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~十月八日~ 3

 書斎はあっさりと見つかった。座っている人影があったが、この館の主人であろうその人物も既に事切れていた。腐敗の進み具合から考えれば、こちらの方が先に殺されていたのは明白である。驚いたように見開かれている瞳は暗く濁っていて、気分のいいものではない。

「なんかすけべそうなおっさん」

「あー、うん……」

 輝火の感想に少年はあまり良い反応を示さなかった。もしかしたら生前知り合いだったのかもしれない。知らない間にこんな風になっていたのか、それともこうなっていたのを知っていたのか。少年自身の反応からすれば後者であるような気はした。どちらにしても自分には関係ない人間だ、と早速作業に取り掛かる。

 まず目に入るのは四つの大きな本棚。こういう書斎にありがちな仕掛けとして、真ん中にある本棚の本を適当に引っ張り出して床に積み上げていく。何冊か抜き出したところであからさまに怪しげなボタンを見つけた。それを押せばかちりと音がして、一番端の本棚が動き出す。数分かけて、その後ろに隠れていた金庫が姿を現した。その手際に隣で見ていた少年は感心したように口笛を鳴らした。

 金庫に手を掛けて、怪しい部分がないか丁寧に調べてみる。特に問題もなさそうなので、ダイヤル式の鍵を右に左にかちかちと回してみるも、今回は複雑すぎるせいか上手く開かない。聴診器で音を聞いてみるが、新しい素材なのか、反響は全て同じだった。

「金庫の番号とか、聞いてねーの?」

「見つからなかったみたいだぜ」

「そっか」

 鍵を適当に回しながら考える。鍵自体にロックがかかることはないだろうから、安心して視界に入る番号を手当たり次第に入力してみる。けれど当然のように鍵が開く気配はなかった。どうしようかなんて考えながら八つ当たり気味に鉤爪で引っかくと嫌な音がして、少年が嫌そうにこちらを見た。ごめんごめんなんて軽く声をかけて金庫の裏を見るため本を抜き出していく。主人の座っている机に何か手がかりのようなものはないかと向かって、引き出しをひっくり返していく。特に怪しい書類も、メモも写真もなかったので、ため息を吐いて、今度は本棚を物色していく。手帳のようなものでも見つかればよかったのだが、それもなかった。

 ふいに、机の上に腰掛けてこちらの仕事を見ていた少年が声をかけてきた。

「昼間にルールが無きゃ、働く必要も学校に行く必要もないのにな」

「別に、学校は嫌いじゃないけど」

 輝火は適当に答えながらも、少年とこんな話をするのは初めてだと思い当たった。それどころか自由区で昼の話をすること自体が、一種の禁忌に感じていたのだ。お互いの昼の姿を知っているからこそ避けていた部分もある。逆に昼、大好きな彼と二人きりでいて夜の話をしたいと思ったことはなかった。この世界は常に死と隣り合わせで、絶対に帰れる保証がないから、その瞬間を大切にしたかった。学校は嫌いじゃない。昼間の管理された世界も、慣れてしまえばどうということもない。うまくやりさえすれば生きやすいのだ。あんな鳥籠だとしても。そんな輝火の心情に気づかないまま、少年は意外そうな顔をして、けれど瞳だけは何かを迷っているような、そんな奇妙な表情で話を続けた。

「マザーの決めたルールなんてあるから、夜しか仕事が出来ないのに? 昼も仕事が出来たら、きっともっと楽しく生きられるんだ。この街に、マザーは本当に必要だと思うか?」

 その問いに輝火は答えを持っていなかった。

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