22話:再会の知らない娘
22話です
私は目の前の女性を見つめたまま、暫く言葉が出なかった。
人魚の国の女王ヴァレリア様が、長い間探していた妹レティシアさん。
その人が今、私の目の前にいる。
「……本当に、ヴァレリア様の妹レティシアさんなんですか?」
レティシアさんは小さく頷いた。
「えぇ。私は、あの国を出た人魚です」
ルミナちゃんも驚いた顔をしていた。
「まさか……本当に生きておったのじゃな」
「貴方は?……」
「妾は魔王城から来た者じゃ。母上と人魚の国のヴァレリアとは知り合いなのじゃ」
レティシアさんは少しだけ目を見聞いた。
「そう……。姉は、今も女王を続けているのね…」
「はい」
私はすぐ答えた。
「ヴァレリア様は、ずっと貴方の事を心配していました」
「……そう」
「生きているのか、亡くなっているのか分からないって」
レティシアさんは静かに目を閉じた。
「そうでしょうね……。何も知らせずに出ていったのですから」
「ヴァレリア様は怒っていません」
私が言うと、レティシアさんは少し驚いたように顔を上げた。
「……怒っていないのですか?」
「はい。むしろ、謝りたいと言っていました」
「え?」
「レティシアさんの気持ちを理解出来なかったこと。自由を奪おうとした事。そして、最後はにきつい言葉を言ってしまった事を」
レティシアさんの瞳が揺れた。
「姉が…そんな事を」
「はい」
レティシアさんは暫く黙り込んだ。
海莉が不安そうに母親の手を握る。
「ママ……」
「大丈夫よ」
レティシアさんは海莉の手を優しく返した。
「私は、姉を恨んでいた訳ではないの。ただ、あの頃は自分の人生を自分で選びたかったの」
「……」
「人間の世界へ行けば、きっと大変な事があると分かっていました。それでも、私は行きたかった。」
レティシアさんは窓の外を見た。
「私は、あの人を愛していましたから」
「パパは?」
海莉が小さな声で尋ねた。
レティシアさんは少しだけ悲しそうに笑った。
「貴方のお父さんは、優しい人だったわ」
「今は…?」
「もう、ずっと前に亡くなったの」
海莉は黙って母親の手を握り直した。
「だから、私達は2人で暮らしてきたの」
「……そうだったんですね」
私は胸が痛くなった。
海莉は人間と人魚との間に生まれた事で、どこにも居場所がないと感じている。
レティシアさんは病気になり、人魚の国に戻ることも出来ずにいる。
けれど、ヴァレリア様は今もレティシアさんを待っている。
「ヴァレリア様は、貴方に会いたいと思っています」
「……私も、姉に会いたい」
レティシアさんの声が震えた。
「本当は、ずっと前から会いたかった…」
「なら、会いに行くのじゃ」
ルミナちゃんが静かに言った。
レティシアさんはルミナちゃんを見る。
「でも、娘が…」
「海莉も一緒に行けばよいのじゃ」
ルミナちゃんは海莉ちゃんを見た。
「ヴァレリアはきっとお主達を拒ぬのじゃ」
「でも、私の姿を見たら…」
海莉ちゃんは鱗のある腕を隠した。
私はその手をそっと見つめた。
「大丈夫です」
「…本当に?」
「はい。ヴァレリア様は、種族や姿だけで人を判断する方ではありません」
私は少し笑った。
「それに、貴方のお母さんはヴァレリア様の妹さんです。貴方は、ヴァレリア様にとって大切な姪っ子になるんですよ」
海莉ちゃんは目を見開いた。
「…私が?」
「はい」
レティシアさんは海莉ちゃんを見つめた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……もう1度だけ、姉に会ってみようかしら」
「きっと喜びますよ」
私は力強く頷いた。
レティシアさんは窓の外を見た。
森の向こうには、人魚の国へ続く道がある。
長い間、離れていた姉妹。
その再会が、今、始まろうとしていた。
「美桜」
ルミナちゃんが私の隣に立った。
「どうするのじゃ?」
「決まっています」
私はバッグからギュッと握った。
「この親子を、人魚の国へ連れて帰ります」
海莉ちゃんは不安そうに私を見た。
けれど、その目にはほんの少しだけ、希望の光が浮かんでいた。
作者コメント
見てくださりありかとうございます
見てくれただけでも書く気力が湧きます!




