第四〇一話:リトル犬耳プリンセス
犬耳族。
その名前の通り、耳が犬のようになっている魔族である。
大きく分けて横耳系と縦耳系があり、さらには細かい種族にわかれている。
特筆すべきは猫耳族と違って、種族毎に体格に差があると言うことだ。
これも大きく分けて大型種、中型種、小型種とあり、大型種は俺達よりも一回り大きく中型種は同程度、小型種は一回り小さいという特徴があった。
ちなみに猫耳族には、このような体格差はない。おおかたは俺達魔族と同じである。
「よかった……犬耳族達は健在だったのか」
大型種と中型種のみで構成された部隊、通称猛犬師団は残念ながらあの勇者との戦いで全滅してしまった。
だが小型種を中心とした後方部隊は、タリオンに率いられて脱出したのである。
しかし、いままでこの南の海で犬耳族を見かけなかったので、心配していたのだ。
――いやまて。
「いままで頭部に何かを隠すように欺瞞の魔法をかけていたのが、解けた?」
「そうじゃよ。ちなみに生命維持型の一歩手前で解けるようになっておる」
そういって、ア・シモフは被っていた兜を脱いだ。
その頭頂部の左右には、少し小ぶりの犬耳が飛び出ている。
「卿も犬耳族だったのか……」
少し幼すぎる体型だとは思っていた。
だが正確には、体型が一回り小さかったのだ。
「そう、ワシはあの大いなる神獣、タヌキ!」
「タヌキだと!?」
あの伝説の竜をも霞む、伝説の神獣!
温和で丸っこくもふもふしているが、変身術の遣い手でしかも幻術と違い質量を無視できたという。
つまり、タヌキが雷光号に化けたら、雷光号そのものの質量と出力を備えるということだ。
これがどれだけ異質なことなのか、言うまでも無い。
俺の治世では幻獣発見の報告が年に一回は入りそのどれもが空振りであったが、一番多い竜の報告に次いで多かったのが、タヌキであった。
ちなみに大抵は、アライグマの誤認である。
「――をご先祖とする――」
「お、おう……」
幻獣や神を祖先とする種族は、意外と多い。
もちろん根拠はなかったが、それが彼らをそうたらしめているわけだから、俺は特に否定するつもりはなかった。
例えば猫耳族の半神猛虎団もそれであり、先祖を神としている。
タリオンは随分と否定的であったが、俺はどちらでもよいという立場であった。
そういう浪漫が、あってもよいだろう。
「誇り高き、ポメラニア族である!」
だからア・シモフが自らの家系の――うん?
「御三家ではないか……」
「ごさんけ?」
「知らないのか? 犬耳族の三王家」
横耳系のシーズ族を筆頭に、縦耳系のヨーキー族、そしてポメラニア族。
これらは犬耳族の王家である。
この下に貴族階級のペキニズ族やブルテリ族やスピッツ族、近侍階級のシヴァ族やゴールレトレリバ族、騎士階級のセントバーナー族やシェパー族、ボクサ族にシベハス族、内政階級のチ・ワワ族やコーギ族、パ・グ族がいる。
とにかく多種多様な犬耳族たちであったが、不思議と内部の結束は高く、御三家を筆頭によくまとまっていた。
一度など、ポメラニア族の王女ニーナ姫が俺との縁談を持ちかけたことがあったくらいである。
ただその時は、ただでさえ小柄な上にニーナ姫が若すぎたので流れたのだが……。
「ちょ、ちょっとまって。本当に……王族?」
ア・シモフが脂汗をかいていた。
どうやら、一万年の間に伝説と化し、自身もあまり信じていなかったらしい。
「マリウス卿、その話はちょっとあとで詳しく」
「ああ。だが名前に『ポメラ』が入っていないから、本流ではなくて傍流だろう」
「ワシの本名、ポメラニ・ア・シモフ……」
思い切り本流だった。
たしか初代ポメラニア王次男の家系で、長男のそれが断絶して以降、本流を背負っていたはずだ。
ちなみに前述のニーナ姫も本名はポメラニ・ニーナ・イチカである。
つまり、ア・シモフはニーナ姫の子孫直系であるらしい。
「面白いことを言っていいか」
「いうてみ」
「卿の先祖と一度婚姻の話が持ち上がったことがある」
ア・シモフは噴いた。
「ご、御先祖さまぁ!?」
「安心しろ。その話は流れてる。だがもしもがあったら、そうなっていたかもな」
「心臓に悪いんじゃよ!?」
「それよりマリウスさん」
なぜかいつもより圧のある雰囲気で、アリスが一歩踏み込んだ。
気のせいか、いつもより距離が近い。
「犬耳族とは、結婚できるんですか?」
「ああ。人間と魔族ではめったなことで子供が生まれないが、魔族同士ではそういうことはない」
「じゃあ、もしマリウスさんが犬耳族と結婚していたら、子供は犬耳に」
「なる可能性もあるし、そうでもない可能性もある」
「というと?」
じっと聞き耳を立てていたクリスが、そう質問する。
「俺達普通の魔族と犬耳族、その特性が交じった子供は生まれない。普通の魔族の子供か、犬耳族のどちらかが生まれるんだ」
「交雑しないということですか?」
「そういうことだ」
真面目に考えるとおかしなことなのだが、なぜかそうなっている。
いままでもそこを真面目に研究しているものがいたはずだが、その理由については、俺が封印される前はまだ解明されていなかった。
「いまはどうだ?」
「んー、いまはあんまりみかけないんじゃよ」
「そうか……」
秘密が解けていたら、色々と興味深かったんだが。
「あの、それより皆さん」
ちょっと呆れた様子で、理緒が注意を飛ばす。
「早くベ・スターさんを救出されては?」
「すまん、そうだった!」
ここで種族話に花を咲かせている場合ではなかった。
「やべぇ……書記連れて帰ったら家系図さがさにゃ」
手は正確に書記を救出すべく各種工具を取り出していたが、顔は動揺したままのア・シモフだった。
「犬耳族かぁ……わたしの治世の時、時々相談に乗ってくれた子いたんだよね」
「ほう、それは初耳ですな」
「自分の住んでいところから滅多に出なかったからね。状況を説明するだけで、今抱えている問題を解説してくれて助かったなぁ……」
「……ん?」
「ちなみに名前はシャ——」
「それ以上はおやめなされ!?」
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