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厄災の魔王  作者: 大河内雅火
第I部 狼煙 第2章 掃討局入隊編 未雷
18/19

選ぶ道、選ばない道

 どっちにしよう。


 私は迷っていた。

 この選択一つでこの後の人生が大きく変わるから。


「お前、どっちにする?」

「防衛隊に決まってるだろ。

 ていうか、ここにいる奴の大体がそうだろ。

 誰が好き好んで特攻隊なんかに入んだよ」

「そりゃそうだな。

 俺もお前も防衛隊に入るのが目的だもんな」


 両隣の寝ていた男子たちが私を挟んで会話している。

 まるで、私がいないかのように話をしている。


 チビなのが原因だ……、絶対。






 魔人掃討局には主に三つの部がある。


 戦闘部、科学部、民間部の三つ。

 戦闘部は魔人との戦闘、科学部は武器の発明や警備などを企画、民間部は広報や都民の情報処理をそれぞれ請け負っている。


 さらに戦闘部は調査隊と防衛隊の二つに分かれている。

 特攻隊は現地に赴いたり、魔人発生の原因を調査して、魔人を殺しにいく隊。

 対して、防衛隊はトウ都を魔人から防衛する、事態が起こったときに動く、魔人から民を守る隊。


 戦闘回数が特攻隊は圧倒的に多く、それが原因で殉職率が高い。

 そのため、戦闘部に入る人間は防衛隊の方が多くなる、






「特攻隊か防衛隊。

 一分経ったら訊くから入りたい方に挙手してねー。

 どっちも挙手しなかった人は、私が全力で殴るから安心してー」


 まさかの入隊速攻でパワハラ!?

 文の意味も全然おかしいし。 


 内心で優吏さんにツッコミつつも、私はまだ決断できずにいた。


 殉職率が高い特攻隊よりも、比較的安全な防衛隊の方が死ぬリスクは少ない。

 それに、私の“戦う理由”からして、攻めるより守るに重点を置いた防衛隊の方が私には合ってる気がする。


 防衛隊にしようかと決めかけたその時、勢いよく講義室のドアが開いた。


「ここか。

 新しく入ってきたガキ共は」

「ちょっと、緋凪(ひなぎ)

 まだ、皆考えてるところだから」


 入ってきたのは、肩ぐらいの長さの黒髪を後ろで一つに縛った男性だ。

 キリッとした顔の青年で身長は百七十五はありそうだ。

 腰には日本刀を携えている。


 男性は壁にもたれかかると、こちらを威圧した目で見てきた。


「死にたくないから防衛隊に入ろうと思ってる奴は今すぐ掃討局やめろ」


 男性の言葉に気圧されて、音一つなくなる。

 

 直感で分かった。

 この人は凄い。


「軟弱な考えで務めれるほど、この職種は甘くない。

 特攻隊だろうが、防衛隊だろうが弱い奴がただ死ぬだけだ」


 私は男性と目が合ってしまった。

 湖底の深い水色の綺麗な双眸(そうぼう)だ。それでいて、理知的な輝きを放っている。


 私は心が見透かされてる気がした。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。


 私から目を逸らすと、男性は頭を掻いた。


「“戦う理由”が人のためって奴は特攻隊に入れ。

 魔人から民を守るより、魔人の親玉を殺す方がより多くの人を救える。

 言いたいことは、それくらいだ」


 男性は再び扉を勢いよく開けて部屋から退出した。


 優吏さんは複雑な表情を浮かべていたが、ぎこちない笑顔を浮かべた。


「ま、こういう偏見……意見もあるよってこと!

 彼は特攻隊所属だからああ言ったけど、防衛隊に入ることが間違っている訳じゃないから。

 最終的に選ぶのは君たちだし、どちらを正解にするのかも君たちだよ。

 後悔のないよう、もう一度深く深〜く考え直して」


 一分後に訊くよ!と宣言して、優吏さんは数え始めた。


 正直言って、やっぱり死にたくない。

 自分のような家族を喪う人を出しなくないとはいえ、死ぬのは怖い。

 

 私は死というものが、どういうものなのか知ってる。

 死とは日常が二度と戻らないことだ。

 今までの日常が、いかに偶然の重なり合わせで成り立っていたことを思い知らせれる。


 日常が無くなって、ようやくそれに気づく。

 気づいたと同時に、悲しさよりも怒りが沸いてくる。


 なんで私が、って。


 この世界は不平等だ。

 人間は全員平等ではないし、理不尽に災いは降りかかる。


 私はその災いを守りたいんじゃなくて、無くしたい。

 魔人から守るんじゃなくて、魔人の原因を断ちたい。


 それが私にとって、自分のような家族を喪う人間を出さないってこと。


 そのためになら、死の恐怖も耐えられる。


「五十九……六十!

 はい、シンキングタイム終〜了〜。

 みんな決まったかな?

 決まらなかったら、宣言通り全力で……殴る!」


 優吏さんは私たちを見渡すと、満足そうに頷いた。


「じゃあ、まず大人気の防衛隊から。

 防衛隊に所属したい人は挙手をしてね。

 室内にあるカメラが記録するから、なるべく高く!真っ直ぐ!手を挙げるように」


 ちらほらと何人かが挙げ始めたのを契機に、ほとんどの新入隊員が手を挙げていく。

 やる気のない両隣も手を挙げていた。

 

 私は手を……挙げなかった。


 優吏さんはオーケーオーケーと言うと、手を下げさせた。


「次は緋凪イチ推しの特攻隊。

 美しい背泳ぎのように挙手をどーぞ!」


 私は勢いよく堂々と手を挙げた。

 

 考えた末に選んだのは特攻隊だ。

 さっきは、私の“戦う理由”に合っているのは防衛隊と思った。

 それは別に間違ってない。


 でも、それだと、いつか日常を守りきれなくなる日が来る。

 一回守れたとしても、次は守れないかもしれない。


 蜂じゃなくて蜂の巣本体を潰すことで、危険をゼロにするように。

 私は魔人の原因を終わらせることで、家族を喪う人を今後一切なくす。


 私は特攻隊に入る!


 両隣の男子が軽蔑と嘲笑の視線を向けてきた。

 いや、その二人以外にも数多の馬鹿にする視線を感じる。


 (もしかして、私一人なのかな)


 少し不安になって、恐る恐る後ろを見た。


 (あ、やっぱり挙げてたんだ)


 私と“戦う理由”を発表した男子が手を高く挙げている。

 表情は真剣で、周りの視線も全然気にしてない感じだ。


 おそらく彼は、最初から決まっていたんだ。

 

 ぐるっと周りを見ると、その男子以外にも手を挙げてる人が何人かいた。

 私だけじゃなかった。

 

 優吏さんはいいねいいねと連呼して、私たちの手を下ろさせた。


「よしっ、ありがとねー。

 後はカメラが解析して登録、隊員証明書を発行して、正式に所属が決まるから。

 所属したら最後、退職するか死ぬまでその隊から解放されないから、よろしくね」


 優吏さんがピース?を目にかかげている。


 絶対そのポーズで言うことじゃないし、ピースの形が全然違う。

 薬指と小指でやる人類初めて見たよ。


「それじゃ、新人特攻隊員は“洗礼の間”、新人防衛隊員は防衛会議室へそれぞれ集合ー!

 案内は大丈夫!各隊の副隊長がやってくれるから」


 すると、言い終わったと同時に二人の人物が室内に入ってきた。

 一人が短髪で長身のイカつい中年男性で、もう一人はウェーブがかかった黒髪をショートにした小柄な子だ。性別が女か男かは判断できない。


 まず、短髪の男性が大きな声で説明する。


「俺は防衛隊副隊長の磐野内(いわのうち)邦雄(くにお)だ!

 防衛隊を選んだのは奴は、黙って堂々と俺についてこい!」


 行くぞ!と声をかけて、磐野内さんは新人防衛隊員を連れて部屋から出て行った。

 

 めちゃくちゃ熱があって、厳しそうな人だ。


 ほとんどの新人隊員が部屋から去ったせいか、この上なく部屋は静かになった。

 残ったのは、ちょうど十人。

 五十六人もの人が特攻隊を選ばなかった。


「たったの十人かぁ。

 なんで、特攻隊って人気ないのかなぁ。

 たくさん魔人殺せて、ストレス発散できるのここだけなのに」


 残ったショートの子が、ほんわかした口調で愚痴をこぼした。

 優吏さんが苦笑いしながら、その子に促した。


八雲(やくも)ちゃん、愚痴は後で私が訊くから、今はストーップ!

 みんな困ってるから」

「あー、そうなんだ。

 じゃ、適当にいくよ」


 小柄な子はブカブカなスーツの埃を払って、礼儀正しくお辞儀をした。


「僕は特攻隊副隊長三日月(みかづき)八雲(やくも)

 新人隊員のみんな、よろしくどーぞ」


 八雲さんがニコッと笑った。

 その笑顔を見て、私は鳥肌が立った。


 幼児のような純粋な笑顔だけど、それでいて異質な狂気を孕んでる笑顔。

 サイコパスの人の不気味な笑顔を見たことがあるけど、それよりも怖い。


 本能が危険って言ってるんだ。


楠鳥栖(くすとす)さんが、“洗礼の間”で待ってるんだ。

 急いで僕についてきて」


 八雲さんは楽しそうに鼻歌を歌いながら、スキップで私たちを“洗礼の間”へ案内した。






 


 


 

 

 






 

 


 

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