8.セシリア・アルデリア奴隷商人に拉致される
ついに奴隷商人たちの手にかかり拉致されてしまうセシリア。
武装解除(といっても法衣を取り去るだけですが)されてしまい。
おまけに……。
奴隷商人の悪辣さを表現できていればいいのですが。
「うまくいったようだな」
一番後から入ってきた来た男が室内を見渡しニヤリとした。
短く整えられた白髪。
澄んでいるのに底が見えない黒く光る瞳。
すっと伸びた鼻梁。
薄い唇を歪めるように笑う。
樵小屋に押し入った賊のリーダーだというのが風貌でわかる。
リオ達は最初に押し入ってきた男の一人に刃物を突き付けられ、部屋の隅で縮こまり抱き合って震えていた。
男はゆっくりとリオに近づくと顔を耳元に寄せ囁く。
「よくやった。後はウチに帰るんだ。そして忘れろ!全部な」
「あ……、あわぁと……(あなたたちは?)」
セシリアはもつれる舌で問いかけようとするが言葉にならず、それを聞いて賊の男たちが笑った。
「よく効いているねぇ……。帝国製の痺れ薬は。苦みもなければ変な匂いもないからわかんなかったよねぇ」
言いながらセシリアの頤を掴んだのは、長い黒髪を後頭部で一つにまとめて垂らした女だった。
吊り上がった瑪瑙色の切れ目で値踏みするように痺れで動けない神官の全身に視線を這わせる。
「あんたの言うとおりの上玉だね。こいつは。」
「だろう。まぁ、体つきはお前ほどじゃないが、少し経てば出る所もそれなりに出て使いやすくなる」
言われた女は褒められた事にまんざらでもない顔をしてセシリアにウインクした。
「はじめまして神官様。まぁ、今は身動きできないかわいそうな子猫ちゃんってとこかしら」
そこまで言うとリオを振り返り問う。
「子猫ちゃんはなんていうんだい?聞いたんだろう?」
耳元にまた顔を近づけた男が言う。
「聞こえたろう。早いとこ教えな」
「セ…シリア・アル……アルデリア様」
「そう、セシリアちゃんって言うんだ。しばらくの間よろしくね」
女はセシリアを見下ろしながら、後ろに控える短い縮れ毛の彫りが深い若い男に命じる。
「薬が切れる前に早いとこ付けちまいな!」
「へい、へい」
返事をした若者は背嚢を降ろし、中から何やら色々取り出し始める。
「さぁて、ほら、お前たち立つんだ!」
男が三人を促し立ち上がらせる。
「さっきも言ったとおりだ。さっさとウチへけえんな!そして忘れろ!全部だ」
よろよろと立ち上がったリオの首筋に手を当てた男が続ける。
「いいな、忘れるんだ。何か思い出したら……、この首んとこからおめえたち三人ともスパっ!!」
手刀で首を横に払う。
「黄泉の国行の馬車に乗せてやるぜ。わかったら行きな!!」
三人は這うように小屋の入り口に向かうと後を振り返りもせず森へ消えていった。
そう、振り返りもせず……。
◇ ◇ ◇
「さぁて、邪魔者はいなくなったし、準備をしましょうかセシリアちゃん」
女が若者から受け取った鉄製の小さな輪と板が付いた器具を手にセシリアの口を開かせる。
「ちょっとがまんしてね。う~んいい子ね」
赤子でもあやすように口を開かせ器具を押し込みながら言う。
「これはね、付けると口を開けたままおしゃべりできなくなっちゃうの」
いやいやと首を左右に振る事もかなわずセシリアは困惑した。
(うごけない!なんで?なんでこんな事に?)
我が身に問い返しても思い当たる事はない。
歯の裏に輪を噛ませ、板状のもので舌を抑えつけらてしまうと、確かにくぐもった声しか出せない。
(やめて!はずしてください!)
必死にそう言おうとするのだが、セシリアの思いは器具に阻まれ、う~う~と唸るだけだった。
口を封じ、言葉を封じた女は、法衣に触れ軽くなぞる。
「この法衣は防御魔法付きかぁ。痺れてるうちに脱ぎ脱ぎしましょうねぇ」
(やだ、何言ってるのこの女の人。こんなところで裸にしないで!!)
必死に身体を動かし逃げようとするのだが、手も足も身体中に広がった痺れでぴくりとも動かない。
女はまず神官の帽子にあたる法帽の髪留めを外し頭から取り去る。
次にセシリアの身体に手を伸ばし腰に巻かれた紐をほどき法衣の腰回りを緩める。
身体の両脇で法衣を止める金具を上から下までプチプチと外して行く女。
手慣れた仕草で法衣を脱がす用意を済ませた女は男達に声をかける。
「ちょっとお前ら手伝いな!神官様を立たせてあげな」
「さぁ、たっちしましょうね」
男が二人セシリアの両脇に立ち両脇を抱えると寝台から無力な神官を立たせた。
(足に……、床の感覚がない)
立たされて見たものの足が地についていない。
手を離されれば倒れてしまう。
手も動かせないから頭から床に衝突だ!
セシリアは恐怖にかられ「助けて」と叫んだが、開口具に開かされた口からはふしゅ~という呼吸音が出るだけ。
言葉の代わりにだらだらと涎が溢れ落ち法衣をまた汚した。
「はい、ばんさ~いしてね。いい子ね」
セシリアは女に両手を上に伸ばされる。
緩められた法衣が頭から抜き取られ、神官を表すしるべはすべて失われてしまった。
(いや~ん。だめぇ~。恥ずかしいよぉ)
しゃがみこもうと思うものの、左右から男の手でささえられたセシリアは薬の痺れが続き動けない。
残ったものは胸に巻かれた白布と下腹部を覆う褌上の下着だけだった。
「これも邪魔よねぇ。おっぱい苦しかったでしょ。外してあげまちゅね」
するすると布が取り去られ、こぶりなふくらみが外気に晒される。
ふくらみに対してぴょこんとやや大きめな乳首が自己主張していた。
色素の沈着はないピンク色だが勃起している。
女がそれに気が付きうふふと笑う。
「そうかぁ、教皇国の大聖堂は男子禁制だけれど、女の園なりのお楽しみはあったようね」
左右の乳首を軽く指先で弾いて下腹部の下着に目をやり、
「という事はこっちもかなぁ?セシリアちゃん」
褌を緩め下着を取り去る女。
白く日焼けの跡のない一糸も纏わぬ身体を見も知らぬ男女に晒すセシリア。
(恥ずかしい!もう、消えてなくなりたい!)
ニヤニヤと笑う男女の視線に羞恥心を煽られ頭がぼ~っとなった。
「さてそろそろ薬も切れる頃だから、お手てもないないしましょうね」
若者から新たな鉄の輪が付いた手枷が渡される。
「はい、お手てを後ろで組んでね」
痺れで逆らう事もできず後ろ手にされたセシリアの手首に、手枷が嵌められカチリと施錠されてしまった。
「できたわ。あんよも走れないようにしておきましゅよ」
今度は短い鎖の付いた足枷が、両足首を拘束し施錠された。
自由を足枷に奪われ立たされた足に違和感があった。
感覚が戻ってきたのに気づく。
足の痺れが取れてきている。
踏ん張った足裏にサンダル越しに地面の感触がある。
そして足首の足枷の感触も……。
(痺れが取れてきた)
腕から指先へ向けて、こちらも痺れが取れてくる。
掴まれた肩を振りほどこうと体を揺するが、さすがに男達の力が強くそれは叶わない。
手も後ろ手に拘束されていては、もうなんの抵抗もできない。
(せめて口が利ければ……)
口の痺れも取れてはいるが、口腔を嵌まった鉄の輪と舌を押さえる板は発声を許さない。
「無駄よ。素っ裸で何ができるって言うの?駆け出しだから"防御"も授かってないんでしょ?」
女が笑いながら言い、つられて周りの男たちの下品笑い声が小屋の中を満たした。
寝台の下にころがるセシリアのリュックを手に取った女が目を見張る。
「あらぁ、このリュック収納魔法が施してあるのね。ということは……」
リュックを傍らの男に手渡し命じる。
「セシリアちゃんの法衣と宝杖これにしまいな。あんたが持つんだよ」
「わかった」
男が脱ぎ散らかされた法衣をリュックに入れ背負った。
「ほう、重さも軽いままだ。神官様の持ち物ってぇのは便利だな」
「さてセシリア様、うちらのアジトへ参りましょ。ルイード神官様の宝杖忘れるんじゃないよ!」
「へいへい。さぁさぁ神官様。ご案内しますよ。我等の雇い主『ウェナリキウス・マグノール』様の待つお屋敷へ」
◇ ◇ ◇
助けると決めたがエルナはまだ小屋を見張っていた。
闇雲に突っ込むのは良くないと、経験が待て!をかけていた。
まずは人数の把握だ。
そう思いながら小屋を、その周りを窺う。
突然三人が小屋から這うように飛び出してくると、そのまま振り返りもせず一目散に森へと姿を消した。
そうか、素人を使ってあの子を騙したんだな。
神官様も駆け出しで経験不足ならまんまと騙されたってわけだ。
でもって奴等は用済みってわけか……。
その素人を始末しないところが逆に怖い。
見張りながらタイミングを計っていたエルナは独り言ちた。
暫くすると小屋から男女と手枷、足枷で拘束された神官が出て来た。
目つきの悪い男を先頭に男が女を含め6人、その子の前後を取り巻いている。
やはり、捕まっちまったか。
う~ん、この先行くのは奴らのアジトだよなぁ。
他の仲間に合流されるといくらなんでも助けるなんて無理だ。
いくか!!
エルナはショートソードを構え藪から飛び出した。
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