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俺、異世界で自作ダンジョン目指します!  作者: ITSUKI
あっちでもこっちでも事件
53/67

第53話:ナナミの故郷(1)

 初めて泊まった洞窟村の宿屋。

 昨晩はハヤトがいなかったので、クレアも俺の部屋で眠った。

 もちろんナナミと一緒に仲良く同じベッドで寝てもらったのだけど。


 朝が来て、着替えを済ませてからナナミとクレアを起こす。

 二人には先に行くと伝えて、朝食のため宿屋に併設された食堂に向かう。


「リリス、アンヌさん、おはようございます」

「おはようございます。ユウキ様」

「おはよう、ユウキ君」


 食堂の隅にある六人掛けのテーブルのところに、

 すでに女性二人は座っていて、朝から爽やかな笑顔を返してくれた。

 これだけで今日は良い一日になりそうだと思える。

 そして、そこには出掛けていたハヤトの姿もあった。


「ハヤト、おはよう、戻ってきていたのか」

「昨日夜遅くなってからな」


 続けて神妙な面持ちで、話があるからついてきてくれ――と、

 理由を聞かされずに同行を求められた。


「すみません。ちょっと席をはずします。

 あとからナナミとクレアが来ますので、先に食事を始めてください」


 リリスとアンヌさんはハヤトの様子から何かを察したのか、

 深く追及せずに見送ってくれた。


 俺は二人に軽く頭を下げてから、親友のあとをついて宿屋から表に出る。



 ◇ ◆ ◇



 疑似太陽が明るく照らす街並みの中、朝の喧騒が始まろうとしている時間。

 何処に行くのかわからないまま、黙ってハヤトの後ろを歩いていると――

 その先は洞窟の壁しかない道の行き止まり、道具屋らしき店の前で立ち止まる。

 何故かその表情は硬い。


「別にこの場所に用があるわけじゃない。

 ナナミに聞かれたくなかったから、場所を移動しただけだ」


 確かに食堂だとナナミに聞かれないように話をするのは難しいが、

 ここまで来る必要もないんじゃないかと、この時は思ったけれど……。


「ナナミの故郷が何処なのか、どうなったのかが判ったぞ」

「本当か!」


 それは数日前に俺のほうからお願いしていた件。

 予想以上に早い結果報告に、驚きと興奮で声を大きくして聞き返してしまった。

 そんな俺のぶしつけな態度に怒りもせず、親友は話を続ける。


「あぁ、昨日出掛けたのは、その連絡が入ったからだ。

 オレが連絡用の魔法石を配る必要が無くなったので、

 代わりに知り合いに動いてもらったんだが、結果としてそれが良かった。

 これだけ早く結果がわかったからな」


「そこまでしてくれたのか……ありがとう、ハヤト」

「ナナミはオレの仲間でもあると言っただろう」

「そうだったな」


「人間の町と親交を結ぼうとしていた猫人族の村、

 そこが狼人族に襲撃されたという話は結構な噂になっていたらしい。

 ここから遠く離れた場所だったが、情報はすぐに見つかったそうだ」


「それで……ナナミの故郷はどうなったんだ」


 俺は恐る恐る尋ねる。


「結論から言うと、村は奪われてしまったらしいが、

 村から逃げ出した……人間と友好的を派閥の者たちは全員無事だそうだ」


「そうか!」


 それは朗報だ。

 もっと悲観的な結末を思い浮かべていた俺は思わず明るい声になる。

 ナナミもこれを聞けば、少しは慰めになるだろう。

 けれどもハヤトの表情からは硬さが消えていない。


「想像していた状況からすれば、かなり良い結果だとオレは思っている」

「俺もそう思うよ。そうか、ナナミの故郷の人は無事なのか」


「約八十人の猫人族が、いまは親交を結ぼうとした人間の町に避難している。

 怪我をしている者はいるが、命を落とした者はいないそうだ」


「でも……ナナミが言っていたけど、狼人族って、

 お前と比べるのは何だけど……一人一人がハヤトくらい強いそうじゃないか。

 それほどの奴らに襲われて、無事だと言うのはよほど運がよかったんだろうな」


「実際に襲ってきた狼人族は四人だったと聞いた。

 猫人族の実力は、探索者ランクで言えばDランクから、せいぜいCランク程度。

 普通の人間より能力が高いと言ってもそれくらいだ……それが八十人。

 狼人族をAランクと見れば、四人相手に全滅していても不思議じゃない」


 ハヤトがわかりやすく説明してくれた。


「ナナミの実力は猫人族でも特別だが……」


 確かにナナミ自身がそう言っていた。

 ハヤトやアンヌさんの評価は探索者のBランク相当。

 だからこそ戦えなかった自分を悔いて泣いたのだ。


「それでも、どうやっても狼人族の相手にはならない。

 俺でさえ、狼人族四人相手に勝つなんてことは、とても口にできない」


 ハヤトが俺の眼を見てそう言い切った。

 やはりナナミが戦っても勝てる見込みなどなかったのだ。

 でも、だとすると……。


「ナナミもいなくなった状況で、

 他の猫人族の人ってどうやって逃げ切ったんだろう」


「実際にナナミの故郷の猫人族に会って、

 話を聞いてきたんだが……全てナナミのおかげらしい」


 もうナナミの故郷の人に会ってきたのか。

 それも驚きだけど……全てナナミのおかげというのはどういう意味だ?


「えっ、そうなのか?

 ナナミは逃げたことを泣くほど悔やんでいるんだけど……」


 あのネコミミ少女の心の重荷は、そこにこそある。


「ナナミは狼人族にとって一番の標的だった。

 人間との友好の象徴だったのもあるが、

 周囲の噂になるほどのナナミの能力が、狼人族の嗜虐心に火をつけたらしい。

 絶対に逃がさないと狼人族が叫んでいたそうだ」


「うん、ナナミもそんな話をしていた」


「ナナミを追いかけた狼人族は三人。

 そのまま戦いを受けていたら、ナナミでも長くはもたなかっただろう。

 だが逃げ出した。それを狼人族が……狼人族のプライドが許すはずもない。

 逃がしてしまえば、足の速さで猫人族の少女に負けたことになるからな」


 ハヤトの声がほんのわずか熱を帯びる。


「狼人族の連中は意地になって追いかけていったに違いない。

 だが、ナナミは逃げ切った。狼人族三人からの追跡を、二晩走れるだけ走って。

 想像もできないほどの重圧の中を――だ」


 自分の不甲斐なさを呪いながら、

 極限まで追い詰められ、恐怖に逃げ続けたナナミを想い、胸が苦しくなる。

 ハヤトの表情が硬かった理由もここにあるのだろう。

 一度苦しそうに眉間にしわを寄せて話を続ける。


「それで結局、村を襲った狼人族の残り一人、

 すぐに仲間が戻ってくると高をくくっている間に、

 他の猫人族が傷ついて倒れた仲間も救い出し、全員が逃げるのに成功した」


「そう……だったのか……」


「ナナミのとった行動は恐怖からの逃亡だったのかもしれん。

 それでも狼人族から逃げ切ったナナミは……賞賛されるべきだ」


「ありがとう……ハヤト」


 ナナミが逃げたことで故郷の人達は救われた。

 ナナミが後悔する必要はないとわかった。

 これほどの良い知らせを持ってきてくれた親友に、

 健気なネコミミ少女の功績を讃えてくれた親友に感謝する。


「オレが話をしたのは猫人族の長老のひとりだったが、

 ナナミと一緒にいると伝えたら……涙を流して喜んでいた。

 生きているとは思っていなかったと、

 ナナミのおかげでみんなが無事に逃げ出せたとな」


「昨日だけでそこまでの話を聞いてきたのか」


「オレの身体にナナミの匂いがかすかに残っていたらしい。

 それでこちらの話をすぐに信じてもらえた」


「ハヤトもナナミと長いこと一緒にいたからな」


「そうらしいな。匂いなどオレには全くわからなかったが――

 でだ、大事な話はこれからなんだ」


 声のトーンを素に戻して、ハヤトが顔を近づけてくる。


「これからどうするかって話か。

 もしかして、ナナミの故郷を取り戻そうって考えているのか?」


「いや、それは……すまないが、あきらめてくれ。

 猫人族の者もそれは無理だと承知している。

 それは単純な戦闘力の違いという理由だけじゃない。いまの狼人族には、

 猫人族の者に手引きされて、その村にいるという大義名分があるからだ。

 オレたち人間という種族が簡単に手を貸すことは出来ない」


 それは、この世界の事情に疎い俺でも、納得せざるを得ない理由だった。

 人間と狼人族との争いになると、事が大きくなりすぎる。

 それに、ただ感情に任せて戦いを挑んでしまえば、

 せっかく助かったナナミの故郷の猫人族を、再び危険にさらすことにもなる。


「そうすると、大事な話ってのはなんなんだ?」


「いま、猫人族の者たちは町の貴族に世話になっている。

 町の人間も友好的ではあるのだが、やはり怖がる人間も出てきているらしい。

 町と村という離れた付き合いならば良かったのだが、

 八十人がまとまって街の中で暮らしていると、そういうことにもなるだろう」


 たとえるならCランクの探索者八十人、

 サラマンダーや竜の相手ができる者たちが一般市民の中で暮らしている感じか。


「貴族のほうは気にしていないらしいが、

 やはりこのまま世話になっていられないと、

 猫人族全員で、新しく生活できる場所を捜しに近々町を出ていくらしい。

 それまでに、ナナミに会わせてもらえないかと頼まれたんだ」


 それ自体は難しくないはずだけど、ハヤトには何か別の考えがあるようだ。

 たぶん、それは……。


「もしかして、この地に……、

 俺たちの拠点の近くに、ナナミの故郷の人たちを呼ぼうと考えているのか。

 ここを、その人たちの新しい故郷にしようと……」


「それを提案するかどうか決めるのはナナミ……と、

 あの娘の保護者であるユウキ、おまえだ。決めたことなら仲間として協力する。

 ここまでの話をナナミにどう伝えるのかも、おまえに任せる」


 ここまでがハヤトが伝えたかったこと。

 肩の荷が下りたようにフッと力を抜いて、再び話を続ける。


「とは言っても、猫人族の長老に下話だけはしてある。

 土地の持ち主に話を通す必要はあるが、

 離れた場所で良ければ、全員が暮らせる場所を紹介できるかもしれないと。

 そこはナナミがこれから暮らすつもりでいる土地だとな」


 そして最後に小さく笑みを浮かべる。


「オレとしても、ナナミが故郷の者と一緒に暮らせるほうが良いと思うし、

 そのために此処から出ていくなんてことになると……寂しいからな」


 ハヤトはぶっきらぼうな外面と違って、

 本当に仲間想いで優しくて頼りになって、そのうえ段取り上手な男だ。

 俺がもし女だったら惚れてしまうだろう――そう思わせるくらいの。



 ◇ ◆ ◇



 ハヤトとの話を終えて宿屋の食堂に戻る。


 ちなみにこの食堂、どちらかと言うと宿屋に併設というよりも、

 食堂がメインで宿屋が付属施設のようだ。


 テーブルは数十卓あって、給仕さんが十人近く動き回っている。

 この村の特徴として(ソニアさん目当ての)独身男性が多いので、

 自分で料理をしない若い男たちが集まってきて、朝から賑わいを見せている。


 ナナミとクレアも朝の身支度を終え、

 リリスとアンヌさんのいるテーブルで一緒に食事を始めていた。


「ユウキ、先に食べてるデス。あっ、ハヤトもお帰りデス。

 昨日のユウキがラスボスになった話は聞いたデス?」


「なんだそれは、聞いてないぞ!」


 ――おい、ハヤト……今はもっと大事な話があるだろう。


「いやぁ、ユウキ君の『俺の本当の力を見せてやろう』って台詞。

 聞いててしびれちゃったよ。ねぇ、リリス様?」


「えぇ、本当に。あと『お前は弱すぎだ!』って、

 敵一番の使い手にバシッと言い切ったあの時、聞いててドキドキしましたわ」


「デスデス!」


 クレアも果物を食べる手を休めて「うんうん」と何度もうなずいている。

 女性陣が朝から昨日の話で盛り上がっている。


「ユウキ! 何があったんだ、話せ!」


 何故だかハヤトがハヤトらしからぬ雰囲気で詰め寄ってくる。

 さっきまでの頼れる男はどこに行った。

 アンヌさんがしてやったりといった顔で「ほら、悔しがってる」と口を動かす。

 それは見て見ぬふりをして、親友をたしなめる。


「……ハヤト、その話はあとでちゃんと話すよ。

 それよりも今は大事な話があるだろう」


 はっとした表情になるハヤト。


「……すまない。今は別の話があるんだった。

 ユウキがラスボスになった話とやらは、そのあとじっくりと聞かせもらおう」


 名残惜しそうに念を押してくるハヤト。いったいどうなっているんだ。

 どうして、そんなにもその話が聞きたいのか。

 その思いをジト目で表してから、男二人、とりあえず並んでテーブルにつく。


 そんな俺の視線など気にもせず、

 ハヤトは近くの給仕さんを呼び止め、俺の分と合わせて料理を注文する。


 俺は気を取り直して、さっそくナナミに声をかける。

 故郷の人たちが無事だという情報だけでも、いち早く伝えたかったからだ。


「ナナミ、大事な話がある」

「デス?」


 俺の真剣な表情を見て、

 パンを口に入れようとした手を止めてキョトンとするナナミ。

 出来るだけショックを与えないように静かにゆっくりと話し始める。


「ナナミの故郷の人たちは全員無事らしい。

 襲ってきた狼人族のうち三人もナナミが引きつけてくれたおかげで、

 みんなが命拾いできたと感謝しているそうだ。

 ハヤトに調べるようにお願いしていたんだけど……勝手に調べてごめん」


 全てを簡潔に話して、ナナミが理解するのを待つ。


 ナナミの動きが止まる

 手に持っていたパンがテーブルの上にポトリと落ちる。

 瞳が潤み、口がへの字になる。

 顔を伏せて「えぐっ……えぐっ……」と嗚咽をもらす。

 その涙は感情が溢れ出した涙。悲しみの涙じゃないはずだ。


「ナナミは悪くない。一番いい行動をしたんだ。

 ナナミが一生懸命逃げたからこそ、

 村の人達も生き延びて、ナナミだって無事にここにいる。

 ナナミが悔やむ必要なんて何もない、もっと自分に自信を持っていいんだ。

 ナナミがみんなの命を救ったって聞いて……俺も鼻が高いよ」


 隣に座っているリリスが、

 泣いているナナミの背中をさすりながら頭を優しく撫でる。

 反対側のクレアも子供用の椅子の上で立ち上がり、

 手を伸ばして一緒にネコミミ頭を撫でている。

 俺の隣に座っているアンヌさんは、柔らかな眼差しでその三人を見つめていた。


 ナナミの感情が落ち着くまで少し待ってから、俺は話を続ける。


「まだ話は終わりじゃないんだ」


 リリスが俺のほうを向いて、

 うつむいているナナミの代わりに、先を促すように頷いてくれた。


「ナナミの故郷は奪われてしまって、これはもうどうしようもないらしい……。

 それで逃げた人達は今、仲良くなろうとした町で全員が世話になっている。

 けれど……このままじゃいけないって、

 町を出て、新しい居場所を探す旅に出るって話になっているみたいなんだ」


 それを聞いたナナミの肩の震えが止まる。


「それで提案なんだけど、みんなにこの近くで――

 俺たちの拠点の近くで新しい暮らしを始めてもらうってのはどうだろう。

 ソニアさんにお願いして……、って、まぁ、そこまで考えているんだけど、

 それは置いといて、まずは――ナナミ、故郷の人に会いに行かないか」


 話を途中で止めて、ネコミミ少女が一番望んでいるはずの提案をする。

 眼に涙を一杯に溜めたままナナミが顔を上げ、一生懸命に心の内を言葉にする。


「ユウキ……ありがとデス。ハヤトもホントにホントにありがとデス。

 ユウキに会えて、ハヤトや、リリスにアンヌさんにクレア、

 みんなに会えて楽しかったデス。でも、やっぱりずっと不安だったデス。

 ナナミは故郷がどうなったか、ずっとずっと不安だったデス。

 でも何もできなかった。どうすればいいかわからなかった。

 誰かにお願いして、結果を知るのも怖かった」


 涙がこぼれて、またうつむいてしまう。


「でも……でも……故郷のみんなが生きてるって教えてくれて、

 逃げたナナミのことを恨んでないって教えてくれて……、

 ありが……ありがと……デス……」


 リリスが「ワタシもナナミに会えて良かったと思ってます」とささやいている。

 クレアの手もそのままネコミミ頭を撫でている。

 ナナミの涙は喜びの涙だから、しんみりする必要はない。

 だから、あえて明るい声で宣言する。


「よし、じゃあ朝ごはんを食べ終わったら、さっそくでかけよう」


 ナナミが顔を伏せたまま頷く。


「それと、みんなが困っているのなら……ここで一緒に暮らしたいデス」


 その結論はあとでもいいかと思っていたけれど、

 ナナミの気持ちが決まっているのなら否やはない。

 隣りで「ふむ」とハヤトが呟く。


「では先にソニアに下話だけでもしておこう。

 まだ、ナナミの故郷の者たちも方針を決めていないはずだが、

 いざ決めたはいいが、ソニアに反対されたら何にもならない」


「そうか、じゃあ先にソニアさんの館に行こう」


 そこに、この場にはいないはずの人物の声。


「いちおう聞いておくが、猫人族は何人いるんじゃ」

「ハヤトが言うには八十人くらいだと……ってソニアさん聞いてたんですか」


 クレアの口を借りて問い掛けてきたのは、いつものソニアさんだった。


「あぁ、聞いておったし見ておった。ハヤトが帰ってきたとクレアから聞いてな。

 昨日の、ユウキがダンジョンのラスボスになると豪語した件、

 その話をハヤトが聞いたら、どんな顔をするか楽しみに待っておったのじゃ」


 ――この人もアンヌさんと同類か……。


「がしかし、別の話になってしまったようじゃな。

 先に言っておこう……好きにするがよい。

 その者たちが住みたいと言うのなら拒まぬ。嫌だと言うのならそれもまた良し。

 それが、わらわの答えじゃ」


「ありがとうございます、ソニアさん。

 で――俺がラスボスになった時も見ていたんですか」


「クレアが楽しそうに連絡をくれたのでな。いやあ、面白い見世物じゃった」


 ラスボス宣言のあとなら、

 盗賊たちがソニアさんの悪口を言っていた場面は見ていなかったようだ。

 それは運が良かった。

 けれども、その話をぶり返すと、ハヤトがまた……。


「おい、その話、あとで必ず聞かせてもらうからな」

「いやいや、今はナナミの故郷の話だろ」


 ソニアさんのラスボス話に乗った俺も悪いけど――と、

 そう思いながら話を元に戻すと、ナナミが口を開く。


「……みんなありがとデス。いつもみんなが明るくしてくれたから、

 ナナミはずっと寂しさを忘れていられたデス。村のみんなにもそう話すデス」


 ナナミは顔を上げていた。

 目はまだ潤んでいて頬には涙の跡があるけれど、その表情は晴れやかだった。

 もう、いつものナナミだった。


「そうじゃ、猫人族の者たちがここに住むというのなら、

 ユウキのダンジョンの近くに住まわせてはどうじゃ。

 今後も留守にするときに、昨日のような者たちが来たら困るじゃろ」


 クレアの口を借りたソニアさんの言葉に、

 リリスが「留守番をしてもらうのですね」と相槌を打つ。

 すると何を思いついたのか、ソニアさんの楽しそうな声。


「よいことを考えたぞ! ユウキのダンジョンをもっと本格的にして、

 猫人族の村をダンジョンのある村として大きくするというのはどうじゃ!?」


「……そうすると俺の責任が大きくなるんですけど」


 無茶なことを言うソニアさんにジト目を向けたいが、

 そこにはクレアの顔しかない。

 そしてやっぱりクレアの口からソニアさんの声。


「男が小さいことを言うな。

 猫人族をお主のダンジョンで養うくらいの大口を叩いてみろ。

 昨日のラスボス宣言のようにな」


 またまたラスボス話が出てハヤトがムスッとしている。

 それに気づいたアンヌさん。


「ハヤト、ハヤト、

 昨日の話はボクがあとで詳しく教えてあげるから、そんなに拗ねないでよ」


「拗ねるなんて子供みたいな真似、オレがすると思うか」

「ハヤト、そんなに怖い目で睨まないで……くふふ」


 ハヤトの相手をするアンヌさんの目はにやにやと笑っている。

 二人の会話を聞きながらリリスも苦笑している。


 いつもの俺たちの雰囲気の中で、いつしかナナミに笑顔が戻っていた。



 第53話、お読みいただき、ありがとうございます。


 次回は「ナナミの故郷(2)」

 ナナミが故郷の人達と再会。彼らの選択は……です。


 更新は11月10日を予定しています。


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◇  ◆  ◇

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