しじまに潜む陰(2)
「アリスとアルバニアも問題ないな?」
「えぇ、前に盗賊を殺めたことくらいはあるしね。別に忌避することではないわ」
「私も問題ありません」
冒険者のように町から町へと多く移動する職業の者は、盗賊に襲われることがよくある。
あまり移動しない者でさえ少なからず遭遇するのだ。よく移動する冒険者は、必然的にかなりの確率で盗賊と遭遇することになる。
報奨金を得るためには、首か身柄そのものが必要になる。
縛って連れていくのか、首だけを持っていくのか……。そのどちらが簡単なのかと言えば、当然首だけを持っていく方である。
そういった理由があり、冒険者は殺人に慣れている者が多くいるのだ。
「――話し合いは済んだか?」
俺たちが話し合いを終えたと見るや、黒装束たちの中にいた一人が俺に話しかけてきた。
そいつの声は最初に聞いた男の声と全く同じだったのだが、見事にその姿からは性別を推測することはできない。声を聞くことができなかったら、男だと判断することはできなかっただろう。
「……ずいぶんと悠長だな。すぐにでもここから立ち去ってほしかったんじゃないのか?」
「あぁ、その思いはとんと変っていない。しかし、それならば話し合いで解決するというのも一興ではないか?」
「なにを馬鹿なこと言っているんだ? そもそも、最初に攻撃してきたのはお前たちの方だろ? そんな奴らとなにを話し合えと?」
なぜ男がこんなにも悠長に会話しているのか、俺には全くわからなかった。
なにか目的があるのは間違いない。しかし、それが一体どんなものなのか、そしてその思惑は一切わからなかった。
「単刀直入に聞くが、なにが目的だ?」
「ふむ、我々は迷える者を導くためにここにいる。それが我々の責務であり、目的だ」
「それにしてはずいぶんと物騒だな。俺たちを殺そうとしたのはどういうことだ?」
「最初は魔物だと思ったのだ、しかし途中で人と気づいたのでな。それ故、致し方ないことだ」
なんだこの、なんとも言い表せない違和感は……。結局、こいつらはなにがしたいんだ?
俺が見た感じでは、男が焦っているようには見えない。それどころか、本当に話し合いをしようとしているように見えた。
ここで俺たちと話し合いをして、黒装束たちに一体どんな利益がある? 正直言って、こんな事をしていても時間の無駄だろう。
――いや、ちょっとまて。もしかして……会話を長引かせること自体が目的なのか? ということはつまり……!
「目的は時間稼ぎか!」
「ふむ、ばれては仕方がないな。素直に引き返しておけばいいものを……やれ!」
男が手を横に振ってそう命令すると、黒装束たちは再び森の中に消えていく。そして、四方八方から投げナイフが飛んできた。
俺たちは投げナイフを叩き落とし、当たらないようにかわす。だがそこへ、不規則に黒装束たちが突撃してきた。
ダガーを手に持ち、息の根を止めようと俺たちの首めがけて刺突を繰り出す。虚をつくようなタイミングであり、確実に俺たちを殺そうという意志が見て取れた。
俺は突っ込んできた黒装束の首めがけて、バスタードソードを振るう。すると、その黒装束はよけることができず、首を斬り裂かれ絶命した。
黒装束たちは隠密が得意であるようだが、幸いなことにどうやら直接的な戦闘はあまり得意ではないようだ。
突っ込んでくる黒装束たちを、俺たちは次々となぎ倒していく。
俺たちが一方的な状況であるにもかかわらず、不気味なことに黒装束たちがひるんでいる様子はない。それどころか俺たちを足止めするためならば、自分の命をなげうつ覚悟さえあるように見えた。
それほどに目的を達成したいのか、それとも上司に逆らうことはできないのか。
森の中に隠れられては対処がめんどくさい。それに時間稼ぎが目的なら、ここであまり時間をかけるわけにはいかないだろう。
俺たちがここで黒装束たちの相手をしている間にも、きっとほかの場所でこいつらの仲間がよからぬことをしているのだ。
「ライト!」
氷室は投げナイフを叩き落としながら魔法を使い、空に光球を浮かべた。これで少しはあたりが見やすくなる。
ひとまず先へ進むにしても、黒装束たちが邪魔なことこの上ない。まずは、こいつらをある程度片づける必要がある。
「ウインドカッター!!」
俺は風の刃を木々の隙間を狙って、無造作に放ちまくる。悪いが、ここは自然のことを考えている暇はない。
風の刃は少なからず黒装束たちに命中したようで、短く悲鳴が聞こえてきた。
「ウォーターブラスト!!」
アリスは爆発する水球を、アルバニアは矢を放った。
水球は木の幹にあたって爆ぜ、近くにいた黒装束を巻き込む。矢はちょうど投げナイフを放った瞬間の黒装束に突き刺さった。
「三人とも! そろそろ先を急ぐぞ!」
「わかったわ!」
「了解です!」
「わかった!」
飛んでくる投げナイフの数がかなり減ってきたので、俺たちは森の奥へと走り出した。
当然のように、黒装束たちは俺たちについてきた。しかし、人数が少なくなったこともあり、俺たちを止めることはできない。
しばらく走っているとかがり火がたかれ、明るく照らされた洞窟が見えてきた。状況的に、ここが黒装束たちのアジトで間違いないだろう。
切り立った崖にその洞窟は存在し、そこには見張りが二人立っていた。一人は剣士であり、もう一人は杖を持った魔法使いだ。
俺たちの姿を確認すると、魔法使いは氷柱を何本も打ち放ってくる。アリスにはおよばないが、それでもかなりの腕だ。
「なっ!?」
氷柱をよけると、俺は転移魔法を使って魔法使いの真横へと転移した。魔法使いは顔に驚愕を浮かべたが、だからといって何かができるわけではない。
俺はバスタードソードで魔法使いの首を斬り裂いた。鮮血が舞い俺の体を紅く濡らしたが、今はそれに気を向ける暇はない。
すぐさま体勢を整えると、襲いかかってきた剣士の斬撃を防いだ。この剣士もかなりの腕を持っているのだろう。しかし、ここにいるのは俺だけでない。
次の瞬間、アルバニアがダガーを手に走ってくると、剣士へ突きを放った。剣士はなんとか後ろにとんで攻撃をかわしたが、それによって大きな隙ができる。
俺はその隙をついて近づき、バスタードソードで首を斬り裂いた。そして、すぐさま洞窟の奥へと走り出す。
洞窟の中には誰もおらず、俺たちは走り続ける。道が二手に分かれているということもなく、ご丁寧に足場が整えられていた。
ある程度洞窟の中に入ってくると、俺は後方にウインドカッターを放った。
ずっと黒装束たちがついてきているのだ。いい加減うっとうしかったので、ここで始末しておくことにする。
洞窟の中ということもあり、ここはそれなりに狭い。それこそ、俺の放った風の刃の密度は、決してよけることができないほどだった。
事実、風の刃は黒装束たちに襲いかかると、よける間もなく見るも無残な姿へと変貌させた。
これで、俺たちを追ってくる者は誰一人いない。
俺たちは再び先を目指し、ひたすらに走る。そうしてしばらくすると、洞窟の最奥部が見えてきた。
洞窟を抜けた先にあったのは、またもや薄暗い森だった。どんよりと、不気味な雰囲気は相変わらずである。
そしてその先に進むと、そこには魔法陣のようなものを囲み、儀式を行う怪しい集団がいた。
先ほどの者たちとはまた少し様式が異なった黒装束を纏っており、ブツブツとなにかを小声でつぶやいている。
「――おやおや、やはりここまで来てしまいましたか」
そう言ったのは、聖職者のような白い服を纏った、笑みを浮かべた男だった。




