~十月八日~ 2
待ち合わせに指定されたのは郊外にある大きな屋敷の前だった。この辺りにはきな臭い金持ちしか住んでいないので、自然と輝火の歩調は早くなる。昼でさえ良い噂はあまり聞かないのだから、藪蛇になる前にさっさと抜け出してしまいたかった。屋敷の前に付くとそこには既に、黄色の字で「HELP ME」と書かれた緑色のパーカーに濃い茶色のズボン、黒いニット帽を被った赤い髪の少年が待っていた。
「あんたかよ」
「オレじゃ不満って? ま、強奪屋さんの場合は誰がパートナーでも一緒か」
この赤い髪の少年とパートナーになるのはそう珍しいことではない。プロローグの正式なメンバー全員を把握しているわけではないけれど、輝火が知っているのは片手で足りる程度だった。おそらく同じ年代で一つのグループのようになっているのだと思う。
何度も顔を合わせていればそれなりに面識もあるし、昼間の彼らのことも大体は知っていた。目の前の少年を除いて。目の前に立つ少年の昼の姿を輝火は知らない。綺麗な赤い髪だから目立つはずなのに、だ。上手く隠しているのは知られたくないからか、それとも何かもっと別の理由があるからか。仲が悪いわけではないからこそ、距離を感じてしまって寂しく感じるのだ。
輝火はちっと舌打ちして依頼内容を口にする。
「今回の任務はこの屋敷から『箱』を取ってくる。箱は書斎の奥の金庫の中にある。盗む方法は何でもいい。屋敷内の人間の生死は問わない。だよな?」
「ああ。ついでに言っとくと生きてる人間は誰もいないはずだから、姿を見られる心配は無い。セキュリティの方の詳しいことは知らねーけど」
少し違和感があったものの、深くは追求せずに、少年が頷いたのを確認すると、二人は連れ立って歩き出した。正門から入っても何の反応もなくて、正直拍子抜けしてしまった。ちらりと横を見れば殴り殺されたような男の姿が見える。死体の数を数えるなんて趣味は当然ないので、お世辞にも綺麗とはいえない中庭を抜けて、玄関の扉の前に立つ。あっさりと通り抜けられたことに違和感を覚えずにいられない。
扉には鍵がかかっておらず、ノブに仕掛けも無かった。予想していた通りだったので、愛用の鉤爪を腕にセットし、そっとドアノブを捻って中へ侵入する。開けた先にも、電気はついているのにセキュリティが作動していないのか、何の音もしなかった。それどころか、人の気配すらしない。人がいないことの想像はつくのだけれど、これだけ大きな屋敷なのにセキュリティが死んでいることの方が気になった。どうせ他のメンバーの根回しだろうとは思う。メインシステムが物理的に破壊されたのか、電子的に破壊されたのかは分からない。けれど、仕事がやりやすいのは確かなので、ため息一つで忘れることにして輝火は先を目指した。
堂々と侵入し所々壊された廊下を突き進む。壁際でぐちゃぐちゃになっているのは本当に人間だうか。リビングを覗けば、そこは一面真っ赤に染まっていた。そこはまさに地獄絵図。むせ返るような錆びた鉄の臭いと、ほんの少しの焦げた臭い。死臭とでも呼ぶべき臭いに自然と眉間にしわが出来る。少年の「生きている人間はいない」という言葉の意味を正確に理解した。
「そういうことね」
「そういうこと」
だったら少年が着いて来た意味はあるのだろうかなんて考える。それと同時に、選ばれたのが自分であった意味も分からない。輝火の中に疑問を残したまま、二人は先へと進んでいく。




