巨人へと近づく。こうして見てみると、より一層巨大なことがわかった。
しかし、これを調べるのは手間だな。
「……ん?」
どうやって調べようか考えていると、唐突にミシッ! と巨人の胸部あたりから何かの軋む音が聞こえてくる。その音は何度も聞こえてきたかと思うと、勢いよく半透明なものが空に浮かび上がった。
それは三メートルほどの結晶で、虹色に光り輝いているのだった。




