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~十月七日~ 3

 気持ちが高ぶっているにも関わらず感覚だけは鋭くて、銃弾さえ手にした武器で防ぐ。少年が切り裂いた男に、続けざまに鉄パイプを振り下ろしたり、目の前の男の顔を踏み台にして天井近くのスピーカーを壊したり、足払いをかけて倒れたところに鉄パイプをお見舞いしてみたりと、楽しかった。少年との二人対多数という戦いは、互いが互いの邪魔になることもなく、いてほしいと思った位置にいるのでとてもやりやすい。

 肉を切る音と骨を砕く音が空間を支配して、男たちの呻き声が響く。そんなことには構わないで鉄パイプを振り上げ片端から壊していく。手から直接伝わるこの感覚がたまらない。この世界で、彼女の次に好きなものだ。中毒のように手放しがたい感覚。真後ろに立っていた男に回し蹴りを決めて、仙花はうっとりと微笑んだ。

 もう一度がつんと鉄パイプを振り下ろし、目の前の男の頭蓋骨が陥没したのが最後だった。息の根を止めたことを確認すると少年と目配せる。少年も最後の獲物を仕留めたのだろう。満足そうに笑ってこちらを見る。仙花も満面の笑みでそれに答えた。

 二人で漸く歩き出す。アラームの音はいつの間にか止んでいて、追加の男たちが出てくる気配は今のところない。汚れてしまった鉄パイプをそこらにあった布切れで適当に拭っておく。斬るわけではないのだけれど、手ごたえが全く違うというのが仙花の考えだ。

 ふと思い出して仙花は少年に尋ねた。

「そういえばここの家族は? 子どもとかも対象なのかな?」

「壊すんじゃね? その辺のことは何も聞いてないし」

「そっか」

「ま、もしもいたらの話だけど」

「いても普通は出てこようと思わないよね」

 互いに声音からは何も感じ取れず、二人が何も感じていないことが見て取れる。子どもを壊したからといって今さら罪悪感を覚えるような神経はしていない。親が死んでしまっては生きていけないだろうに、生かしておいて何になるというのだろう。その子どもが何かの天才であるのならば別として。親のいない子どもたちは、この街では碌な生活が出来ないことなんて身をもって知っているというのに。

 奥へと進み、リビングらしき扉を発見した。中からは数人の話し声が聞こえる。扉が厚いのか、中の音はほとんど聞こえなくて、何人いるかの判別は難しそうだった。二人は頷き合うと、ドアノブに手を掛ける。瞬間、わずかに感じるノイズ。違和感を覚えて、仙花は手を止めた。少年は訝しげに仙花を見ているが、仙花はにっこりと笑うだけ。

「もう一回確認」

「なんだ?」

「全部、壊していいんだよね?」

「へ? うん、そのはずだけど……」

 最終確認とばかりに尋ねた内容はここに来るまでにも確認したこと。既にアレだけの人間を壊してしまっているのだから、後戻りできないことくらい、仙花にだってわかっていた。ここで辞めるつもりなんて元からない。仙花は笑顔を消して、扉を開いた。どうやらそこはリビングのようで、真ん中にソファがテレビの方を向いて置かれている。電気は付いているが、中には誰もいない。人の気配は全く感じないのに、声だけは響いている。異様な空気だった。

「これってさー、あれ?」

「うん」

 中へ入るとテーブルの上にはレコーダーが再生されていた。楽しそうな声が再生されているそれを仙花は鉄パイプで一突きする。綺麗に貫通させれば、がりがりと嫌な音を立ててレコーダーは動きを止めた。最後の音はB級ホラー映画みたいで本当に気味が悪い。往生際悪く呪いの言葉を吐き出したレコーダー。仙花は緑色の瞳をすっと細めて突き刺したそれを振り落とし、ぐしゃりと踏み潰す。床の上で真っ二つになっただけでは気に入らなくて、粉々のぐちゃぐちゃになるまで踏みつけ、漸く足を離した。満足して少し笑う。

 その瞬間うじゃうじゃと黒い服を纏った男たちが入ってくる。先ほどまでの男たちとは違って、その手にはそれぞれ本物の銃器が握られていた。人数は十人から二十人といったところだろうか。次々と入ってくるせいで、正確な人数が把握できない。にやにやと余裕の笑みを浮かべてこちらを包囲してくる。あっという間に囲まれてしまった。

「罠、ってわけだ」

 銃口は一様にこちらを向いており、絶体絶命の大ピンチ、といったところである。けれど仙花にも少年にもこの展開は十分予想できていた。扉を開けたときに感じたノイズ音はレコーダー特有のものだったからだ。分かっていて、扉を開けた。罠だと分かっている分、ここで全滅させた方が早いと踏んでのことだった。これは相応の能力を持った二人だから罷り通る、暴力的な策である。

「全部壊していいんでしょう?」

 仙花はショルダーバックから、普段は使わない閃光弾を三つ取り出す。その間に少年は大きめのジャックナイフを二つ取り出して両手に握った。

 閃光弾がはじける。辺りが光に覆われて、二人は駆け出した。


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