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禁忌に触れし者たち

「……あんた、誰だ?」

「私は『ジェフリー』。大いなる我らが『主』にかしずき、その方を忌々しき桎梏から解放せんとする者!」


 ジェフリーと名乗った男は両手を空へと掲げ、大きく声を上げた。

 その姿からは狂気的なものがにじみ出ており、どこか不気味な雰囲気を漂わせている。


「ジェフリー……確か、あの邪教の……」


 氷室は小さくそうつぶやいた。口ぶりからすると、どうやらこの組織のことを知っていたらしい。


「知っているのか?」

「……うん、『破滅こそが真なる救いである』と謳う、邪教集団の幹部だよ。一時期過激なテロ事件を何度も起こした、今では『ペシミズム教』と言われている破滅主義者たちさ」


 おいおい、過激派の宗教団体かよ……物騒だな。


「最近ではめっきり見なくなったと思ったら、こそこそととんでもないことを企んでいたみたいだね」

「かの勇者様に名を知っていただけていたとは、うれしきことですな。もっとも、その勇者様が来たとしても、現状をどうにかすることはできないのですが」

「どういう意味だ?」

「すでに儀式は終えました。あとは、我らが『主』が復活なされるのをただ見届けるだけ。もうそれを止める術はないのですよ」


 ジェフリーは満足そうにほほ笑み、そう説明した。

 もう止める術はない。それが本当なのかはわからないが、その様子からは全く焦っているようには見えなかった。もしかしたら嘘偽りなく、本当のことなのかもしれない。


「……なるほど、以前から言っていた『主』というのは、『死と破壊の権化』のことだったのか」

「ご名答。我らが『主』は慈悲深いのです。どのような悪人であろうとも、等しく救いをお与えくださる。ほかの偶像の神々とは違い、事実! 我らが『主』はここに存在している! 嗚呼っ! 我らが『主』に栄光あれ!!」

「……狂人が」


 氷室はジェフリーの異常な言動に小さく、だがはっきりと聞こえる声でそう吐き捨てた。酷く冷淡で、今までの態度とのギャップがすさまじい。

 たぶんだが、以前にこいつの手によって面倒事にあわされたのだろう。因縁じみた思いが、ひしひしと伝わってきた。


「本当に、本当に我らは恵まれている! あの忌々しき『守護者』も倒れ、儀式もつつがなく終えた! なんと、なんと素晴らしきことかっ!!」

「守護者? なんだそれは?」


 俺はジェフリーの言葉に出てきた単語に疑問を持った。これまでに守護者のような存在は見ていない……わけではないが、心当たりがない。


「ここから一日ほど歩いた場所に遺跡があるのです。守護者というのは、そこに鎮座している肉の柱のことを言っています。あれは、尋常の者では太刀打ちできないほどに強力です。事実、我々はなにもできずに手をこまねいていたのですから」

「あぁ、あのアンデッドか。あれなら俺たちが倒したぞ。――ん? まて、そいつが『守護者』なのか?」


 ……ちょっとまて、こいつらは守護者とやらが倒されて喜んでいるんだよな。もしかしたら、俺たちはとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。


「――くっ、くくく……なんと、なんということだ!! 守護者を倒したにもかかわらず、なにも事情を知らなかったとは! 実に愚かしい!」


 ジェフリーは込み上げる笑いをおさえることができず、盛大に大笑いを上げた。そして嗜虐的な笑みを浮かべ、俺たちをバカにし始める。


「あのアンデッドは、我らが『主』をこの地につなぎとめていた楔(くさび)にとって、大きな役割を持った存在なのですよ。あれがいるだけで、封印の強度は倍以上にもなるのです。それに、あれは先(・)代(・)勇(・)者(・)の(・)成(・)れ(・)の(・)果(・)て(・)。当時の勇者は『主』を殺しきることはできず、自らの命を投げうってどうにか封印することができた。それを今代の勇者一行が倒すとは……くくくっ、なんとあさましい!!」

「……な、なんだと」


 氷室は動揺を隠し切れず、そう言葉がもらす。

 なにも知らなかったとはいえ、知らず知らずのうちに敵の思惑に荷担してしまっていたとは……やってしまったな。


 そんなこんなしていると、再び地面が揺れだした。しかも、今回のはかなり大きい。立っていることができず、俺たちは地面にひざをついた。


「おおっ! ついに『主』が復活なされる! さぁ、者共!! いつまでも勇者一行をここに居座らせるわけにはいかない! これも最後の大仕事! 身命を賭して、侵入者を排除せよ!!」


 地震が収まるや否や、ジェフリーは周りにいた者たちに俺たちを排除するよう命令を下した。すると、その場にいたすべての……それも研究者のような者たちまでもが襲いかかってくる。


「くっ……! ロックシュート!!」


 俺は切りつけてきた剣士の斬撃を防ぎながら、ジェフリーに岩を射出する。

 それなりの速度を出していたのだが、なぜかジェフリーは一切よけようとせず、岩によって頭を潰された。しかし、周りからの攻撃は一切緩まない。


「ウォーターカッター!!」


 アリスが水の刃を放つと、それによって何人も巻き込まれた。

 ここにいる者たちはあまり強くなく、それこそあまり狙いをつけずにバスタードソードを振っただけでも、防ぐことができないほどだ。メインの戦力は、すでに倒しきっていたらしい。


 そういったこともあり、五分とせずに周りにいた者たちは壊滅し、俺たち以外に立っている者はいなくなった。


「うおっ!?」

「――っ! 大きい……っ!」


 今までに感じたことがないほどの大きな揺れを感じ、俺たちは倒れ込むようにして地面に手をついた。


「――オオオオオオオオォォォ……ッ!!」 


 地面の下から、不気味なうめき声のような音が聞こえてくる。

 全く生物味を感じられず、まるでせまい場所を強風が吹き荒れたときのような音が周囲に響きわたった。


 次の瞬間、離れた場所にあった山が一瞬光ったかと思うと、凄まじい音と共に空に赤い極太の光線が伸びた。

 そして光線が収まったのかと思うと、そこから白く巨大なモノが這い出てくるのだった。

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