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~十月七日~ 4

 手にした鉄パイプを振りかぶり、目を押さえている男の首を叩き折る。その後ろに立っていた相手の手からピストルを奪い取り、数発打ち込んだ。弾の切れたそれを持ったまま右手を隣の男に叩き込む。ピストルを捨て背後から伸びてきた手を片手で掴んで背負い投げた。その腹部に鉄パイプを叩き込む。さらけ出された喉仏にも一発叩き込んで、次の男に視線を向けた。

 楽しくて仕方がない。自分は生きているのだ。その実感が体中を駆け巡る。壊れていく命がかわいそうなんて感情を持っていたことはない。仙花にとって他人というのは壊せるか、壊せないか。自分の内に入れたほんの一握りの人間以外はどうなったっていいのだ。だから、生きている実感を持てるこの瞬間が輝いて、楽しくて仕方ない。

「ふ、はは」

 口から漏れたのは笑い声。男たちは恐怖からか一歩後ろに下がった。そんな姿もますます滑稽で、楽しくて楽しくて仕方ない。

 左隣にいた男の首に鉄パイプを叩き込んで、正面にいた男を蹴り上げる。男の背後に回れば、先ほどまで仙花の後ろに立っていた男がサブマシンガンを乱射した。目の前の背中を蹴りつけ盾兼土台にし、右隣の男の足を払う。手に持っていたライフルを拝借し、適当に片手でぶっ放す。弾が無くなったところでライフルを左隣の男の顔に叩き込んだ。倒れた身体を鉄パイプで何度も殴る。びくびく痙攣している男には目もくれないで、正面に立つ男を殴り飛ばした。

「はは。ははははははっ」

 心の底から笑いが込み上げてくる。自分はどこかの螺子が一本足りていないのかもしれない。

 少年の方から飛ばされて倒れてきた男の傷に鉄パイプを抉りこむ。削るように引き抜いて身を屈める。飛んできた弾丸を避けて右隣の男の膝に鉄パイプを叩き込めば、全身で男の骨が砕けるのを感じた。男が倒れる瞬間に相手が持っていたピストルを奪い取り、口に捻り込む。躊躇い無く引き金を引けば飛び散る脳髄。ぱっと赫色の花が咲いた。びちゃりと頬につく。まだどろりと暖かいそれをぐいっと手で拭って、地面を蹴った。

 初めから壊すことに何も感じてはいなかった。自分が壊れることもどうでもいいと思っていた。見えるところに傷を作れば少女が悲しむ。それに仙花自身も痛いのは嫌いだったから、好んで傷を作ることは無かった。けれど本当にどうでもいいと思っていたのだ。男たちの汚い断末魔の悲鳴は既に耳に入ってこない。無意識のうちに生きること以外を放棄して、ただ闇雲に鉄パイプを振り乱す。この感覚が楽しいのだと錯覚しなければ、生きていくことなんて出来そうにない。

 不意に少年を見れば彼も楽しそうに笑っていた。彼の周りを飛び散る赫が、まるで舞っているように見える。びちゃっと音を立てて彼の頬に赫色が飛んだ。もう二人とも全身真っ赤に染まっていた。楽しくて、仕方がない。

 まるで阿鼻叫喚。笑いながら破壊衝動をぶつける二人は、この場にいる者にとって死神以外の何者でもなかった。赫に染まっていく。

 男たちを全て壊して、仙花は少年を振り返る。少年は未だ死体を足で転がしていた。物足りないのか、「つまらない」と呟く声。あれだけ暴れてまだ足りないのかと、仙花は呆れてしまった。だから少年の言葉は無視して声を掛ける。

「これで任務終了?」

 少年はもう一度だけ蹴り上げて、漸くこちらを向いた。心底つまらないと言いたげな表情に苦笑をもらす。今日の少年はまるで死に急いでいるみたいだ。頬に付いた赫をパーカーの袖で拭って、手に持っていたサバイバルナイフを仕舞う。

「まだ奥あるけど、どうする?」

「あるなら行くよ。当然だろう?」

 仙花は鉄パイプをくるりとまわし、屋敷の奥へと進んでいった。少年はあくびを繰り返しながらそれに続いていく。廊下の先に人影は無く、生き物の気配も感じない。本当に全部壊してしまったのかもしれない。けれど依頼は「全滅」。万が一にでも生き残りがいれば、達成したことにはならない。だからいくら面倒に感じても先に進むしかなかった。

「退屈なら帰ってもいいよ」

「冗談だろ」

「半分はね」

 後は生き残りを捜すだけだから、本当に仙花だけでも事足りるのである。けれど少年は任務を途中放棄するのが嫌なのか、もしまだ男たちが残っていたときが悔しいのか帰らないと渋っている。十中八九後者だろうと見当つけて仙花は笑った。生き物の気配はやはり無い。他愛ないやり取りを繰り返しながら奥に進んでいく。


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