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老エルフ吟遊詩人の語った物語  作者: まろんねこ


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【挿話】エルナ・グラウシュミットはメリッサを採集する

エルナ・グラウシュミットについてもう少し掘り下げたくて挿話のカタチで筆を進めてみました。

ちょっと横道にそれてしまいまましたが、ご容赦いただければと思います。

気が付けば森に普段の喧騒が戻っていた。

鳥のさえずり、虫の声、鼠のような小動物が傍らを駆け抜けてゆく草のさざめき。

「そうだ、森ってこうなんだよな。さっきは静かすぎたんだ」

エルナは改めて自分に言い聞かせるように辺りを見回し、様々な生き物の気配を感じ取って納得していた。

(このまま帰っちゃ依頼も果たせない。メリッサを探して採って帰らなきゃ)

エルナは自分に言い聞かせ、サリエリからもらったメリッサを取り出すと地べたの草むらに目をやった。


カサっ!

頭上で小さな物音。

だが敵意の気配はない。

なにか羽虫が飛ぶような音がする。

繁った枝葉を透かして見た先になにかがいた。

大きめの羽根をもったちっちゃなもの……。


「あれっ?」

戸惑う声が降ってくる。

「きみボクが見えるの?」

くるくると輪を描きながら降りてきたのはちっちゃなちっちゃな裸の子供。

背中から羽が生えていて、それをせわしなく動かし宙に浮いている。


「ボクが見えるなんて珍しい生き物。普通はボクたちは見えないのに……」

エルナの頭まで降りてくると、見分するかのように羽ばたきながら周りをまわる。

「ふ~ん。森に入って来る"ぼうけんしゃ"っていうひとみたいだね。でも見えてるんでしょ?不思議だなぁ」


初めてみるものだから先ほどの件もあり一応警戒はしてみたが、どうやらエルナにとって敵ではないようだ。

「わたしはエルナ。君は?」

「エルナってなに?」

「わたしの名前。エルナ・グラウシュミットっていうんだ」

「ボクはビズリー。ここに住んでる」

そう言うとエルナの鼻先でくるりと宙返りしてみせた。

「君がここの住人?」

「うん。でも争いごとは嫌いだから、さっきみたいなのが現れると上に逃げるんだ」

「さっきみたいなの……?」

「うん。そこにいるじゃん。もう死んでるみたいだけど」


言われてエルナがふりかえると先ほど神官の護衛たちが仕留めたなんとかボアが事切れ躯を晒していた。

「あぁなると、あれも生き返らないからもう安心」

言わんとしていることはわかるが、なんとなく話が?み合わない。

(生き返る?あれが?)

「命の素をさっきの人たちが取っちゃったからもう生き返らない」

(そうしなければ生き返るのかこいつ)

思わずぞわりと身体を身震いさせ、一歩死体から距離を取った。


「ねえねえ、エルナ。エルナはここにくるの初めて?」

「そう、初めてだ」

こくりと頷くエルナにビズリーがさらに問う。

「何しにきたの?」

「薬草採集」

「や・く・そ・う・さ・い・しゅ?」

ビズリーが小首を傾げる。

「うん」

「それって楽しいの?」

「う~ん。これを集めるんだけど、楽しくはないかな」

エルナはくたびれたメリッサをビズリーに見せた。

「そっかぁ」

どうやらエルナに対する興味を失ったらしい。


ビズリーはまたくるりと宙返りする。

「じゃぁ、ボク行くね」

挨拶もそこそこにせわしなく背中の羽根を動かして、ふわりふわりと枝葉の間を上へ上へと上がりエルナの視界から消えた。


「変な生き物だなぁ……?」

エルナはしばらくビズリーが消えた先に視線を送っていたが、はたと気が付く。

「いけないメリッサを採集しなくっちゃ」

気を取り直しエルナは草むらに目をやり薬草を探し始めた。


「変なの?」

そんなエルナの様子を木の枝の蔭から窺うビズリー。

「あんなもの這いつくばって採ってなにがおもしろいんだろう?」

探し物に神経を集中させるエルナをあきれた顔で見下ろすビズリー。

「あれと同じ葉っぱならほらそこにあるじゃんか。あぁ~、見えてないのかなぁ~?」

苦笑いしながらエルナを見ていたが……。

「せっかくボクを見つけてくれたんだから、チョットだけね」

そう言うとウインクをひとつしてその姿を消した。


メリッサがこの草むらにあるどの草なのか?

わからないまま地べたに顔を付けんばかりに見ていたエルナだったが……。


急に、目につく草があった。

「……これ?」

エルナはサリエリからもらったメリッサと見比べた。

葉の形が同じだ。

だが、こちらの方がずっと瑞々しい。

「これだ……」

なぜそう思ったのか、自分でもよくわからなかった。


それは森の住人ビズリーが、自分を見つけてくれたエルナに対する気まぐれなお礼だとは……、

採集に夢中なエルナは気づかないままだった。


◇      ◇       ◇


冒険者ギルドの受付サリエリは気をもんでいた。

もう夕暮れ。

陽が落ちてしまえば、同じ場所でも現れる魔物が増える。

闇の加護を受けるからか強くなる。

なのに帰ってこない。

あの子。


いくら「30歳です!」なんて本人が言っても、傍目どう見てもあれは10歳の子供にしか見えない。

商業ギルドの子供の使いとはわけが違う。

ここは冒険者ギルドで、

あの子は冒険者として登録し、

そして依頼を受け森に向かった。


サリエリは知っている。

冒険者になりたての初陣でこれまで何人が命を失ったかを。

自己責任と言えば聞こえはいい。

自業自得と言えば気が楽になるかもしれない。


でもあの子は知らなすぎる。

薬草採集だから安全!

そんなことはないのだ。

見本があれば薬草なら採れる。

そんなことはないのだ。


見分けがついて、見つけて、夢中になって……、魔物に気づかない。

無防備な子供みたいな体つきの、しかも女の子の冒険者。

手助けをしてくれるパーティーの仲間もいないのだ。


どうか、どうか、どうか無事で帰ってきて。

ギルドの扉が軋んだ音を立てるたび、サリエリは扉に視線を送りため息をついていた。

サリエリだけではない。

エルナを見送った冒険者たちがみな同じ思いを胸にしまい、何事もないかのような顔をしていた。


次々と扉を開け帰ってくる冒険者たち。

依頼の達成報告にやって意気揚々と帰ってくるものもあれば、

残念ながら未達成に肩を落とし重い足取りでギルドの隅にしゃがみ込むものもいる。

そして遂に日が西の城門に姿を消した。


ギィ~。

扉が開き視線を投げたサリエリに待ち人の姿があった。

「エルナさん!!」

思わずカウンターをまわり駆け寄るサリエリ。


「遅くなって申し訳ありません。ただいま戻りました」

「おかえりなさい。お疲れさまでした」

言いながらサリエリはエルナの身体に異変がないか確かめる。

傷は?

ない。

ちょっと革鎧とシャツに血の跡はあるけれど傷はない。

骨は?

大丈夫そう。

足も引きずっていないし、腕にも手にも内出血痕はない。


良かったぁ。

安堵したサリエリは改めてエルナに声をかけた。

「おかえりなさい。ご無事の帰還、おつかれさまでした」

声のない冒険者たちの安堵のため息がギルドのそこここに湧いていた。


「戻りました。遅くなって申し訳ありません。メリッサ採ってきました」

「身体はどこもなんともありませんか?」

「はい。大丈夫です。これ依頼の薬草です」

差し出された布袋からは瑞々しいメリッサの香りが漂う。

「うん?」

受け取った袋を覗き込んだサリエリの顔つきが変わった。

「これは?」

「どうかしましたか?」

「い、いいえ。なんでもありません」

無理に微笑を浮かべ袋を手にするとカウンターの奥に声をかけた。

「シュナイダーさん。ちょっとお願いします」


ガタンと受付カウンター奥の扉が開き、ローブを纏った初老の白髭の男が姿を現した。

顔やローブから覗く腕に古傷の痕が見て取れる。

鋭い灰色の目がエルナを射貫くように見てくる。

エルナはシュナイダーという男の視線から逃げるようにぺこりと頭を下げた。


「これなんですが」

サリエリが袋を手渡す。

無言で覗き込んだシュナイダーの顔色が一瞬変わる。

「奥で話していただいた方が良さそうな気がして……」

語尾を少し濁らせてシュナイダーの顔色を窺う。

「うむ」

返事をするとエルナに向かい奥へとでも言うように顎をしゃくった。


カウンター奥は依頼の納品物が所狭しと置かれた小さな部屋だった。

エルナをちいさな椅子に座らせるとシュナイダーが向かい側に座り問うた。

「自分で採ったのか?」

「はい」

「全部か?」

「全部です」

「呼ばれた意味はわかるか?」

「わかりません」

「だろうな。豆鉄砲をくらった鳩のような顔をしておる」

エルナはそれってどんな顔?とでも言うように両手を頬に当てた。

「誰かに会ったか?」

神官に救われたことはばれると叱られるといっていたからそれは言えない。


「誰かって人ですか?」

「質問を変える。なにかに出会ったか?」

「はい。羽の生えたちっちゃいのに」

「むぅ」

シュナイダーは顎髭に手をやり目を閉じた。

「なにか話したか?」

「お互いに名前を言ったくらいです。わたしが薬草採集するんだって言ったら興味を失くしたみたいで飛んでっちゃいました」

「そうか……。薬草探しを頼んだわけではないのだな?」

「はい」


「わかった」

しばしの沈黙の後シュナイダーは言う。

「お前の採ってきたメリッサだが……、すべて特級品だ」

「えっ?特級ってなんですか?」

「それも知らんか……。ならばよい。いや、よくはないな」

「えっ?」

「お前、今日が初めての採集であろう」

「はい。そうです」

「言わばずぶの素人が採ってきたメリッサがすべて特級品とわかったら、他のものは偶然だと思うかな?」

「……」

「どうやって見分けたと、みなに周りを取り囲まれ詰問されるだろう」

「そ、それは」

「嫌だろう?」

「はい」

「次からは気を付けるのだ。良品ばかりではなく、そうでないものも混ぜて採れ」

「でも、依頼なら良いものを採った方が……」

「依頼だけを考えればな……。わかるな」

「わかりました」

「今日の依頼は達成。褒賞は倍額。異存はあるまい」

「ありません」

「ここでの話は忘れろ。他のものに聞かれたら、採集方法が下手糞だと叱られたと答えておけ」


カウンター奥から姿を現したエルナに、みな興味津々で根掘り葉掘り話の内容を聞き出そうとしたが、

シュナイダーとの約束を守り、採集方法について叱られたと頭をかきかき答えると、

みなゲラゲラと笑い、ギルド内の酒場にエルナをいざなうのだった。

お目にとめていただきありがとうございます。

良かった、悪かった、何らかの反応をいただければ幸いです。

AIではないので遅筆です。

とりあえず書き進めた分をひとつずつ投稿していきます。

誤字脱字のご報告もいただけると幸いです。

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