聳える肉柱(3)
「ソータっ!?」
「ソータさんっ!!」
「――っ! 二人ともしばらく頼む!! 僕は奏多を治療してくる!」
ソータは触手に二度も吹き飛ばされ、意識を失った。
氷室が見た限りでは、触手はソータの腹部へと打ち付けられていた。致命傷を受けている可能性が高い。
氷室はアリスとアルバニアに後を任せてると、ソータを担いでそばにあった通路へと走っていった。
ある程度走り周囲が安全か確認すると、ソータを地面に降ろし容態を確認する。
「内蔵が傷ついているみたいだな……呼吸もしてない――頼むから、死なないでよ……っ」
ソータの口からは血が流れており、明らかに内蔵が傷ついていた。このままでは、命を落とすことは確実だった。
氷室は急いで《リジェネレーション》を掛ける。見た目に変化はないが、体内では確実に傷ついた臓器が元通りになっていく。そして、完全に傷を治癒されたと同時に、ソータは呼吸を再開した。
「――うっ、ゴホッゴホッ!!」
「奏多!! 大丈夫!? どこもおかしい所はない!?」
ソータは咳と同時に、泡の混じった鮮紅色の血を吐き出す。氷室はソータが無事一命をとりとめたことで、ホッと笑みをこぼした。
「……なにがあった?」
「肉の柱と戦っていたのは覚えてる?」
「あぁ。……そうかなるほど、確かアリスを庇ったんだったな」
触手が叩きつけられた腹部をソータは触った。
「二人は?」
「今は肉の柱の相手をしてもらっている。ソータは戦えそう?」
「問題ない、ずっと二人に任せておくわけにはいかないしな」
ソータと氷室がいる場所までも、肉の柱の叫び声や触手を地面へと打ち付けている音が聞こえてきた。
立ち上がり体のどこもおかしくないことを確認すると、ソータは《クリーン》を自身に掛けて付着していた血を洗い流した。
「それと……すまん、手間をかけた」
「お気になさらず、奏多が無事だったならそれで満足さ」
氷室はソータのぶっきらぼうな感謝の言葉にほほ笑みを返す。そして、二人は肉の柱のいる場所へと駆け出したのだった。
―― ―― ―― ―― ――
俺たちが二人のいる場所へと戻ってくると、そこではアリスとアルバニアが肉の柱とにらみ合っているところだった。
肉の柱には、少し前に投げた槍が突き刺さったままだった。魔法の効果はすでに切れているものの、突き刺さった周辺を焦がしている。
しかしあまり効いているようには見えず、もう一度同じ攻撃をするのは得策ではなさそうだった。
そして、肉の柱には新たにいくつも矢が突き刺さっていたり、大きな切り傷があったりした。
俺と氷室がいない間につけたんだろう。
「――ソータ! さっきはごめんなさい! 私、油断してて……っ」
「それはもういい。俺も考えなしに攻撃してたからな、おあいこだおあいこ」
アリスとアルバニアが無事だったことに、俺は心から安心した。俺がヘマをしたばかりに二人が怪我でもしていたら、どう償えばいいが計り知れないからな。
「ともかく、こいつをさっさと討伐するぞ。なにかいい方法はないか?」
肉の柱はまたもや、単語をブツブツとつぶやいている。
こいつをこのまま放っておくわけにはいかない。放っておけば、永遠と肉塊を生み出し続けるだろう。そんな存在を放っておけば、さらなる混乱を招きかねないのだ。
「僕に考えがある。これもアンデッドなら、どこかにコアが埋まっているはずだ。僕が魔法で切り刻むから、その間に誰かが破壊してほしい」
確かにコアを破壊するのが確実か。アンデッドは中核である『アンデッドコア』を破壊されると、活動が停止するしな。
だがどこにあるかわからないし、大きさも分からない。粉々にしないことには、コアを見つけるのはなかなかに難しいだろう。
「わかった、じゃあ俺が破壊しよう。アリスとアルバニアは氷室の援護を頼む」
「了解、問題ないわ」
「はい、わかりました」
「うん、それじゃあ……いくよっ!!」
氷室とアリスがそれぞれ魔法を放つ構えをとった。氷室は手のひらを前に突き出し、アリスは杖を構える。
「シャイニングカッター!!」
「ウォーターカッター!!」
光と水の刃が肉の柱へと襲い掛かる。
肉の柱は咄嗟に防御しようとするが、防御に使った触手はあっさりと切断され、勢いが一切弱まることがなく刃が肉の柱を切り刻む。
肉の柱は口々に悲鳴を上げると、粉々になり地面に崩れ落ちた。俺はコアを探しに肉の柱があった場所へと走り出す。
粉々になったことによって大量の赤黒い血があたりに流れだし、腐臭や死臭に似た不快な臭いが周囲に満ちた。
俺は悪臭を我慢しながらコアを探す。すると、肉の山の一角に五十センチほどの歪な結晶があることに気がついた。肉が付着しており非常にわかりづらかったが、なんとかコアであることを察することができた。
しかし俺はそれを発見したと同時に、持っていたバスターソードを横薙ぎに振るう。すると、俺に絡みつこうとしていた触手が真っ二つに斬り裂かれた。
「やっぱり、こんだけ切り刻まれても動けるのか!」
少し前に切断した触手が独りでに攻撃してきたのを見ていたからな、薄々こうなるとは思っていた。
俺がそうこうしている間にも、肉の柱はコアを中心に再生を始めていた。このままではまた面倒なことになってしまう。
俺はコアを破壊するために走り出した。
触手が俺に襲いかかってきたが、後ろから矢や魔法が飛んできて触手の行動を妨害してくれたので、邪魔にはならなかった。
コアのそばまで来ると、俺はバスタードソードをコアに向けて突きを放った。
硬質な手ごたえと共に、バスタードソードはコアへと突き刺さる。すると、俺に攻撃しようとしていた触手たちが一斉にピタリと止まり、糸が切れたかのように倒れ込んだ。
「ふぅ……ようやく活動を停止したか。――ん?」
触手が襲いかかってこなくなったので、俺は安心して小さく息を吐いた。しかし、俺がそうしている間に異変が起きた。
なんと、急に肉が溶解しだしたのだ。
「うぐっ!? くさ……っ!?」
肉が溶解しだしからか、あたりに漂う悪臭がより一層強烈なものとなった。
俺はこみ上げる吐き気を必死に我慢し、バスターソードとアンデッドコアをストレージに収納する。そして転移魔法を使い、素早くみんなのいる場所へと転移した。
「だ、大丈夫……?」
「……鼻が本当に曲がるかと思った」
アリスが俺に心配の声をかけてくれた。
ここにいても普通に臭いが漂ってくるしな。その臭いの発生源の中にいたら、そりゃ心配もされるか。
「まぁ、とりあえずこれで元凶はいなくなったし、事態は収束するは――」
『収束するはずだ』そう言おうとしたのだが、俺は途中で言葉を止めた。――なぜなら、地面からの強い振動を感じたからだ。




