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俺、異世界で自作ダンジョン目指します!  作者: ITSUKI
ダンジョン攻略後半戦
34/67

第34話:戦い終わって(1)

「お加減は如何ですか?」


 次に目覚めた時、リリスの顔が目の前にあった。

 綺麗な青い髪が乱れて、顔には土ぼこりが付いていて、

 楚々としたきれいな顔が勿体ないことになっているけれど、

 それを打ち消してもなお余る明るい笑顔が見つめていた。


 こっちからも笑顔を返そうと思ったけれど、

 いきなり、あの【空間把握レベル2(仮称)】が、

 暴走気味に周辺の物体の位置情報を流し込んできた。

 顔をしかめて、【空間把握レベル1(仮称)】の時のように情報を制限する。

 心配そうな表情を浮かべたリリスに「大丈夫だよ」と答える。


 どうやら俺はいま、リリスに膝枕をされているらしい。

 もう少しその感触を感じていたかったのでそのまま話し出す。


「ちょっと新しいスキルに戸惑っただけだから大丈夫。

 回復してくれたんだね。ありがとう……で、戦いの方はどうなったのかな?」


 リリスは俺の言葉に納得して笑顔に戻る。

 スキルの覚えたてにはよくある現象だからだろう。


「小さいモグラたちはミリア様とナナミで問題なく倒しました。

 ユウキ様が巨大モグラの方を倒してくださいましたから、

 ミリア様が心置きなく魔法を使えるようになりましたので」


「そうか……良かった。ミリアさん、ありがとうございました」


「あまり役に立たなかったかもしれないが……」


「いえいえ、そんなことはありません。

 ミリアさんがいなかったらどうなっていたか……。

 あの時は何一つ手が無くなっていましたし。

 ミリアさんが来てくれたからこそ、

 風向きが変わって全てが上手くいったんですよ」


「そう言ってもらえるとありがたい。御館様に叱られなくて済む」


 ミリアさんは相変わらず無表情のままだ。

 でも本当に、ミリアさんの力が無かったら、

 いったいどうなっていたかと考えるだけでも恐ろしい。

 全てはあの人が見ていてくれたからだ。


「ソニアさんは、今も見ていますか」

 

 クレアに向かって話しかける。

 今、幼女は直にお尻を地面に付けて、すぐ側に座っていた。

 でも答えてくれたのは大人の女性の声。


「あぁ、いるぞ。戦いは見せてもらった。

 スキル【地中適応】を手に入れたようじゃな。見事だった」


「何かのルールすれすれなのに、助けていただいてありがとうございました。

 ラスボスを倒したら、ソニアさんに会いに行こうと思ってたんですよ」


「その話は昨夜、クレアから聞いた。

 それもあって、今日はお主たちの動向を見ていたのじゃ」


「そうだったんですか。運が良かったんですね。

 ソニアさんが見てなかったら、俺たちは助かりませんでした」


「なに、クレアがわらわの娘なのもあるが、

 お主もわらわの同志でありライバルじゃ。こんな所で命を落とされても困る」


 ――同志でライバル?


 何故だろう、ソニアさんが変な勘違いをしている。

 でも、今はそれを訂正する雰囲気じゃないのもわかる。


「……そうですね。クレアも頑張ったな。助けられたよ」


 小さい背中が大きく見えるほどに頑張ってくれていた。

 感謝の気持ちを込めて笑顔を向けると、

 口をへの字にして「うん」と答えるクレア。


 それから俺の手を両手でずっと握りしめているナナミに顔を向ける。

 身に付けている防具はボロボロ、

 いつもは綺麗なピンクの髪もぐしゃぐしゃに乱れていて見る影もない。

 リリスの回復魔法でも癒しきれない疲労が顔に浮かんでいる。


「ナナミ、ありがとう。ナナミがいたから俺はここまで来ることができた。

 これからは一緒に並んで助け合って戦える、

 ようやくそのスタートラインに立てたみたいだよ」


 たったいま俺はラスボスを独力で倒せるほどの能力を得た。

 まだまだ限定的で未熟な力だけど、

 それでも、ようやくみんなのお荷物という立場から抜け出せたと思う。


 俺が見せた笑顔に、

 ナナミは泣き笑いの顔で今までで一番元気な声で答えてくれた。


「はいデス!!」


 ナナミにゆっくりと頷きを返してから、少しだけ目をつぶる。

 そうやって気持ちを切り替えて、

 リリスの膝枕から「ありがとう」と言って起き上がる。


「みんな、待たせてしまってすまない。

 ハヤトとアンヌさんが心配だ。宝箱を開けてここから撤収しよう」



 ◇ ◆ ◇



 それで――

 ラスボスのお宝部屋に在った宝箱は他の階層の物より豪勢な作りだった。

 形状は相変わらず「ザ・宝箱」って感じだけど、

 金ぴかな表面に複雑な意匠が彫ってある。


 鍵はかかっていなくて罠もなく、ナナミがそのまま蓋を開ける。

 大きな宝箱の中からちょこんと出てきたのは……握りこぶし大の黄色い魔法石。


 リリスが「何でしょうか? 初めて見ます」と言う。

 まあ、それならそれで後で確認すればいいかと、

 お宝をナナミに持たせてその場を後にしようとした時――


「それは珍しい! なんという巡りあわせじゃ!」


 俺の頭の上から声がする。ソニアさんの声だ。

 ナナミからお宝を受け取って、

 肩に乗っているクレア(ソニアさん)の眼の前に掲げる。


「これが何なのか、わかるんですか?」


「これは【武器融合魔法石】じゃ。間違いない。

 わらわの知り合いが十個ほど作り上げた内のひとつじゃ。

 お主たちは本当に運がいいのう。わらわに感謝するが良い。

 人間の鑑定士に見せても使い道がわからぬところじゃったろうに」


 少し興奮したように説明をしてくれるソニアさん。

 だけど今の話だけじゃ何がすごいのかわからない。


「これが……【武器融合魔法石】? どんな効果があるんですか?」


「これは二つの武器を融合して、新たなひとつの武器に変える魔法石なのじゃ。

 それも桁外れな能力を持つ武器が生まれてくる。

 その魔法石を作った人物も『やり過ぎた』と言っておった」


「それは、また凄いのでしょうが……聞いたことがありませんわ」


 隣で一緒に聞いていたリリスにとっても、

 そんな珍しい魔法石の話は初耳のようだ。


「そうじゃな、もう百年近く前の話で、

 全て使いきってしまったと考えておったからな。

 この魔法石で作られた武器が今でも伝説の武器として残っているぞ」


 リリスが「そうなのですか」と感心した顔をしている。


 それで、どうやって使うのですかとソニアさんに尋ねると――

 持ち主が思い入れのある武器を二種類用意して、

 この魔法石を間に置くだけで、勝手に反応して新たな武器に変えるらしい。


「であれば、持ち主はユウキ様ですね。

 ラスボスを倒してくださったのもありますし、

 この中で最も武器中心の戦いをするのはユウキ様です」


 リリスが即決する。


「ナナミの手斧は控えの武器でメインは体術。

 ワタシは魔法がメインですし、

 間違ってやいばを持つ武器が出来てしまっては使えませんから」


 ――まだ、その設定は生きているんだ……。


「クレアは銃と風魔法が半々ですので、ここは譲ってもらって……、

 ミリア様も今回は助っ人ということでご容赦願えればと……」


 クレアは頷いているようだし、

 ミリアさんも「あぁ、当然だ」とリリスの提案に納得している。


「ハヤト様もアンヌもこの場にいなかったのですから反対はしないでしょう」


 ということで……【武器融合魔法石】は俺が預かることになった。


 今のところ思い入れのある武器で思いつくのは、

 ハヤトに買ってもらって、ここ数日で確実にお世話になっている槍だけだ。

 宝箱から出てきた短剣もあるけれど、これは戦いで使う暇がなかった。

 だから、もうひとつの武器については後で考えよう――と、

 悠長にそう考えていた。


 この時の俺はアレのことをすっかり忘れていた。

 それも仕方がないと思う。

 確かにアレは思い入れのある物と云えば一番なのだけれど、

 俺の意識の中では武器じゃないから。


 それに、まだまだ気がかりなことがあって、

 このお宝については、これ以上深く考える余裕がなかったのだ。



 ◇ ◆ ◇



 ラスボス部屋に這入る時に、

 ひとつ心に引っかかっていた件だけれど……実はもう気付いていた。


 ナナミ、リリス、クレアの三人。

 ラスボス攻略組は(ミリアさんは途中参加なのでイレギュラーと考えて)、

 俺の眼――聖魔眼――が『大切な存在』と教えた仲間だった。


 ハヤトとアンヌさん。

 二人は俺にとって大切な存在だが、聖魔眼は『大切な存在』と告げていない。

 今まで心の底で疑問に思っていた事が俺の心を怯えさせていた。

 もしかして、いつか離れ離れになってしまうからではないのか……と。


 だとすれば、いまこの時、

 強敵である剛岩の竜騎士ローグと闇魔法使いガウスとの戦いで……、

 そんな不吉な考えが頭をよぎる。


 ――ハヤトとアンヌさん……どうか無事でいてくれ。


 俺たちは元の道に戻るための結界扉をくぐった。

 出た場所は最初にあった、道が十方向に別れている部屋。


 そして――そこにいたのは、


「オレは信じていたぞ」

「何言ってるんだい。その顔色を見れば誰だって嘘だってわかるよ」


 ハヤトとアンヌさんだった。

 苦笑交じりのアンヌさんの言う通り、ハヤトの表情は憔悴しきっている。

 相当心配させたみたいだ。


 二人とも防具はボロボロで激しい戦いの後を思わせた。

 こちらも同じような姿なのでお互い様なのだろうけど、

 やっぱり無事な姿を見てほっと胸を撫で下ろす。


 その時――


 ハヤトとアンヌさん、二人に対して突然【聖魔眼】が反応した。

 二人は俺にとって『大切な存在』だと。


 ――あぁ、やっぱり。


 今さらという気持ちを否定できないけれども、

 ついさっきまでその事で心配していたので、

 胸のつかえがとれてスッキリした気分だ。


 その想いが表情に出てしまったらしい。


「んっ? どうした?」ハヤトが不思議そうな顔をする。

「何があったのかな?」笑顔のままキョトンとした顔のアンヌさん。


 おそらく――聖魔眼のレベルが足りなかったからなのだろう。

 俺とハヤト、俺とアンヌさん――

 二人との間に、今までずっとレベル差があり過ぎて見極められなかったんだ。

 ラスボスを倒した経験値でレベルが上がって、

 ようやく役目を果たしてくれた……そういうことだと思う。


「あぁ、すまない。でも話したいことが多すぎて、ここじゃあ無理だ」


 本当はすぐにでも話したいけれど【聖魔眼】の話は人に聞かれたくない。

 この部屋は全てのラスボス挑戦者が通るので、それなりに人が出入りするのだ。


「そうだな。まずは場所を変える必要がある。

 だが……その前に――何故ミリアがここにいる?」


 ラスボス部屋に這入る時には居なかったミリアさんを見つけて、

 ハヤトが眉間にしわを寄せている。


「ハヤト様――そんなに露骨に嫌そうな顔をされますと、私も傷つきます」


 全く表情を変えずに返事をするミリアさん。

 これは俺がフォローをしなければ。


「ハヤト……後で詳しく話すけど、

 ラスボスが予想してたのより桁違いに強くてどうしようもなくなったんだ。

 それを見ていたソニアさんが――」


「ソニアも見ているのか……」

「いるぞ」とクレアの口からソニアさんの声。


 このままでは話が長くなってしまうので、ハヤトを促して全員で部屋を出る。

 階段を昇りながら周囲に人がいないのを見計らって、

 まずはミリアさんの件を簡単に説明する。


「そういうことか……わかった。ありがとう、ソニアにミリア。感謝する」


「ハヤトはユウキのこととなると、そうやって素直に頭を下げるのう。

 そこまでの感謝の言葉をハヤトから聞くのは初めてなんじゃが、

 すこし納得できん部分が残るぞ」


「御館様……、差し出がましいかもしれませんが、

 そこは本妻として度量の大きさをお見せになられた方がよろしいかと」


「うむ、そうじゃな。わかった。今回の件……貸しにはせん。

 ユウキはわらわにとっても良きライバルじゃ。当然の手助けだと思ってくれ」


「…………」この沈黙はハヤト。

「…………」この沈黙は俺。


 無言の二人を無視して口をはさんだのはアンヌさん。


「で、そのミリアさんって魔族の人、どうするの? 

 町を連れて歩くのなら使い魔登録しないとダメだよね」


「あぁ、そうだな。オレの二人目の使い魔で登録すればいいんじゃないか」


「それはダメだ!!」


 アンヌさんが叫ぶようにハヤトの言葉を否定する。

 これだけ真剣な眼差しをする彼女を見るのは初めてかもしれない。


「クレアちゃんなら使い魔でも世間の眼は許されるけど、

 このボディを持った魔族がハヤトの使い魔なんてことが知られたら、

 だめだだめだだめだだめだ……」


 ただ……その後に続いた話はなんだかどうでもいいような内容だった。

 それでもまぁ、確かに宿屋のあの女性給仕さんみたいな人達が、

 ミリアさんを横に連れたハヤトを見たら、

 おかしな誤解をして卒倒するかもしれない。


「私はここから出たらお屋敷に帰るぞ」


 ミリアさんもなんだかよく分からないといった表情をしている。

 けれどもこれからの予定がそれなら、アンヌさんの心配は不要のようだ。


「少年――少年は今日明日にでも御館様に会いに来るのだろう。

 その準備を仰せつかっていたのだが、こうして呼び出されてしまったからな。

 すまないが戻って続きをやらねばならん」


「そうでしたか……すみません。でも……たぶん今日は無理だと思います」


 隣りでハヤトが頷いている。

 それから俺の言葉を引き継いでミリアさんに返事をしてくれた。


「これからいろいろ話をして予定を決める。

 今夜クレアから連絡をさせるから――それでどうだ」


「御館様、どうでしょうか」

「うむ、それでよい」


 とりあえずミリアさんの件は解決。

 アンヌさんもすっきりとした顔をしている。

 とりあえず、それからしばらくの間は静かに階段を昇って行った。


 そして――ダンジョン出口に到着。

 今さら思うが、これでドラワテのダンジョン全階層攻略完了だ。


 本来なら今ここで声を上げて感動するくらいの出来事なのだろうけれど、

 今はいろいろあり過ぎて、まだ心がその段階にない。

 昨日までと変わらない感じでダンジョンから外に出る。


「じゃあ、ミリアさん。またすぐにでもお会いしましょう。

 ソニアさん、予定を決めてご挨拶に伺います」


「ミリア様、御助力、本当にありがとうございました。

 後日、ユウキ様と一緒にソニア様のお屋敷にお邪魔させていただきます」


「ミリアさん、ソニアさん……ありがとうデス」

「ボクも一緒にいくからよろしく!」

「……今回だけは助かった」

「ミリア姉さま……またね」


 口々にミリアさんとの別れの挨拶を交わす。

 とはいえ明日か明後日には再会する予定なのだ。

 重たい雰囲気は必要ない。


 ということで、あっさりと挨拶を終えて、

 ミリアさんは自前の翼でそこから飛び立っていった。

 周りの人は突然の魔族の姿に驚いていたが、

 ここに一緒にいたハヤトの姿を見つけて納得していた。

 ハヤトの高名がこういう時には役に立つ。


 ソニアさんもクレアの眼から離れ、俺たちだけになり、

 とりあえず落ち着いて話をする場所を探そうとみんなで歩き出した。


 これからハヤトとアンヌさんに、

 ラスボス攻略で起こったことの話をして、

 逆にガウスと剛岩の竜騎士ローグがどうなったのかを教えてもらわないと。


 とはいえ……


 ――みんな無事で良かった。


 ダンジョン前の広場を歩きながら、改めて安堵のため息をつく。



 第34話、お読みいただき有り難うございます。

 次回――戦い終わって(2) まだまだ起こるトラブル……です。


 次回更新は5月17日を予定しています。


※10月26日 誤字訂正

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