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俺、異世界で自作ダンジョン目指します!  作者: ITSUKI
あっちでもこっちでも事件
54/67

第54話:ナナミの故郷(2)

 あの後すぐに、ナナミの故郷の人たちが身を寄せている町に向かうことにした。


 ナナミは食べ終えていなかった朝食を全て平らげ、

 俺もハヤトも後から来た料理を急いで……、

 といっても、いつも通りで十分に速いけど――食べ終えた。


 それから洞窟村を出て拠点建設現場まで行き、

 その場にいたダクートさんに一声掛けてから、

 二体の竜に乗り、パーティ『勇敢な瞳』全員で飛び立ったのである。


 その町に到着したのは正午近く。


 俺の【空間把握レベル1】で頭の中に描いた地図だと、

 始まりの町ドラワテと拠点予定地との距離、その三倍近く離れた場所にあった。


 空からの眺めでは、ドラワテの町より若干小さく、

 農業を中心とした町なのだろうか、周辺に畑と放牧地が広がっている。


 この町の近くにナナミの故郷の村もあるのだろうが、

 それらしいものを見つけることは出来なかった。


 離れた森に竜を着地させ、街道を歩いて町に向かう。

 ナナミにとって、もう会えないとさえ思っていた故郷の村の人たち。

 その人たちに会えるという期待からか、それとも――

 ここからすでに仲間の気配がわかるのか、ほおを紅潮させ、瞳を潤ませている。

 俺たちは、その様子を優しく見守る。


 街道沿いの畑には黄金色の背の高い作物。

 その間をしばらく進んでいくと、

 遠くを見るナナミの口から「あっ……」と声が漏れる。


 その視線の先には一人の少女。

 水色の髪の毛にネコミミのある姿がこちらに向かって駆けてくる。

 応えるようにナナミも駆け出していた。


「マール!」

「ナナミ!」


 街道の真ん中で抱き合うピンクの髪をしたナナミと水色髪のネコミミ少女。

 マールというのがその少女の名前なのだろう。ナナミより少し背が高い。

 お互いに泣きながら交わす言葉は猫人族の言葉なのか、

 残念なことに翻訳指輪の機能が働かず、意味が伝わってこなかった。


 その後も街道沿いの畑から少しずつネコミミを持つ人たちが集まってきて、

 泣きじゃくるナナミとマールのまわりを取り囲む。


 何人もが二人の光景にもらい泣きをしているけれど、それは俺も同じこと。

 リリスも目が潤んでいるし、アンヌさんは優しい笑顔を向けている。

 俺の肩に乗っているクレアからは「ぐすっ……」と、ベソをかくような声。

 小さな手が俺の髪を握りしめていて、ちょっと痛いけど、ここは我慢。


 そうやってナナミの様子を遠巻きに見ていると、

 猫人族の男性がひとり、ナナミを囲む輪の中から出てきた。

 こちらにいるハヤトを見つけ、軽く頭を下げて近づいてくる。


「ナナミを連れてきてくれてありがとう。

 君達が来たと長老に伝えに、人を行かせている。

 まずは屋敷まで行ってくれないか。案内するから付いてきてくれ」


 この男性の言葉は、翻訳指輪が仕事をしたようで、意味が理解できた。

 ハヤトが「わかった」と短く答えて、「行こうか」と俺たちに告げる。

 猫人族の男性はナナミを囲む集団に戻り、「長老の処へ」と促している。

 

 マールに抱きかかえられるように歩くナナミ。

 次々と周りから声をかけられて、泣き笑いの顔で応えているのが見える。


 俺がこの世界に来た最初の日、ナナミと出会った日。

 宿屋の食堂で涙をこぼしたピンクの髪のネコミミ少女。

 あの時の悲しみに満ちた顔を思い出す。

 そのは今、故郷の人に囲まれて幸せそうに笑っている。


 ――良かったな……ナナミ。



 ◇ ◆ ◇



 町の周囲は背の高い木製の壁に囲まれていて、

 入り口には人の身長の二倍くらいの木製の門、そこに門番が立っている。

 大きさの大小はあるけど、入り口付近の造りはドラワテの町と大差はない。


 集まっていた人たちは仕事の途中だったのか、

 ここでナナミと俺たちに一旦別れの挨拶をして、再び来た道を戻っていった。


 マールも笑顔でナナミに何か声をかけて――

 たぶん「またあとで」とかそんな言葉だろう――その場を後にする。


 門の前に残ったのは、ハヤトと話をした男性がひとりだけ。


 その男性がハヤトと一緒に門番と会話を交わす。

 程なくして門をくぐり、街中を歩いて案内されたのが、広い庭のある一軒家。

 その庭には、数人が寝られるテントが幾つか、窮屈そうに設営されていた。


 男性の話だと、この屋敷は猫人族と親交の深い貴族の持ち物らしい。

 三階建ての建物と合わせて、今はここが猫人族八十人全員の生活の場だそうだ。

 周囲に気をつかって暮らしているのか、

 定員を超えた人数が住んでいる割には雑多な雰囲気はない。


 そこに、小さな子供たちと、その面倒を見ていたらしき女性五人――

 もちろん全員ネコミミ――がテントの中から現れて、再びナナミの周りを囲む。


 ここでもナナミが故郷の仲間と再会を喜んでいると、

 建物の中から年配の男性――猫人族の長老――が三人、姿を現した。


 一番年長に見える男性「ワシの名はニモタじゃ」肩までかかる髪は真っ白。

 三人の中で一番若そうな「俺はカラタだ」黒に近い茶髪、意志の強そうな眼。

 最後は「ワシはヤシタっちゅうもんだ」髪は茶色、優しそうに目を細めている。


 こちらも自己紹介。

 それから、近くで子供とじゃれ合っているナナミをそのままに、

 残りのメンバー、猫人族の長老、案内してくれた男性で、

 庭の一角に広げた敷物の上に全員腰を下ろす。


 これまでの経緯を踏まえて、お互いの苦労をねぎらったり、

 感謝の言葉を伝えたりの前置きを終えて、さっそくの議題――

 現在の最大の懸案事項、この地を離れて何処に向かうか、の話し合いを始める。


 そこで改めてハヤトが、俺たちの拠点近くで暮らすことを提案した。


「建物もなく整地から始めねばならないが――

 ここにいる全員が一緒に暮らせる土地を提供できる。

 すでに土地の管理者からは了承を取り付けた。

 地代は不要。おかしな真似をしない限り、暮らしには口を出さないはずだ。

 ここから遠い地だが、猫人族の者であれば旅程も問題ないと考える」


 土地の環境を説明するハヤトの口調から迷いは感じられない。

 新しい村に適した場所を求めて、さまよう必要がない――

 それだけでこの提案は十分に検討に値すると、俺でさえ断言できる。


「条件が良すぎると疑うかもしれないが、それは不要。

 これは追々わかるだろうが、土地の管理者がそういう性分だからだ。

 現に、近くに同じ条件で作られた人間の村があり、

 住む人間が増え、村を広げていっても、何も言わずにただ見守っている」


 これは洞窟村のこと。

 ちょっと特殊例だけど、猫人族の村ができても同じだと思う。

 そこでハヤトが一拍置いて、

 隣にちょこんと座っているクレアにチラッと視線をやって、再び口を開く。


「ただ、先に言っておくが、土地の管理者は……ソニアという名の魔族だ」


 それはやはり事前に話しておくべきことなのだろう。

 魔族というのは、猫人族にとっても感情を動かされる存在らしい。

 目に見えて動揺する長老たち……、

 と思ったら、総白髪の長老――ニモタさん――は違っていた。


 動揺を隠せない他の二名の長老を手の仕草で押さえ、

 一度ゆっくりと頷いて、静かな声で「その名前、聞いた事がある」と言う。


「ワシのひい爺様が生きていたころ、若い時分の話をしてくれての。

 その中で、ソニア様という名の魔族だけは信じられるお方だと聞かされておる。

 ワシら猫人に暮らす土地を与えてくれるというのなら、そのお方かも知れん」


 突然の話に、聞かされた全員が「ほう」とか「それは」とか、

 もしくは口に出さずとも驚きの表情を浮かべる。

 

 さすがソニアさん。そんな昔から猫人族の間でも有名だったらしい。

 それがどういう逸話なのか詳しくは聞かなかったけれど、

 この話で一気にこちらの提案を受け入れる風向きになった。


 落ち着きを取り戻した長老のひとり――

 カラタさんが、真剣な表情で「ふむ」と前置きをしてハヤトに問い掛ける。


「そこは、ここからどのくらい離れているのか」

「人の足で十日以上、子供連れだと二十日というところだろう」

「……であれば、我らの足なら十日かからない程度か」


 優しげな表情の長老――ヤシタさんが独り言のように話す。


「ちょうどいいと思うがなぁ。ここから近すぎると、

 あの村を取り戻そうと考える者がいつか出てくるかも知れねぇ。

 それはあんまりよろしくねぇよなぁ。

 思いを断ち切るには、それくらい離れている方がかえっていいんじゃねえかい」


 その後、いくつかの質問の受け答えが繰り返され、

 やがて長老たちの顔に決意の表情が浮かぶ。


 その結果――


 明日にでも、長老三人がハヤトの竜に乗り、現地までひとっ飛び。

 とりあえず、俺のダンジョン前の土地を、

 新「猫人族の村」候補地として実際に視察してもらい、

 問題なければ正式にソニアさんに申し入れをする――と……決定した。



 ◇ ◆ ◇



 その日の夜、屋敷の庭でナナミ帰還の宴が開かれた。

 張られていたテントを一旦片付けたので、全員が座れる広さがある。

 最初は長老のひとり――カラタさんから始まりの言葉。


「まわりのこともあるのであまり騒がしくはできないが、

 食べ物と飲み物だけはたくさんある。

 ナナミを守り、ここまで連れてきてくれた客人と共に楽しく過ごしてくれ」


 宴の席の正面にナナミ。長老のヤシタさんの隣りでちょこんと座っている。

 まわりをたくさんの人に囲まれて、楽しそうに話をしているのが見える。


 俺たちは、その手前の席。

 目の前、背の低いテーブルの上に食べきれないほどの料理が並べられている。


 そこに入れ代わり立ち代わり、何人もの猫人族の人があいさつに来てくれた。

 彼らは皆小柄で、成人でも身長が俺と同じくらい。

 男性の髪は茶色か白髪で、女性だけがカラフルな髪の色をしているらしい。


 話し言葉は猫人族の言葉ではなく、翻訳指輪が機能する人間の言葉。

 やはり、この人間の町と仲良くなろうとしていただけはある。

 今後の話をすでに聞かされているらしく、

 頭を下げ「よろしく頼む」と気の早い話をする人までいた。


 まぁ、対応はハヤトとリリスとアンヌさんに丸投げして、

 クレアは食べるほうを優先して、俺は時々相槌を打つくらいだったのだけど。


 そこに見覚えのある水色の髪をしたネコミミ少女が現れて、

 俺の座っている前で膝立ちの姿勢になり、ぺこりと頭を下げる。


「あなたがユウキさんですね。私はマールと言います」

「君は最初にナナミを迎えた、あの時の……」


「そうです。ナナミとは……友達と言うか姉妹と言うかそんな関係です。

 ナナミが本当に良くしてもらったと、ユウキさんのことを話していました」


 このマールという少女と話をしている時のナナミは随分と楽しそうだった。

 それだけ心を許した関係なのだろう。

 ここで見栄を張る必要もないし――と、俺は正直に話をする。


「偶然倒れていたナナミを見つけて、それで助けるような形になったけど、

 そのあとはずっと俺のほうが助けてもらっているんだ」


「えぇ、そのお話も……。

 食べ物と飲み物をもらって、優しくされて凄くうれしかったけど、

 初めのころは、何だか頼りなさそうだったっていうのも聞きました」


 マールがクスッと可愛い笑顔を見せる。

 顔立ちも仕草もナナミより大人っぽい。


「でも最初はナナミが守る側だったのに、いつの間にか自分より強くなったって。

 いつも一生懸命で、優しくって、とってもカッコいい人だって、

 ユウキさんのこと、凄く自慢げにそう言ってました」


「い、いや……まだナナミほど強くないよ。今だっていろいろ教わってるし……」


「ふふっ……。いつかナナミを守れるようになるって言われていて、

 それを本当にしてしまったって、それはもう嬉しそうに教えてくれました」


 まぁ、そんなことを話した記憶はあるけれど……褒められすぎて背中がかゆい。

 するとマールが姿勢を正して真顔になる。


「ユウキさん。ナナミを救ってくださって本当にありがとうございます」


 そう言って深々と頭を下げてきた。

 こんな時、どういう態度をすれば良いか分からず、ドギマギしてしまう。


「ナナミはあの能力で、村でも特別扱いされていたところがあって、

 あの事件の前までは、みんなとの間に壁みたいなのがあったんです。

 でも今日会ったら、何もかも吹っ切れた様子になっていて……驚きました。

 あれだけの事件があって、心に傷を負っていてもおかしくないのに」


 一度考えるように目を伏せてマールが言葉を続ける。


「ここに残った私たちだって、完全には心の傷が癒えていなかったんですけど、

 あのナナミの元気な姿に、村のみんなも今日全てを吹っ切れたようなんです。

 もう、みんな新しい場所で、新しく故郷を作ろうと前向きになっています。

 これも、ユウキさんがナナミと出会ってくれたおかげです。

 本当に……本当にありがとうございました」


 再び頭を下げ、最後にこう付け加えて俺の前から去っていった。


「ナナミのこと、これからも末永くお願いします」



 ◇ ◆ ◇



 宴が終わり、用意してもらった宿屋に向かう。

 俺の前を機嫌よく歩くナナミに「みんなと一緒でなくていいのかい」と訊く。


 するとピンクの髪の少女は元気にくるっと振り返り――

 いつもの笑顔で「ナナミは『勇敢な瞳』のメンバーなのデス」と、胸を張る。


 頭の上のネコミミが、いかにも楽し気にヒコヒコと揺れている。



 第54話、お読みいただき、ありがとうございます。


 次回――

 いよいよ動き始める猫人族の移住計画……です。


 更新は11月17日を予定しています。


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◇  ◆  ◇

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