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第45話:ダンジョンを作ろう(3)

 どぉーん! どぉーん! どぉーん! どぉーん!

 ずざざざざざざざざっ……。


「だーっ! だーっ! だーっ! だーっ! だーっ!……デス!」


 ザスッ! ザスッ! ザスッ! ザスッ! ザスッ! 

 ずざざざざざざざざっ……どどどどどどどぉーーーん。


 俺が掘った洞窟の入口はナナミの一連の行動で見事に埋まってしまった。

 最初の「どぉーん!」から、しっかり見ていたから解説しよう。


 ナナミは予備の工具が入っていた袋から、俺の知らない武器を取り出していた。

 遠目で見えた形は、忍者が使っていた「苦無くない」にそっくり。

 それを立て続けに何本も入口上部の崖に投げつけたのだ。


 苦無は刺さるだけではなかった……その場で爆発したのである。

 それが、何度も聞こえた「どぉーん!」という轟音。

 衝撃で土塊が落下。この時点ですでに入口の半分ほどが埋まる。


 続いてナナミは予備の剣先スコップを握りしめて大きく跳躍。

 さらに、肩車されているクレアが「やっ!」と声を上げて、

 風魔法【旋風】でナナミの跳躍の補助をする。


 崩れた入口上部のさらに上まで到達したナナミ。


 そこで「ザスッ!」っと、手にしたスコップを足元の地面に何度も突き立てる。

 一撃ごとにナナミの「だーっ!」という掛け声。

 すでに苦無の爆発によってもろくなっていた崖の上部が、

 この追撃に耐えきれず「ずざざざっ」と盛大な音を立てて崩れ落ちる。


 その結果「どどどどどどどぉーーーん」と、

 残っていた空隙に土砂が流れ込み、洞窟の入口は完璧に封鎖されたのだった。


 その時の俺の格好は……というと、

 ちょっと離れた場所で、自分の掘った斜めの穴の中でうつ伏せになっていた。

 この状況……ただ怖くて穴に隠れてしまった臆病者そのもの。

 まったく言い訳の余地がない。

 結局、この穴を掘った時に想像していたことが現実になってしまった。


 ナナミ……頼りになりすぎ。


 それにしてもあの苦無、一体いつの間に……。

 どこにもそんな伏線は無かったはずなのだけど。


 だが、思い返せば……。


 確かトネルドさんの魔法石店に最初に訪れた時。

 魔法石で強化された武器を、ナナミが興味津々に見ていたのを覚えている。

 苦無が見せたあの威力から考えて、あそこの商品だったのは間違いない。


 おそらく……その時に気に入って、目をつけていた。


 これまで遠距離攻撃に使っていた手斧は、

 雑魚相手ならともかく、強敵相手にはすでに心許なくなっていた。

 あのラスボス戦でも困っていたし。

 だからこそ、大爆発を起こす投擲用の苦無なら欲しいと考えても不思議はない。

 そういう忍者っぽい武器がナナミにはよく似合うし。


 そういえば、拠点への通路を作るとき、

 ダクートさんと一緒に洞窟村に戻って、道具と部材を取りに行っていた。

 その中に洞窟用魔法石もあったから、トネルドさんの店に立ち寄ったのは確実。

 手に入れたのはこの時だろう。


 しかし……まだ謎が残る。


 ナナミには、お菓子を買うお小遣い程度のお金しか持たせていない。

 あれだけ威力のある武器、それなりの値段はするだろう。

 それに、基本使い捨てだろうから複数本まとめて入手したはず……。

 現に今も何本か使ってた。

 そこまでの品をトネルドさんが無料で譲ってくれたとも思えない。


 いや待て……。そういえばあの時。


 そうだ!

 その場でハヤトたち連絡網組が、トネルドさんと打ち合わせをしていたはずだ。

 戦いに使いたいとナナミから頼まれれば、

 ハヤトなら、間違いなく自分の持ち金から代金を払っただろう。

 昨日の夜、風呂に入っていた時――

 別の会話の中だったけどハヤトは言っていた……「ナナミはオレの仲間だ」と。

 これも伏線だったということか……。


 謎は全て解けたぜ。


 その時に手に入れた苦無を、工具と一緒にして、今日も持ってきていたのだ。

 そして今の事件、さっきの入口の封鎖が――

 新武器の役立つ時だと考えて、ためらうことなく使用した……そういうわけか。


 とまぁ、何もすることが無くなってしまったので、

 こうして関係ない謎解きをして、自分の心を誤魔化してみたって感じ。


 続いて気恥ずかしさを隠すために、

 自分の掘った穴から「ふふっ」とニヒルな笑みを浮かべて這い出す。


 そしてナナミに声をかける。


「やっぱりナナミは頼りになるな」


「はいデス!」


 ネコミミ少女は俺に頭を撫でられて、輝く笑顔を浮かべる。

 次にナナミが肩車しているクレア。

 顔の位置は俺より少し上だけど、手を伸ばせば頭に届く。


「クレア、いつもありがとう」

「……うん」


 魔族の幼女も頭を撫でられて目を細めている。


 ちなみにもうひとつ、別の謎が残されている。

 それは無限ドリルが痺れムカデに対して無効化してしまったこと。

 ただし、それには思い当たる理由がひとつある。


 ヒントはソニアさんの言葉。


 無限ドリルが作り出している異空間が一杯になったらどうなるか、

 リリスがそう尋ねた時、ソニアさんの答えは――


『無限ドリル自体に何かしらかの対応策があるはずじゃ』


 俺はその能力を知らない。手にしていない。

 そこから導き出される答えは――

 まだ俺は無限ドリルを使いこなしていない――ということ。


 その話のあと、ハヤトも言っていた。

 スキル【無限ドリル術】があるのなら身に付ける必要があると。


 おそらく、そういったスキルがないために、

 無限ドリルの持つ能力のほんの一端しか使えず、

 魔物を刃で斬り付けることすらできなかったのだろう。


 ただこの推理が正しかったとして、ひとつ問題がある。

 スキル【無限ドリル術】を会得するにはどうすればいいのか。


 スキル【槍術】なら槍を使って魔物を倒し続けて手に入れた。


 ならば無限ドリル術は、ひたすらトンネルを掘り続ければいいのか。

 それとも、どうにかして無限ドリルで魔物を倒したほうがいいのか。


 その答えを得るために、ちょっと試したいことがある。


「ナナミ……あれ、どうする?」


 入口が埋められた洞穴。向こう側は痺れムカデの大群。


「やるデス!」


 ――そうだよね。


 あそこの中にいる痺れムカデは、

 ほんの一瞬だけ対峙した感触だけど、マヒ攻撃以外は恐れるほどではなかった。


 こうして体勢を立て直してしまえば――

 ナナミなら、マヒ毒だけ用心して、数十体まとめて相手にしても余裕のはず。

 俺だって例の儀式で【地中適応】を五割ほど発動できれば、数体同時に戦える。

 さらにクレアのサポートだってある。


 圧倒的な大群だったからこそ脅威だったけど、そうでなければ怖い敵ではない。

 ましてや一匹ずつしか通れない穴をあけて、そこから出てくるだけなら……。


「じゃあ、ちょっと穴をあけて、出てきた痺れムカデを倒していこうか。

 危なくなったら、すぐに穴をふさぐ準備だけしておくから。

 せっかくソニアさんに許可をもらった場所なのに、

 魔物が出てダンジョンが作れませんでした、なんて話はできないからね」


 てことで、周辺に落ちている小石でいつもの【地中適応】発動の儀式。

 洞窟の中で戦えればいいんだけど、今はムカデに占拠されている。

 というか、それを取り戻そうとしているんだった。


 ぐるぐる、ぐるぐる。


「穴をあけるよ」

「はいデス」ナナミの返事。クレアも頷いている。


 入口を塞いでいる土砂を【土石操作】で少しずつ慎重に取り除く。

 それ以外の場所は締め固めて、ムカデに削られないように。


 やがて最初の一体が這い出てくる。


「こいつは俺にやらせて」

「はいデス」


 試したかった事とは、

 無限ドリルの初期形態で魔物に攻撃できるかどうか。


 傘を開いた状態を掘削形態と呼ぶとして、この状態の攻撃は魔物に効かない。

 さっき痛い目に遭ったばかりだ。

 だが、この形態こそが無限ドリルの真骨頂とも言える能力を使えるのである。

 だからこそ【無限ドリル術】がなければ魔物を相手にできないのではないか。

 これがひとつの仮説。


 では、初期形態――傘が閉じて柄が短くなった状態――であればどうか。

 元の長さよりも短いが、それでも『短槍』と呼べるほどの形はある。

 これならば、いま俺が持っている【槍術】で戦えるのではないか。


 これが槍代わりに使えるのなら、戦い続けてみよう。

 それで、いつか無限ドリル術を会得できればありがたい。


 これでも魔物にダメージを与えられなければ、

 もしくは、ダメージを与えられても無限ドリル術が手に入らなければ、

 次に試すのは無限ドリル術を求めて、ひたすらトンネル掘りだ。


 無限ドリル初期形態を使って、

 長い身体をくねらせて向かってくる痺れムカデの頭を一突き。


 大丈夫だ――攻撃が通っている。【槍術】も働いている。


 反撃させる隙を与えず、今度は無限ドリルの閉じた傘の部分を叩き付ける。

 水平の刃ではないので両断するような攻撃にはならないけれど、

 八枚の刃が巻き付くように立っているので、えぐるような斬撃になる。


 これも効果あり。さらに逃がさないように一突き。

 この攻撃三回で痺れムカデは光に還っていった。


 やはりこの初期形態だと魔物に攻撃できるようだ。

 しばらくはこれを俺の武器として魔物退治をしていこう。


 もしかしたら無限ドリル術の会得じゃなくて、

 槍術のほうがレベルアップするのかもしれないけれど。


 なんにせよ、結果が出るのはまだ先の話。

 とりあえず目先の目的……俺のダンジョン造りを邪魔する奴らを排除せねば。



 ◇ ◆ ◇



 痺れムカデが穴から几帳面に一体ずつ這い出てくる。

 それを出てくるそばからナナミが退治している。

 武器として使っているのが、穴を崩した時にも使っていた剣先スコップ。

 どうやらあれが気に入ったようだ。華麗に振り回して一撃で仕留めている。


 ナナミにとっては素手で戦う方が攻撃力が高いのだろうけど、

 リーチが伸びるから、痺れムカデに接近戦を挑むより危険は少ない。

 マヒ毒に用心しての選択だろう。


 レベル差があるから多少攻撃力が落ちても問題ないし。

 大群相手に囲まれないようにするのにも便利だ。


 これからこういった場面で武器として使うつもりなら反対はしない。

 俺も剣先スコップは好きだから。


 という感じで、

 微笑ましい気持ちで見ていたら、ナナミから注文が入る。


「ユウキ、もっとたくさん出てきても大丈夫デス!」

「あぁ、わかったよ」


 そうだった。見ているだけじゃなくて退治するんだった。

 このままだと俺にも回ってこないし、

 こんなにゆっくりしたペースだと、全部倒すのに何日かかるか分からない。


 慎重に穴を広げる。ずりずり、ずりずり。


 あれ、大きくしすぎたか。

 痺れムカデが後ろから押されるように這い出てきて、

 いっぺんに四、五体まとめて現れるようになってしまった。

 さらに、出てくるスピードも速くなって……。


 ――やっぱり俺に回ってこない……。


 出現スピードは十倍くらいになっているのに、

 ほぼ全てナナミの餌食になっている。

 時々クレアが【とうっ!(風の刃)】を使って取りこぼしがない。


「ナナミ……俺にも回して……」

「もっと穴を大きくするデス!」


 戦闘中にもかかわらず、俺の小さな呟きを聞き分けての返事がこれだった。

 仕方がない。もう少し大きくするか。


 ずりずり、ずりずり。


 ――あらら、さすがにこれは……。


 思っていた以上に出現スピードが上がってしまった。

 それに合わせてナナミの動きもかなり上昇。

 穴から這い出るとすぐに四方に散ろうとする痺れムカデ。

 個々に動くその姿を追いかけて、剣先スコップを振り回して仕留めている。

 距離が離れた敵はクレアの担当。得意の風の刃で攻撃している。


 ここまで大量に湧き出るようになって、ようやく俺のほうにも流れてくる。

 五体ほどが先頭に、その後ぞろぞろと。


 ――これで丁度いいくらいか。


 しばらくの間、そのまま痺れムカデの討伐を続ける。


 こうやって数の多い魔物と戦っていると、

 思い出すのはドラワテのダンジョン地下五階――無限の部屋。

 ハヤト達の協力で百体の魔物を倒した、あの時のこと。


 魔物の強さは、おそらくこの痺れムカデの方が弱い気がする。

 その代りに毒攻撃があるから厄介さはこっちの方が上だろうけれど、

 スキル【毒耐性】があるので、それも気にならない。


 加えて、あの時と比べると俺は格段に強くなっている。

 もう数十体は倒しているけれど、

 このまま百体、いや、それ以上倒す事を考えてもまったく苦にならない。


 あの無限の部屋で戦ったのはいつだったか……確か――


 昨日……ソニアさんの館と洞窟村。拠点予定地までの通路掘削。

 一昨日……ガウスと剛岩の竜騎士が待ち伏せ。ラスボス退治。

 三日前……アンヌさん無双。

 四日前……ガウスと初顔合わせで俺の自爆攻撃、自滅憑依体と対戦。

 五日前……ダンジョン探索開始、地下五階の無限の部屋。

 六日前……異世界への入口。仲間と出会う。


 五日前でした。この世界に来て一週間しか経っていないのか……。

 だというのに、こんなことを考えながら、

 痺れムカデの大群と戦っていられるほど強くなったのだなぁ。しみじみ。


 なんて感じで、少し余裕があるくらいだったので、

 ナナミの戦いにも意識を向ける。


 やっぱりナナミのほうも余裕があるみたいだ。

 ていうか、ナナミ、動きが一段と速くなっていないか。


 思い返せば最初の日、

 因縁をつけてきた男との対戦の時、俺にはナナミの動きが見えなかった。

 けれども、あれからレベルが上がり、能力が上がり、

 さっきまでは確かにネコミミ少女の姿を眼で追えていたのだけれど。


 それが、今また残像のような影だけしか見えなくなっている。

 ナナミもレベルアップしたのか。確かにそれは十分考えられるけど……。


 クレアの【やっ!(旋風)】がナナミの移動に合わせて聞こえてくる。


 もしかして、

 ハヤトが使っていた、腕とか足とかに個別に風をまとって体術を加速する技、

 自滅憑依体の相手をした時の「あれ」を合体技で使っているのか?


 だとすると……すごいな。


 さすがにハヤトほど完璧ってわけじゃないと思うけど、

 基になる身体系の能力はハヤトよりナナミの方が上だから、

 結局同じくらいになるんじゃないか。


 余裕があるから二人でいろいろ試しているのかな。

 それはそれで微笑ましいし、そして頼もしい。


 でもクレアも肩車されたまま、よく平然と魔法を使ったりできるもんだよな。


 そういえば、俺が肩車していた時も、

 レベルアップで上昇した筋力があるから疲労は無かったけど、

 それだけじゃなくて、肩の上に載せている不安定さが全くなかったな。

 あれってもしかして、クレアのスキルなのか。

 肩車される術――【被肩車術】とか。なんだかありそうだ。


 それにあの姿……というか、ちょっと小難しい言葉を使うと、あの概念。

 あれって某有名SRPGのサブパイロットか妖精みたいだ、乗り換え可能な。

 で、いまのは精神コマンド【加速】っぽい。


 とまぁ、そんなことを考えながら、そろそろ俺も百体以上は倒したころ、

 いまだに痺れムカデの出現が一向に収まらないでいるけれど――ちょっと提案。


「ナナミ、クレア、一旦終わらせよう。

 ムカデが出てくる穴を埋めて、外に残っている奴らも片付けて休憩にしようか」


「はいデス」「……うん」


 ――そろそろお昼御飯の時間だ。



 第45話、お読みいただき有り難うございます。


 次回――ダンジョンを作ろう(4)

 お昼を食べて魔物討伐再開。試作ダンジョンを取り返せるのか。

 そして無限ドリル術は?……です。


 更新は9月1日を予定しています。


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◇  ◆  ◇

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