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~十月十日~ 10

 連れて行かれた先は、悪い大人たちの巣窟だった。大人たちは子どもが好きらしい。もちろん例外はいるのだけれど。ひたすらに可愛がられ、甘やかされ、たくさんの悪事を習った。生きるための方法だなんて茶化していたから、流音はなんの疑問も抱かずにそれを吸収していく。特に気に入ったのは人の殺し方だった。吹き出る赫が大好きで、それを見たいがために武器は刃物にした。鋏みたいに服に隠した。嘘を吐くのも得意だった。笑顔さえ貼り付けておけばたいていの人間が信用した。本当のことに少しだけ嘘を混ぜる。たくさんの嘘の中に少しだけ本当のことを混ぜる。嘘のつき方は、彼が喜んで教えてきた。


 毎日楽しく過ごしていた。そんなある日だった。

「あ、いた」

 南音はいつも一緒にいるわけではなくて、時々嘘くさい笑みを貼り付けて、ふらりとどこかに消える。そんなときは仕事に行くときだと知っていたから、流音は何も言わなかった。どうせすぐに帰ってくる。その程度の認識。駆け寄ってきた南音は嬉しそうに流音を抱きしめた。

「ただいま」

「おかえり」

 三日もすれば、抱きしめられて、頭を撫でられるのが当然になっていた。今までそんなことをしたことが無かったから、なんだかとてもくすぐったい。「ただいま」「おかえり」「おはよう」「おやすみ」「いただきます」挨拶は一番初めに教えられた。嘘つきへの第一歩。

「あのね、決めたんだ」

「なにを?」

「流音」

「……なに?」

「流音。キミの名前だよ」

 南音はにっこり笑って流音をきつく抱きしめた。流音は、何故か分からないけれど、泣いていた。胸がぽかぽかと暖かくなって、それなのに、何故かとても苦しい。声を上げることはしなかった。そうすれば楽だなんて、誰も教えてくれなかったから。それはこれからゆっくりと知っていくことになる。そんな流音を守るように、南音は抱きしめる力を強くした。

「ねえ、流音。今日をキミの誕生日にしようか」

「たんじょうび?」

「そう。産まれてきてくれたことに感謝する日だよ」

「かんしゃ……」

「僕は流音に会えて、本当に良かった」

「ほんと?」

「うん」

「……うそつき」

「嘘じゃないよ」

「なみとはうそつきだもん」

「これだけは本当のこと。信じてよ。流音」

「……わかった」

「毎年お祝いしないとね」

「おいわいするの?」

「そうだよ。毎年何かプレゼントをあげるからね」

「ぷれぜんと……」

「プレゼントって知ってる?」

「しらない」

「みんなから贈り物をもらうことだよ。今年は何がいい?」

「もうもらったよ」

「え?」

「〝ると〟って、もうもらった」

「ホント、可愛いなぁ」

「ありがとう、なみと」

「どういたしまして。じゃあ、みんなにもプレゼントをもらいに行こうか」

「もらえるの?」

「うん。みんな流音が大好きだからね」

「ふふ」

「どうしたの?」

「うれしい」

「可愛いなぁ、もう」

 流音の頭をぐりぐりと撫でて、南音は立ち上がった。流音の手を引いて、大人たちの方へ向かう。既に親ばかだな、なんてバカにされながら、南音が嬉しいならそれでいいかと思えた。それから誕生日には、毎年何かプレゼントされるようになった。

 エピローグでは、大人だけでなく、子どもとも仲良くなった。香丸と仙花だ。普段から隠れ家にいる子どもは三人しかいなかったから、いつもみんなで遊んでいた。大人と遊ぶときとは、また違った楽しさがあった。泥だらけになって走り回ったり、みんなでお菓子を盗んで食べたり、仕事に連れて行ってもらったりしたのは今でもいい思い出だった。

 親友と呼べるほどの仲になったとき、大人には秘密で、ある約束を交わした。なんでも打ち明けられる間だったから、決めたこと。それは、本当に、三人だけの秘密。

「もしも仲間を裏切ったとき」

「もしも心が壊れてしまったとき」

「もしも生きるのが怖くなったとき」

「「「そのときは、お互いに殺し合う」」」

 誓った約束を、流音は今でも憶えている。バカみたいな話だけれど、それに縋る自分はもっとバカなのかもしれない。くすくす笑いながら、他の二人の顔を見た。他の二人もこっちを見ていた。香丸は笑って、仙花もどこかやわらかい雰囲気で。嬉しくて嬉しくて仕方なかった。孤独なのは変わらないけれど、同じ孤独を持っている友達がいる。それだけで、そのときは十分だった。救われたいと思えなかった。三人とも、それを知らなかったから。

「これでずっといっしょだね」

「うん。ちゃんと言うんだよ」

「わかってるよ」

「でも、やくそくを守らなくちゃいけなくなるまえに、そうだんしてください」

「だいじょうぶだって」

「ほんとうですか?」

「うん。やぶったときも殺すからね」

「オレたちなら、守れるよ」

 幼さゆえの無邪気な悲劇に、大人たちは気がつかなかった。ただ、仲のいい子どもたちとしか思っていなかったのだ。保護者たちですら気づくことはできなかった。無邪気な犯行は互いを縛り、今に至る。約束で結ばれた絆は呪いのように絡み付いて、離れない。けれどそれでよかったのだ。他人なんて関係なかったから。自分と、自分の周りのほんの一握りの人間だけが、自分たちの世界だったから。小さくて狭い、子どもの世界。

 今ここにいる。それだけが、全てだった。


 そうして、時は流れた。


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