一.【ある運び屋の任務】~十月九日~
智夜はぶるぶると震えるスマートフォンを取り出してメールボックスを確認した。そこには見慣れたメールアドレスと、見慣れない二文字。「任務」と書かれた件名に心が躍る。メールの内容を上から下へ目で追って、ぱたんとカバーを閉じた。それを目の前の机の上に置いて立ち上がる。
姿見の前に立って服を選ぶ。紺色のジャケットに、ピンク地に白のハートが入ったTシャツ、それにジーンズ。普段と違ってボーイッシュな衣装を選んだ。いそいそと着替えて、鏡台からゴムを手に取る。飴色の髪をゆらゆらと機嫌よく揺らして、ひとつに束ねていく。それをひとつの長い三つ編みにしてから満足げに黒縁の伊達眼鏡をかける。お気に入りの小さなリュックの中にスマートフォンとタオルや布、地図を数枚入れる。それを背負うと、きゅっと口を引き結ぶ。
(初めての任務。ようやく貰えた初めての仕事。これであの子に守られずにすむ。わたしは、一人でも生きられる。絶対、大丈夫)
思い浮かべた人物が知れば間違いなく困った顔をするだろう。けれど彼女の決意は固い。もう守られるだけではいられないのだ。大切な人を守りたい。そして、大切な人のことをもっとたくさん知りたい。与えられたマンションの一室から出て、改造したエンジン付きの四輪キックスクーターを押しながら、智夜は初めて夜の街へと歩みを進めた。
彼女の所属する組織「プロローグ」は、とある秘密組織である。弱きを助け、悪を滅ぼすために、日夜戦っているのだと、幼い智夜は寝物語に聴かされていた。本当は何をしている組織かなんて知らないし、興味もあまりない。ただ、良い組織ではないことだけはなんとなく分かっている。両親の言っていた正義の味方のような、そんな組織ならば、こんな夜に任務を行なうはずがない。けれど彼女にとって、なにを目的とした組織なのか、などといったことはほんの些細なことだった。必要なのは一人で生きていくための報酬。
彼女の両親はプロローグに情報や物資の運び専門として所属していたのだが、五年前、彼女が十歳のときに、あるテロ集団に巻き込まれて、命を落としてしまった。組織に所属していたこともあり、両親は二人とも親戚とは疎遠だったそうだ。死体は帰って来なかった。悲しかった。とても悲しかった。十歳という年齢は身近な人の死を理解するにはすでに十分な年齢だったのだ。それなのに、彼女の両親がどんな風に死んだのかは、誰も教えてくれなかった。
そんな智夜を引き取って五年間育てたのが、プロローグに所属する南音である。彼は忙しくて滅多に会えないけれど、智夜の記憶の中の彼はいつも優しかった。南音は他にも子どもを拾って育てている。実際は彼自身が育てるのではなく、養育施設に入れられるのだけど。そこでは子どもたちにどんな風に生きるのか、選択肢が与えられる。生きるための訓練も受けられた。
そこで出会ったあの子は、今でも智夜のことを守ってくれる。それが善意なのか、そうでないのかは智夜にはわからなかった。けれど彼女はそれでいいと思っていた。
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