遺跡(3)
通路を進んでいくと、金属製の扉を発見した。どうやら鍵はかかっていなかったようで、ギシギシと音を立てながら扉は開く。
「――うっ! 薬品くさっ!?」
扉を開いた瞬間、俺の鼻には強烈な臭いが漂ってきた。部屋の中には薬品の臭いが充満しており、俺は思わず後ずさる。
《ライト》を使い光球を作り出し、部屋の中を照らす。すると、部屋の全容が見えてきた。
なにかの研究室だったらしく、部屋の中にある棚には色とりどりの薬品が陳列されていたり、中央にあった台のそばには手術道具のような物が置いてあった。
しかし、すでに使われなくなってから相当時間が経過しているようで、埃がかなり積もっている。
「……もしかして、ここってなにかの研究所だったのか?」
「そう、みたいだね。それと、見る限り使われなくなってから百年は確実に立ってるね。もしかしたら千年以上かも」
いや、さすがに千年は流石にないだろ。……いやまて、俺が思っている以上に当時の技術力が高かったら?
今の技術力では千年も建物を放置したまま維持するのは不可能に近い。しかし、今よりも高い技術力を持っていた頃なら、それも可能なんじゃないか?
飛行機やエスカレーターが作れるんだ、それに魔法もある。建物を千年維持することくらいはできそうなものだ。
「とりあえず、あまり体によさそうな臭いじゃないし、ここの探索はやめておくか」
「だね、ほかにも部屋はあるだろうし、見て回ろうか」
扉を閉めてると、俺たちは再び歩き出した。そして新たな扉を見つける度に、その中を確認して回る。
見つけた部屋は、薬品の保管庫のような部屋に冷蔵庫のような部屋や、ほかにも実験室のような部屋が数ヶ所と、ここが研究所と決定づける場所ばかりだった。
「檻をいくつか見かけたが、もしかしてここでの研究対象は生き物だったのかもしれないな」
「そうだね……注射器もあったし、生き物を研究していたのは間違いないと思う」
檻だけが置いてある部屋もあったし、かなりの数生き物がいたことは間違いない。
どういった研究をしていたのかは分からなかったが、それでも――いや、だからこそここを探索する必要がある。
「ねぇ、こっちは探索し終えたし、違う通路の方に行きましょう?」
「ですね、ずっとここにいるのも時間がもったいないですし」
俺たちは一度通路を戻り違う通路の方も探索するが、研究室がいくつかあったりと特に変わったことはなかった。
そして、最後の通路の探索を始める。
「また階段ね、しかも下りだし」
「あぁ、本当にどんだけ深いところまで続いているんだ」
通路を進んだ先にあったのは、またしても下り階段だった。ただ今回はエスカレーターではなく、普通の階段だ。
俺たちは階段を下る。そんなに長くなかったこともあり、すぐに下へとおりることができた。しかし、そこにあったのは――。
「えぇー……なんだこれ」
そこは、巨大なガラス張りの部屋がいくつもある奇妙な場所だった。
ただ、当然というべかきれいな状態ではなく、ガラスはどこもかしこも割れてるし、血しぶきが飛び散ったような跡がいくつもあった。しかもかなりの数の骨が転がっていたりと、かなり不気味な雰囲気である。
「たぶん、ここではなにかしらの生き物を飼っていたんだろうね。もっとも、失敗したみたいだけど」
見る限り、人間の死体は見当たらなかった。いつ頃死んだのかは分からなかったが、それなりに古いものだと思える。
「――っ!?」
ガタンッ……というナニかが動く音が聞こえ、俺たちは音のした方向を見る。そこにいたのは、ここに来る途中にも見た肉塊のアンデッドだった。
「……こんな所にもいるのかよ」
「みたいだね。まぁ弱いし、別にいたといてもそこまで変わらないけど」
氷室はそう言いながら、《シャイニングアロー》という魔法で光の矢を放った。それはまっすぐと飛んでいき、肉塊のアンデッドへと突き刺さる。
肉塊はグネグネとのたうち回るが、しばらくすると動かなくなった。
「回収は?」
「しない、気持ち悪いから」
肉塊はそのままに、俺たちは歩き出した。何かの破片や瓦礫が落ちていてかなり進みづらいが、その上を乗り越えたりして先へと進む。
部屋を進むとその奥にあったのは、長い通路。しかしそこには無数の人間や、四足歩行型の魔物の死体が転がっていた。
見る限り、かなり最近のものである。
「……これ、テントを張っていた連中のだよな?」
「たぶん……」
「ある程度倒しているみたいだけど、押し負けたのかしら?」
「だとしても、随分と派手にやられていますね……」
廊下の奥からは、微かにだが風が吹いていた。もしかしたら、どこか外へとつながっているのかもしれない。
廊下を進む。そこにはまたしても、とんでもない光景が広がっていた。
「……」
俺たちは声を失った。
そこにあったのは、異形の化け物たちが入ったカプセル群。どうやらここの設備はまだ動いているようで、化け物がゴポゴポと中に入っている液体に揺られていた。
化け物たちはコードのようなものでつながれており、これを研究していたことは明らかだった。
「おいおい……これは、なんの冗談だ?」
「……これ、全部アンデッドだね。空のもあるし、すでにいくらかは外に出ていってしまってるみたいだ」
ここが元凶で間違いない、か。ここではアンデッドの研究をしていたみたいだし、その可能性は充分すぎるほどにあるだろう。
ずっと前からこの場所はあっただろうし、あの裏組織の連中が馬鹿なことでもしてアンデッドを解き放ったんだろうな。
しかし、説明のつかないこともある。
カプセルを数えても、精々五百に届くか届かないかといったほどだ。ここにいる全てのアンデッドを解き放っても、現在起こっているほどの規模にはならないだろう。
……まぁたぶん、それの答えは向こうにあるんだろうな。
俺はこの部屋の向こうにあった、奥の明るい通路を見たのだった。




