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第46話:ダンジョンを作ろう(4)

 ナナミが、クレアの力も借りて、周囲のムカデを跳び越え大跳躍。

 ワシャワシャ出てくるムカデを倒しながら、あけた穴を埋めていく。


 ――ネコミミ少女に剣先スコップ……ギャップが逆に良い感じ。


 残った魔物の相手をしながら、

 のんびりとそんなことを考える余裕さえあった。


 そのあと、ナナミが埋めた穴をスキル【土石操作】で締め固める。

 これでしばらく出てくることはないだろう。


 時間はちょうどお昼時。

 まずは地面に散らばる痺れムカデの魔石を集める。


 最初にスキル【空間把握レベル2】で位置を把握。

 スキル【土石操作】で魔石だけを浮かび上がらせて一ヶ所に集める。

 数が多かったので、これを数回繰り返して終わらせた。

 で、「ぐるぐる」に使っていた小石をその場に落として、さあ休憩だ。


 ちなみに魔石は山盛り状態。もう千の単位は確実にある。


 青空の下、シートを地面に広げて、

 木陰に置いておいたミリアさんの手作り弁当を真ん中に並べる。


「いただきます」「いただきますデス」「……いただきます」


 柔らかな日差しを受けてピクニック気分。

 大きなバスケットの中に、

 みっしりと中身が詰まったミリアさん特製サンドイッチに手を伸ばす。


 落ち着いたところで……、


「穴の中で魔物が出てきた時、助けてくれてありがとう」

「ユウキはナナミが守るデス」

「あたしも」


 まずは二人にお礼を伝える。

 それから言い訳に聞こえてしまうかもと思ったけれど、

 無限ドリルが魔物相手に動きを止めてしまった件を説明した。


「見えてたデス」ナナミの返事と一緒にクレアもうなずく。


 それなら話が早いと、その理由についての考察――

 スキルとして【無限ドリル術】を会得していないから――も付け加える。


「ということで、訓練がてら初期形態でムカデを倒していたんだ。

 それで午後はどうしよっか。予定では――

 もう少しダンジョンを掘り進めてから、ナナミと体術訓練だったけれど、

 ムカデをあのままってのもスッキリしないよね」


「一緒に体じゅ「ムカデを倒す」……ム、ムカデを倒す……デス……」


 ナナミの言葉の途中に、珍しく自分の意見を言い切ったクレア。

 体術訓練と言いたかったナナミが仕方なく意見を変えた。


「うん……」


 そうやって少女と幼女は意見をひとつにしてくれたけれど、

 ちょっと気がかりな点があったので、歯切れの悪い返事になってしまった。


 気がかりな点……それは俺の残りの魔力量。


 スキル【地中適応】発動の儀式「ぐるぐる」には魔力が必要だ。

 それも、無限ドリルでトンネルを掘るのと比べて数倍の魔力を。

 しかし、さっき魔石を集めるのにも魔力を使ってしまって、残りが心許ない。

 とはいっても、ムカデと決着をつけたいのも事実。


 どうしようかと考えながら、

 コップに入れたミリアさん特製の飲み物を口にする。

 ハチミツ入りの紅茶なのだろうか。甘くておいしい。


 すると――


「おわっ!?」

「どうしたデス?」と、ナナミの怪訝な顔。


 なぜ、俺が驚いたのか……それは身体に魔力が満ちていく感じがしたから。

 その原因がミリアさんの飲み物にあるのは間違いない。

 そして……コップ一杯を飲み干した時には、魔力が完全に回復していた。


「このハチミツ紅茶、魔力の回復効果があるみたいだ」


 そういえば――

 俺もトンネル掘りで魔力を使うけれど、クレアも風魔法を使いっぱなしだ。

 作業内容をどこかで聞いて、ミリアさんが用意してくれたのだろう。

 あの人の無表情の下には、やっぱり優しさが隠れている。


「クレアもこの紅茶飲んでおいてね」

「うん」


 ナナミの体術も魔力を使うのだろうか。

 いや、それ以前にミリアさんの作ったものが身体に悪い訳がない。


「もちろんナナミもね」

「はいデス」


 これで心配事が無くなった。

 食事を終えたら再びムカデ退治だ。

 俺たちのダンジョン(試作)を取り戻そう。



 ◇ ◆ ◇



 食後の休憩もしっかり取ってから、

 一時的に埋めていたダンジョン入口にもう一度穴をあける。

 大きさは休憩前と同じくらいで。

 再び、痺れムカデが穴から湧き出てくる。


 討伐再開。


 やがて――

 午前中の戦いと同じくらいの時間が過ぎた頃、

 ようやく這い出てくる痺れムカデの勢いが弱まってきた。


 ――次の段階に移ろうかな。


「ナナミ、クレア、このまま行けるかい?」

「はいデス」「うん」

「じゃあ、中に這入って残党を退治しよう」

「やるデス!」「うん!」


 無限ドリルを初期形態から掘削形態にして、入口の土砂を取り除く。

 ムカデにぶつかると、相変わらず無限ドリルが止まってしまうので、

 大きく削ったら残りはナナミのスコップに任せる。

 とりあえず中に入れる穴があけば良かったので、さして時間はかからなかった。


 ぱらぱらと出てくるムカデを倒しながら、

 魔物に占拠されてしまった俺の試作ダンジョンに再び足を踏み入れる。

 設置済みの洞窟用魔法石に照らされて、

 うごめいている痺れムカデがまばらに居るのが見える。


 ――この数ならもう大丈夫だ。


 ここまでムカデを大量に倒し続けて、その姿にはもう慣れてきた。

 最初に出会った時の気持ち悪さが薄れているし、威圧感もない。


 ナナミと並んで突撃する。

 もちろんクレアはナナミに肩車されたまま。

 俺の「ぐるぐる」はもう要らない。スキル【地中適応】は全開だ。

 初期形態の無限ドリルを手にして、通路を突き進む。


 道中のムカデを無双状態(ほとんどナナミの手柄だけど)で全て片付けて、

 通路を掘り進めた先にあった広い空間に辿り着く。

 ここにはまだ灯りはないけれど問題なし。


 一面に痺れムカデが這いずり回っているけれど、それでも隙間に地面も見える。

 当初、ムカデが折り重なって空間の底がわからない状態だったのを考えれば、

 いまはもう終わりが見えていると言ってもいいだろう。


 ナナミがクレアを肩車したまま、剣先スコップを振り回して突入。

 俺もあとを追って、初期形態無限ドリルを振るう。


 空間の底は、なだらかな凹凸があるものの、ほぼ平ら。足元に不安はない。

 無双状態でしばらく痺れムカデを退治する。


 突然――


 初期形態の無限ドリルが魔力を要求してきた。

 これはもしかして……そう考えて柄を握る手に魔力を込める。

 その結果、全長が「グンッ」と伸びて、そのまま刃の部分が回転を始めた。

 掘削形態のように刃の傘が開いた状態ではなく、閉じたまま。


 これは愛用の槍と折り畳みスコップが融合した時、

 この無限ドリルを最初に手にした時、「穿孔するぜ」と想像した形だ。

 今までこの形になったことはない。もちろんこの形で刃が回転したことも。


 間違いなく無限ドリルに、いや、それを使う俺に変化が起きた証拠。


 そして、刃先が回転するのなら、それは【槍術】のレベルアップじゃない。

 一目瞭然だけれど、これはドリルの動きだ。

 俺は確信する。スキル【無限ドリル術】を手にしたのだと。


 まさにドリルのように回転する刃。


 感動する間もなく襲い掛かる魔物に、

 これ幸いと新しい形態での威力を試してみる。


 最初に襲ってきたムカデの頭を一突き。

 何の抵抗もなく貫通する無限ドリル。一瞬で魔物は光に還った。


 続いて、四体が一斉に向かってくるのに合わせて一薙ぎ。


 ガリガリガリッ!


 これもまた手元に感じた反動は微々たるものだった。

 しかし魔物に与えたダメージは十分。四体がまとめて消えていく。


 これまでは横に薙いでも、

 単にえぐるような攻撃になってしまい、致命傷には足りなかった。

 しかし今では、柄に巻き付く八枚の刃が高速に回転して、

 狙った魔物を粉砕してしまうほどの、高い威力を持つようになった。


 掘削形態ではできなかった魔物へのドリル攻撃が……可能になったのだ。


 ただし、残骸を異空間に送っている様子はない。

 魔石が残っているのがその証拠。だけど、これはこれで都合がいい。


 しばらくそのまま使い続け、周りの敵を蹴散らした後、

 もうひとつ試したかったことをやってみる。

 一度回転を止め、刃の傘を広げ掘削形態へ。

 そして回転させる。この形状で魔物に攻撃できるかどうか。


 結果は――残念、やはりこの形態だと魔物にダメージを与えられなかった。


 ムカデに刃があたると回転が止まってしまう。

 これはもう仕方がない。

 一旦、後退して元の形態に戻してから、再び痺れムカデ討伐に取り掛かる。


「無限ドリルの形が変わったデス!」

「うん、たった今ね。たぶん【無限ドリル術】が手に入ったんだと思う」


 ナナミも俺もかなりの余裕がある。

 戦闘中だというのにこうして話しかけて、それに返事ができるくらいに。

 襲い掛かるムカデをスコップで両断しながら、ナナミが驚きの声をあげる。


「無限ドリル術! すごいデス!」

「使い慣れるのは、これからなんだけどね」


 そうナナミに答えて、

 この新しい無限ドリルの形態について考察してみた。


 初期形態、掘削形態、そう名付けた形態とは別の形。


 初期形態との違いは……柄が伸びて、鋭い先端が回転するところ。

 掘削形態との違いは……刃の傘が閉じていて、残骸を異空間に送らないところ。


 形が「穿孔するぜ」だから【穿孔形態】と呼ぶことにしよう。


 ただの短槍でしかない初期形態と比べてその威力は段違い。

 突きの貫通力は格段に上昇。

 横に薙いだ場合、当たるを幸いに相手かまわず粉砕していくので、

 強力な範囲攻撃になったといえる。


 現に(敵のレベルが低いのもあるのだろうけど)、

 痺れムカデを討滅するのに、ほとんど力を必要としないのだ。

 もうザコ敵相手に苦労する必要がなくなったと、そう考えてもいいくらい。


 今後も掘削形態で魔物が倒せない状況が続くとしても、

 この【穿孔形態】があれば十分に戦える。


 いや、魔石が残ることを考えれば、こっちのほうが便利だ。


 使い始めてまだ二日目。

 それで【無限ドリル術レベル1(だと思う)】を手に入れて、

 効果がこんなにすごいのだから、これ以上を望むのは贅沢だろう。


 そのうちに、無限ドリル術レベル2を会得すれば、

 掘削形態でも同じように魔物を倒せるようになったりとか、

 異空間から土砂を取り出せたりとか、できるようになるのかもしれない。


 そんな夢を将来に残しておくのも、またいいものだ。


 気分が良くなり、調子を上げた俺は、

 ナナミとクレアのペアに負けないように、

 痺れムカデの残党を殲滅すべく集中していった。



 ◇ ◆ ◇



 それからしばらくして――

 痺れムカデの一掃が完了した。


 戦場に残った魔石を、灯りのある通路に全て集めて、ざっくりと数える。

 結果……倒した魔物の数はおそらく万の単位に近いか、超えたかくらい。


 囲まれない限りはザコ敵だとはいえ、よくもまあ、これだけ倒したものだ。

 八割くらいはナナミ・クレアペアの功績なんだけど。


 これって、いくらくらいに換金できるんだろう。


 もちろん退治した割合を考えて、みんなで分配するつもりだけど、

 そうはいっても、欲の無い二人が素直に受け取ってくれない気もする。


 でもまあ、ナナミだってあの爆発苦無なんかを買ったりするだろうから、

 話だけしたら俺のほうで預かっておいて、必要な時に渡すなりしよう。


 これだけあるから俺の取り分だけでも、

 十分にダンジョン運営費の足しにできると思うし。


 で、この戦いでもうひとつ手に入れたモノが、

 残された空間――痺れムカデが最初にいた広い空間。


 地面は緩やかな凹凸はあるけれどほぼ平ら。

 全体の形はちょっといびつな半球形。

 壁の下半分と地面――というかムカデがうごめいていた部分、

 そのあたりは都合よく魔物の身体で研磨されたのか、綺麗な面を見せている。


 考えていた部屋の形とは違うけど、

 大きさは計画と同じくらいだから、これはこれで趣があっていい感じ。

 

 通路の床からは胸の高さ分くらい地面が下がっているから、

 階段を作るか通路を下げるかすれば、そのままでも使えそうなくらいだ。


 でも、どうするかは後で考えるとして……

 魔物が発生しないように、今のうちに洞窟用魔法石を取り付けてしまおう。


 天井が高いから、俺の肩の上でナナミが立ち上がり、その上にクレア。

 魔族、猫人族、異世界人の三段重ね。筋力が上がっているからこそできる芸当。

 クレアが壁の上方に魔法石を打ち込んでいく。空間に灯りがともる。


 ということで――


「今日の試作ダンジョン作業はここまで」

「はいデス」「うん」


 予定外なことがあったけれど、

 まずは初日の作業は大成功と言ってもいいだろう。


 ダンジョン製作の進捗は予定通りといってもいいくらいだし、

 スキル【無限ドリル術】を会得できたし、

 ナナミとクレアの連携訓練にもなったし、大量の魔石も手に入れた。


 だから満足だ。


 集めた魔石を袋に入れて、ダンジョン(製作中)から外に出て休憩。

 しばらくそのままで体の疲れを癒す。


 そのあと、まだ日暮れまで時間があるから……、


「ナナミ……体術を教えてくれないか」

「やるデス!」


 今日一番の笑顔を見せてくれた。


 けど、訓練なんだからクレアは肩から降ろしてほしい。

 クレアも両手を上げて「さあ、こい」みたいなポーズはお願いだからやめて。



 第46話、お読みいただき有り難うございます。


 次回――試作ダンジョンも形になりつつあり、連絡網組も順調の様子。

 しかし事件は起こる……です。


 更新は9月8日を予定しています。


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