最強のエルフ
微かに魔力を感じる。
出発から2時間後、アリスはもう寝てしまい起きてるのは僕一人。
僕は本を読むのをやめて、クルーザーの甲板に出た。
すっかり夜になってしまい、星空がとても綺麗だ。
その星空の美しさをさらに際立たせるかのように、海面がそれを反映している。
まさに、星の海。
「いるのは分かってるんだ。
いつまでも海に引きこもってないで、僕に顔を見せてくれよ」
呼びかけると、その人物は海中から姿を見せた。
赤髪に水色の瞳を持つ青年だ。
なかなかのイケメンじゃんか。
魔人なのが残念だ。
「なぜ、俺が潜伏してると分かった?」
魔人が話しかけてくる。
海面に立ってることから推測して、水に関係する“ラマージ”だな。
「魔力を少し絶った程度じゃ、僕の魔力探知をかい潜れるわけないだろ?
絶つなら残滓も出さないように完全に絶たないと」
「なるほどな。
俺が思ってるよりも強そうだ」
魔人の言葉に僕はゲラゲラ笑った。
「思ってるよりも……?
訂正しろ。
僕は最強だ」
言い終わると同時に、巨大な水の塊が僕を襲いかかってきた。
僕はそのままそのまま動かなかった。
巨大な水の塊はクルーザーを囲むようなバリアに遮られて、一滴たりとも届かなかった。
言うまでもなく、僕の“ラマージ”が原因だ。
「今、何をした?」
「さぁ、何ででしょうか!?」
僕は甲板から降りると、海面を走って魔人との一瞬で距離を詰めた。
防御する余裕すら与えずに、そのまま魔人を突き飛ばす。
「大丈夫?
今の魔力込めてたら、君確実に死んでたよ?」
「調子に乗るなよ……」
「全然乗ってないよ。
どうする?剣は使わないでほしい?
使ったら、苦しまずに殺せるけど」
「調子に乗んなって言ってんだろ!」
魔人は立ち上がると、手を振りかざした。
魔人の周囲の水が大蛇のような形を成して襲いかかる。
だが、先ほどと同じように僕には届かずに見えない壁に遮られた。
「あー、分かった分かった。
君の能力あれでしょ、周囲の水を操るとかいう単純なやつ」
「……正解だ。
確かに俺の“リトル・マーメイド”は周囲の水を自由に操作できる」
「お、やっぱり?
だって君、全然芸がないな〜って思ったからさ。
まだ、サーカス団員の方が面白い芸するよ」
「舐めんなよ!人間風情が!」
魔人は巨大な水の槍を精製すると高速で回転し始めた。
「串刺しにしてやる!」
回転した水の槍が高速で飛んでくる。
相変わらずその水の槍も僕の能力で防いだ。
魔人を見ると、イライラした顔になっている。
「何でだよ!
何で俺の攻撃が当たらないんだよ!」
「答え知りたい?」
ニヤッとしながら挑発してみる。
相手の歯ぎしりの音が聞こえた。
これだから、おちょくるのはやめられない。
「特別に教えてあげよう。
僕の能力はつまり、僕の魔力をダークエネルギーに変化する能力」
「ダークエネルギー?」
「宇宙の構造の7割近くを占めている謎の大きなエネルギーのこと。
僕はそれを魔力が尽きる限り生み出すことができる」
「だから、それがどうして俺の能力が効かないことに繋がるんだよ!」
丁寧に説明してあげてるのに、怒るなんて失礼だなぁ。
それだけ気が小さいってことか。
「まだ、誰も解明していないエネルギーなら、誰がどう定義してもそれは間違いじゃない。
僕はダークエネルギーを四つの性質を持つエネルギーとして定義している。
君の“ラマージ”による攻撃が効かないのは、その一つの『相手の能力の影響を受けない』って性質があるからだ。
理解できた?」
「ああ、理解できたよ。
お前がとんだ嘘つき野郎ってことがな!」
懲りもせず、巨大な水の塊をぶつけてくる。
全く僕に当たらないが。
「納得するまで、やってみたら?
何なら僕が近づいていってあげるよ」
僕は魔人の方にゆっくりと歩いていった。
近づく間に、魔人が水で攻撃してくるが、一発も命中しない。
気づけば、魔人との距離は0になっていた。
「ね、分かったでしょ?
こんな至近距離でも当たらないんだから、君の攻撃意味ないって」
「クソがぁあ!」
魔人が殴りかかってきたので、僕は手首を掴んで海底へと放り投げた。
すぐに、魔人は海上へと戻ってくる。
「そんなに自暴自棄になる?
能力の影響を受けないだけで、魔力が込められたただの打撃は僕に当たるよ。
もしくは、僕が魔力切れを起こすまで攻め続ければいい。
まぁ、君じゃ不可能だとおもうけど」
「図に乗るなよ。
能力が分かれば、俺の方に分がある」
魔人は水を操作したまま、僕に体術勝負を挑んできた。
体術も心得てるのか、僕の殴打や蹴りを的確にガードして、反撃してくる。
さっきの水を操作する攻撃といい、こいつ自身のスペックといい、今のアリスなら瞬殺される。
魔人側も本腰入れて、強い刺客を送り込んできたという訳か。
「凄いじゃんか。
魔力を一切込めていないとはいえ、僕の体術を凌ぐなんて」
だが、さすがに疲労してきたね。
腹がガラ空きになっている。
僕は逃さずに、空いた腹に張り手を喰らわせた。
魔人は吹っ飛ばされて、ゲポッと吐血した。
「君の言葉をそのまま返すよ。
君、思ったよりも強いね」
「はぁはぁ……余裕ぶっこいてられんのも今のうちだぞ。
海の恐怖をお前に堪能させてやる」
魔人は両手を海に入れた。
「“地獄の渦”!」
大きな海鳴りの音がしたと、思うと巨大な渦が発生した。
直径百メートルほどの大きな渦が飲み込んでいく。
アリスのいるクルーザーから離れておいて正解だった。
「この大渦に飲み込まれて死ね!」
「言っただろ。
君の能力による影響を僕は受けないって。
こんな大技僕には効かない」
僕は渦の上を普通に歩くと、魔人と殴り合った。
魔人の拳を潰しながら、素早く連続で殴り続ける。
敵わないと思ったのか、魔人が目の前から姿を消した。
少し離れた位置に再び姿を現す。
そろそろ飽きてきたし、終わらせるか。
「最後に大技対決しない?
お互い技を撃って、強かった方の勝ち。
シンプルでしょ?」
「……受けて立ってやる」
魔人は渦を終わらせると、巨大な水の槍を高速で回転し始めた。
先ほどの水の槍とは比べ物にならないほど、魔力が込められていて回転数も段違いだ。
街一つなら壊滅できるだろう。
僕はニッと笑った。
「いいね。じゃあ僕も」
右手の親指、人差し指、中指を開いて魔力を最大限まで高めた。
手のひらから、手のひらサイズの火の玉が発生したかと思うと、瞬く間に手を覆う大きさになり、温度がどんどん上昇していく。
「それも、能力の一つなのか?」
「まあね」
僕は再びニヤッと笑う。
ノア・キャロルの“ラマージ”、“スターウォーズ”は魔力をダークエネルギーに変化でき、そのダークエネルギーの性質を四つまで定義している。
性質の定義を四つまでにしたのは、これ以上定義すると脳が情報処理できずに壊れてしまう。
その四つの性質は、
一つ目が、相手の能力の影響を受けない。
これにより、“ラマージ”による攻撃は無効化される。
二つ目が、無制限の身体能力の強化及び向上。
魔力による身体強化を遥かに凌駕する。
三つ目が、超再生。
体が傷ついても、体の部位が失っても再生することが可能。
これは、他者にも適用することができる。
最後、四つ目が、七つのエネルギーに変換することができる。
光、熱、化学、音、電気、運動、核の七種類のエネルギーに変換して使用可能。
これらの性質は最初から強いわけではなく、ノアが自身の能力と向き合い、300年もの年月をかけてようやく完成された能力。
自由に扱えるためには、常軌を逸した魔力量、身体能力、魔力制度、魔力耐性が必要となる。
常人が扱えば、エネルギーの大きさに体が持たず、壊れてしまう。
まさに、最強と呼ぶにふさわしい能力。
「準備はいいか?」
「構わないよ」
僕より先に魔人が技を放ってきた。
「“海槍”!」
亜音速のスピードで水の槍が飛んでくる。
「灼けろ、“火聖”」
手のひらから炎の球を超高速で放った。
炎の球は熱と衝撃で海面をえぐりながら、一瞬で水の槍を貫いて魔人を消し飛ばした。
魔人の魔力が完全に消えた。
僕はふーっと深いため息をつくと、肩を回した。
「今後はこれくらいの強さの魔人が増えてくるだろうな。
少しアリスの特訓レベルを上げるか」
魔人がいた方へ目を向ける。
綺麗な一直線のえぐれた後ができている。
少しやりすぎちゃったな。
だけど、実力差を思い知らせるにはちょうどいい。
こっちには、こんなことできるボディガードがいるんですよって。
「あいつは本気で殺しにきてるね」
僕の胸がざわついた。
「見えた!あれがローラシア大陸の港街サンプか!」
私は港街を指差した。
タカハと同じように漁船が止まっている。
ノアはそんな私の様子を微笑むと、肩に手を置いてきた。
「いよいよ、ローラシア大陸に上陸するけど、一つ絶対守ってほしいことがある」
「何だよ」
私はノアの顔を見た。
「アリスには強くなってもらいたいから、戦闘は基本アリスに任せるつもりでいる。
ただ、絶対に勝てないと思った相手には戦わず、全力で逃げるんだ。
いい、絶対守ってよ」
「分かった……」
口ではそう言ったものの、戦う気満々だ。
魔人は私が殲滅するからだ。
それに、目的を阻む奴は誰でも殺す。
「頼んだよ」
ノアはニコッと笑ったと同じタイミングで、クルーザーは港町サンプに到着した。
「もう夜だから、静かに宿を探そう。
いい?静かにだよ」
「分かってるって」
私は新たな大陸に足を踏み入れた。




