二.【ある強奪屋の事情】~十月八日~
輝火は軽快なメロディーを奏でるスマートフォンを取り出して、メールボックスを確認した。そこには見慣れたメールアドレスと、見慣れた文字。「任務」と書かれた件名にため息が出る。メールの内容を適当に確認して、スマートフォンを閉じる。それを近くのベッドに放りぐっと伸びをした。
ベッドの上に適当に服を並べて、選んだのは薄い灰色のフードがついたチュニックにジーンズ地のショートパンツ。その格好に不似合いだとしても、紫色の首輪は外さない。それから自らの栗毛を緑のニット帽に入れ、そばに置いてあったウエストポーチの中身を確認していく。万能鍵などの開錠器具を点検し、小型の爆弾の数も確認して仕舞っておく。苦手だが、拳銃も入れておいた。脅しくらいにはなるだろう。全部確認してからポーチを腰につけた。
(明日は日曜日なのに、こんな日に任務とかありえないだろ。せっかくあたしが完璧なデートコース考えたってのに。さっさと終わらせよう)
彼女の思い浮かべた人物は、毎回輝火の行きたい場所に連れて行ってくれる。けれど輝火としては、彼の行きたい場所にも連れて行ってあげたい。お互いに忙しいからこそ、大切にしたい二人きりの時間。人生楽しんだ者勝ちだと、輝火は常々思っている。与えられたマンションの一室から出て、愛用の鉤爪を確認しながら、輝火は夜の街へと歩みを進めた。
彼女はとある事件で親を亡くし「プロローグ」に所属していた。事件が起きたのは十年前。彼女が六歳の時である。彼女の両親はプロローグになる前の組織「エピローグ」に所属していた。内容はプロローグと同じような犯罪組織だったのだが、十年前に「マザー」の導入に反対し、テロを引き起こした。もともと輝火にあまり興味のなかった両親だったから、当然ながらそれに参加し、警察に捕まって処刑されたそうだ。同じ犯罪者としてその末路に呆れることはあっても同情することはない。引き際を見誤った。ただそれだけのことだから。
それからすぐに輝火と他数人の子どもたちが、エピローグを解体して新しい組織を立ち上げたという南音に引き取られた。実際に育ててくれたのは彼ではなく、養育施設を名乗る別の場所。そこには似たような境遇の子どもたちがたくさん居た。そこで、同じ境遇の彼に出会った。確かに初めは寂しく思っていたけれど、両親に会えないことなど大した問題ではなくなっていった。今でも出会った日のことを思い出して、暖かい気持ちになることがある。
十歳になるとプロローグに入るか、一般人として生きるかを選ばされる。プロローグに入ることを決めると施設から出て部屋を与えられ、夜の街を駆けることになる。一人で生きる手段を与える、なんて偽善の塊にしか思えないけれど。適性などの関係で、仕事を始める時期は人によって違うらしい。輝火は迷った。一般人として生きることを選んでも、彼が輝火を養うと言ってくれていたから。幼さゆえの生涯の約束。今も互いに確かに覚えていて、きっと彼もそのつもりでいてくれる。
それでも輝火がこの道を選んだのは彼の傍に居たかったからだ。昼からは自由がなくなった。けれど、輝火はこれでよかったと思っている。彼が幸せならそれだけでいいのだ。
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