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転生幼女は魔王をモフりたい 〜最強スキルは『おねだり』です〜  作者: ペクチン21字


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第一章 最強幼女、遺跡へ行く

「リアお嬢様、本日はお天気が良いですから、お庭でお散歩にいたしましょうね」

そう言って私の小さな手を引いてくれるのは、専属メイドのアンナ(十九歳)だ。きっちりとまとめられた焦げ茶色のシニヨンヘアに、ロング丈の黒いメイド服を着こなす彼女は、公爵家が誇る完璧無比のスーパーメイド。……なのだが、最近どうも私を見る琥珀色の瞳が怪しく光っているのが気になるところではある。

「あーい! おさんぽ、するー!」

私は三歳児特有の舌足らずな声を出しながら、小さな白い編み上げブーツでトコトコと庭へ出た。

公爵家の庭は、もはや一つの小国と言ってもいいほど広い。広大な芝生、美しい噴水、そしてなぜか敷地内にすっぽりと収まっている**「古代の禁忌とされた魔の森」**。

(よし、アンナが蝶々を追いかけて目を離した隙に、ちょっと冒険しちゃおう)

私は元社畜の抜け目なさでアンナの死角へと回り込み、よちよちと魔の森の奥へと足を踏み入れた。目指すは、森の中央にあるという古い遺跡。あそこなら、何か珍しいトカゲとか、可愛い野生のリスとかがいるかもしれない。

薄暗い森を進むこと数分。目の前に、苔むした巨大な石造りの遺跡が現れた。その最深部には、禍々しい赤い光を放つ魔法陣が描かれており、中央には巨大な剣が突き刺さっていた。

「うにゅ? なんか、かっこいい舞台装置がある」

私が近づいた、その瞬間だった。

じり、と私の足が魔法陣の境界線を踏み越えた。直後、パキィィィン! とガラスが割れるような凄まじい音が響き渡り、遺跡全体が激しく揺れ動いた。

「ぐるるるる……人間め、我が封印を解いたか。我が名はベルゼビュート。世界を恐怖で包む魔王なり!」

魔法陣から溢れ出たのは、この世の全ての悪意を凝縮したような黒い魔力の霧。そしてその中から現れたのは、体長五メートルを超える巨大な黒狼だった。

夜の闇を溶かし込んだような漆黒の毛並み。血のように赤くギラつく双眸。鋭い牙の隙間からは黒い炎が漏れ出ている。

三百年前、当時の勇者と賢者が命を賭して封印したという「終焉の魔王」。それが今、完全な形で復活を遂げたのだ。

魔王は傲然と胸を張り、自分を復活させたであろう「人間」を蹂躙すべく、地響きのような声をあげて見下ろした。

しかし、その視線の先にいたのは、怯える聖騎士でもなく、腰を抜かす大魔導士でもなかった。

プラチナブロンドのツインテールを揺らし、アメジスト色の瞳を輝かせている、一人の無垢な幼女。

リア(私)は、圧倒的な威圧感を放つ巨大な黒狼を見上げて、ポツリと呟いた。

(……神様、ありがとう。最高のワンワンが目の前にいます!!)

前世でペット可のマンションに住めず、動画サイトで「大型犬のハスキーに埋もれる動画」を血の涙を流しながら見ていた私にとって、目の前の存在は「世界を滅ぼす魔王」ではなく、**「人生最高峰のウルトラギガサイズもふもふ」**にしか見えなかった。

「おい、聞いておるのか小娘! 恐怖に震え、我が軍門に下るが良いッ! ……って、何だその目は!? なぜ我が覇気を浴びて平然としておる!?」

魔王が困惑の声をあげる。当然だ。彼の放つ精神威圧は、並の人間ならショック死するレベルのもの。しかし、全ステータスカンストの私にとっては、夏の夜のそよ風ほどの価値もない。

私は一歩、また一歩と、短い足で魔王へと近づいていく。

そして、小さな両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、アメジスト色の瞳をこれでもかと潤ませながら、上目遣いで魔王を見つめた。

その瞬間、私の魂に刻まれたバグスキル――**【幼女スキル:おねだり(絶対遵守)】**が、無自覚にフルドライブで発動した。

「わんわん、おてて、おいでぇ……?」

ドゴォォォン!!!

私の脳内ではなく、この世界の因果律そのものが物理的にひっくり返る音がした。

『おねだり』。それは、リアの圧倒的な可愛さと、カンストした魔力が融合した精神崩壊系スキル。このスキルを発動された対象は、神であろうと悪魔であろうと、彼女の要求が「至高の御褒美」に脳内変換され、魂の底から従いたくなってしまうのだ。

「くっ、ガハッ!? な、なんだこの破壊的な愛らしさは……!? 胸が、胸が苦しい……! 否、これは恐怖ではない、ときめき……!? 魂が、我が誇り高き魔王の魂が、あの幼女の前に平伏せと叫んでおる……! 抗えぬ、抗えぬぞおおお!」

魔王ベルゼビュートは激しくのたうち回り、己のプライドと戦った。しかし、カンストした世界法則の強制力には一秒と持たなかった。

ずるずると巨体を這いずらせ、涙目を浮かべながら、私の小さな手のひらの下に、街灯ほどもある凶悪な前足をそっと差し出した。

「きゅ、きゅ〜ん……(主様、お呼びでしょうか、撫でてください)」

「わぁ、おててできた! えらいえらい!」

私は大喜びで、魔王の巨大な頭に抱きつき、その漆黒の毛並みをわしゃわしゃと撫で回した。

(最高……! 適度な硬さと、内側から溢れる圧倒的なボリューム感……! これよ、これが私の求めていたスローライフよ!)

世界を滅ぼすはずだった終焉の魔王は、すでに目を細め、ガルガルと幸せそうに喉を鳴らす巨大な忠犬へと成り下がっていた。

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