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老エルフ吟遊詩人の語った物語  作者: まろんねこ


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【挿話】エルナ・グラウシュミット冒険者ギルドに行く

エルナ・グラウシュミットについて少し掘り下げたくなりました。

挿話として書き加えます。

午前中の冒険者ギルドは騒がしい。


幾多の依頼が張り出された掲示板の前が特にそうだ。


手を伸ばしかけた依頼書を横合いから別な手が先に取る。


「なんでぇ!!」


強面が凄んでみた先にいたのは装備の良いパーティーだった。


今の依頼はきっと討伐や護衛、探索。

「俺には早えか……」


すかさず別の依頼書に手を伸ばす。

それは横合いから伸びた手が奪うように剥がす。


ひょろひょろした奴、おどおどした奴は喧騒から弾き飛ばされる。


後には駆け出しかソロにふさわしい物が残る。


「これしか残ってねぇのか」

「毎日あるが、少なすぎだぜ」


当然早い者勝ちだ。

特に駆け出しが受けられる依頼の枚数は少ない。


かと言ってなんでも剥がして受付に行けば良いというわけではない。


「申し訳ありませんが、この依頼はあなたのランクがじゃ受けられません」

受付嬢にすげなく言われ、すごすごと掲示板にもどる冒険者もいる。


だから掲示板の前で奪い合いが始まる。

日常茶飯事だ。


お上品では冒険者として生きてはいけない。

人に譲って腹は膨れない。

金だって減るだけだ。


「ちょっと!それあたいが先よ!!」


「うっせえおめえにはまだ無理だ!俺っちにまかせろ」


「いやなこった!早く返しなよ!!」


気色ばみ腰に手がかかる。


「やめとけ、出禁になるぞ!!」


はっ我に返る。


ギルドに出入り禁止になる。

そうすれば飢え死にか……。

盗人、夜盗に落ちるか……。


諦め別な依頼書を毟り取るように剥がす。

幸いにも奪おうとする手は出なかった。


やっとの思いで自分のものにした痩せたのっぽの冒険者。


装備は古びており良いものではない。

革鎧は解れたところがある。

ブーツの踵もすり減っている。


手にした依頼書を確認する。


採集?

失せ物探し?

討伐?


字は読めない。


だが、書かれた依頼がなんなのかはなんとなく解る。

個数、褒賞、期限

並んだ数字をなんとか読み解く。

少ないが今日の飯にはありつけそうだ。

そう思ったら腹がぐぅ~と音を立てた。


そして受付に……。


行こうとした時、入口の扉が開いた。


のっぽの視線が自然と扉に向かう。


「誰だ?」


ベテラン?

ライバル?

それともひよっこ?


どれとも違う!


「ん?」


そこに子供がいた。


ギルドの喧騒が一瞬止む。


併設の酒場でくつろぐ者。


受付で依頼を受けようとしたパーティー。


掲示板の前に未だ佇む駆け出したち。


皆の目が一斉に扉を開けて入ってきた者に視線を飛ばし……、

二度見する。


「子供じゃねぇか」


「誰の子だ。それとも誰かの弟か?」


「いっちょめぇに革の鎧?……見た目は冒険者だが、まさかな」


「足取りはしっかりしてるな。重心も崩れてねぇ……」


「おめぇの知り合いか?」


問われて首を振る髭面の冒険者。


様々なざわめきと探るような視線が受付へと歩いてゆく子供を取り巻く。


驚きはギルド受付の事務官サリエリも同様だった。


しっかりとした足取り。

周りの視線や声にも動揺しない。


そんな子供が受付にやってくると自分を見上げて言った。


「冒険者登録をお願いします」


「えっ!」

サリエリの声が思わず裏返る。


「だから冒険者登録です。お願いします」

子供が再び言う。


我に返って受付から出るとその子の前にしゃがんだ。


この子男じゃないわ。

女の子!!

しかも体つきも華奢。


ここに来る誰かに、こんな子供いたっけ?

一瞬余計な事まで考えを巡らせた。


すばやく立ち直り問いかける。


「お嬢ちゃん。お年は?残念だけど冒険者ギルドは、17歳にならないと登録できないの」


「30です」


「えっ?」


「だから、30歳です。見えませんか?」


静寂の後、爆笑の渦がギルド中を駆け巡った。


「ぎゃっはははは、30!?冗談きついぜ」


「どう見たって10歳がいいとこだろう」


「言うに事欠いて、朝から笑わせやがる」


そんな声に取り巻かれてもその子はすましている。


「アタシ、ドワーフなんです。正確にはドワーフの母とヒューランの父のハーフ」


もう一度ギルドに静寂が訪れる。


ギルド内に今度は笑い声がない。


「ヒューランとのハーフだと!!ありえねぇだろう」

「長い事冒険者をやってるが、今の今までそんなもん見た事はねぇ」


周囲の驚きの顔がそう言っていた。

サリエリも驚いた。


生粋のドワーフは見たことがある。


ギルドの冒険者にも少しはいる。

市場の裏手の防具屋や武器屋にもいることはいる。


でも皆んな男だ。


ずんぐりとしてがっしりとした体躯。

肉弾戦や力仕事に秀で、みんな髭面で酒好き。

そのくせ魔法に弱い。


だが彼女の知るドワーフとは違う。

しかも女のドワーフ?

いやハーフだから……?


「大丈夫ですか?」


心配そうな顔が目の前に来て我に返る。


「あぁ……、あっ!大丈夫です。見た目で判断し申し訳ありません」


サリエリが丁寧に頭を下げ詫びる。


「かまいません。みんなそう思いますもんね」


にこりとその子が笑う。


「え~と、お名前は?」


「エルナです。エルナ・グラウシュミット」


「エルナさん字は?」


「読み書きできます。ヒューランの文字はばあちゃんに教わりました」


「そうですか。ではこちらに踏み台を用意しましたから、上がってご記入をお願いします」


「わかりました」


水のように流れて行く会話を周囲は呆然と聞いていた。


『常識に捕らわれると痛い目に合う』


冒険者の鉄則だ。

でもこいつはびっくりだが痛くはねぇな。


サリエリはエルナが几帳面に書類を埋める文字を目で追っていた。


「お名前はエルナ・グラウシュミットさん」


「種族はドワーフとヒューランのハーフで女、30歳」


「ジョブは戦士で鍛冶師!?」


「あのう、鍛冶もなさるんですか?」

思わず問うたサリエリにまた笑顔をみせるエルナ。


「養父が鍛冶師だったから……、腰のモノもアタシが鍛えました」

言いながらエルナが書き終えた書面をサリエリに差し出す。


「鍛冶師の冒険者なんて初めてだぞ」

「自分で武器や防具を作るってか?」


再び驚きのざわめきが波のようにギルド内を伝わる


「ありがとうございます。最後にこの水晶球に手のひらを乗せてください」


言われるまま手を乗せたエルナだったが、水晶球に変化はなかった。


「魔力なし、魔法耐性なし」


やっぱり。

ドワーフならそうよねぇ。


サリエリは書面に追加で書き記し、背後の棚から白磁のネームプレートを取り出す。


プレートを握り締め自分の魔力を流した。

ネームプレートが"ぼ~う"と光り、しばらくしてから元にもどった。


サリエリはネームプレートをエルナに手渡す。


「エルナ・グラウシュミットさん。冒険者ギルドはあなたを歓迎します」

受け取ったエルナがネームプレートを首に掛ける。


「このプレートにはあなたが書類に記載した項目が魔法で焼き付けてあります」


頷くエルナ。


「このプレートは絶対なくさないように。身分の証明になりますから」


「わかりました」


「掲示板に毎日依頼が貼りだされます。白磁と書かれたものだけ受領できます」


サリエリの目線が示す掲示板に目をやるエルナ。


「最後にこの先ダンジョンなどで冒険者の死体を見つけたらプレートのみ回収してください」


「えっ?プレートだけを?」


「そうです。他には手を付けないで。それは回収屋が行います」


「回収屋?」


首を傾げ乍らエルナが尋ねる。


「プレートはギルドにあれば冒険者と魔力の糸で繋がった状態になるので、回収屋が動けるのです」


「そうなんですね」


「あとは依頼の達成率と達成頻度などを鑑みランクが上がります。それはおいおい説明しますね」


「わかりました。ありがとうございます」


「おい!嬢ちゃん。冒険者ってのは国からぽっと出の奴には勤まらねぇ」


礼を言ったエルナが踏み台からぴょんと飛び降りるのと同時に野太い声がギルドに響く。


言われたエルナは小首を傾げる。


「つまりこういうこった!」


言うが早いか太ってガタイの良い大男の試すようなロングソードの刃先がエルナを襲う。


ギルド恒例の歓迎。

これはギルドも黙認。

出禁にはならない。


その迫る刃先……の先にエルナはいなかった。


いつのまに移動したのか、

大男の胸元にいた。


細い足が這うよう近づき男の腰に張り付く。

手刀が男の脇の下に伸びる。


「グキッ!」

鈍い音。

続いてガチャ~ンと大きな音。


男のロングソードが床に落ちた。


「やるな」


周りから賞賛の口笛が鳴る。


「嬢ちゃん飲めるか?一杯奢るぜ」


ロングソードの隣りに座った男がへの字だった口元を緩めて言う。


「もちろん!!」


大きな声で返事をするエルナ。


どっと、笑い声がギルドの中を満たした。


「女でもドワーフだぜ」


エルナ・グラウシュミットがギルドの一員に認められた瞬間だった。

お目にとめていただきありがとうございます。

良かった、悪かった、何らかの反応をいただければ幸いです。

AIではないので遅筆です。

とりあえず書き進めた分をひとつずつ投稿していきます。

誤字脱字のご報告もいただけると幸いです。

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