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厄災の魔王  作者: 大河内雅火
第I部 狼煙 第1章 旅立ち編 アリス
14/19

“葬魔拳”

「きゃあああぁっ!」


 ラーメンを食べていた女が悲鳴をあげる。

 フロースは気にせずに、女を植物の枝で貫いた。


「人間ってほんとうるさいなぁ」


 屋台街は避難が完了できていないのか、多くの人間が食事をとっていた。

 そこに自分が現れて、好き放題に暴れている。

 料理している場所ってこともあり、火がどこかに引火して燃え広がった。


 子供が泣き叫ぶ声、女の悲鳴、男の怒鳴り声。


 聞くに耐え難いが、見ている分には実に気味がいい。


「これが、本来あるべき姿なんだ……っ」


 人間に生きる価値などない。

 自己中で傲慢な人間は苦しんで、苦しんで、苦しんだ果てに死ねばいい。


「テメェ、ふざけんなよっ!」


 頭から血を流している男がフロースを見てきた。

 手には麺を茹でるためのザルとオタマを持っている。


「一生懸命ラーメンを作ってるのを邪魔しやがって!

 こんなことして、何かお前に得でもあんのか!」


 馬鹿な人間だと思った。


 魔力を微塵も感じられないどころか、今立ってるのがやっとなはずだ。

 戦うこともできない弱者に辟易する。


「得ねぇ。君たちがいなくなることを僕たちが望んでるんだよ。

 これって、君たちの言う民主主義ってやつじゃない?」

「脳みそ入ってんのか?

 俺はラーメン作るの邪魔して、何か得すんのかって言ってんだよ!

 お前らの民主主義の話なんてどうでもいい!」


 容赦なく植物の枝で串刺しにする。

 グフっという汚い音と共に口から血が出た。

 もうこいつは助からない。


「君こそ脳みそ入ってる?

 僕はさぁ、君たち人間にそんなことする権利ないって言ってんの。

 ラーメン?作るっていうのも、生きるって中に入ってるでしょ」


 植物がその男の力を吸い取り終えた。

 フロースは男を遠くの店へと放り投げる。


「汚らわしい……ほんと」


 フロースが更に殺そうと歩き始めた。


 その時、急に大きな魔力を感じて、その方向に目を向けた。

 

「がはぁっ!」


 強力な力を全身に受ける。

 そのまま、フロースは近くの屋台へと吹っ飛ばされた。


「な、なんだ……?」


 失った腕と脇腹を再生しながら、ゆっくりと立ち上がった。


 視線の先には、金髪を後ろで一つに束ねて綺麗な碧い目をした少女が立っていた。

 フロースは動揺する。


 何でだよ。


「何で生きてるんだよ!!

 アリス・クリアベールぅう!!!」


 あの状態から復活?

 有り得ない!有り得ない!


 内臓は傷ついてる上に植物に力を全て吸い取られたはずだ。

 人間が生きれるわけがない!


 亡霊だ!

 死んで亡霊となって自分を殺しにきたんだ!

 

「言っただろ。お前を殺すって」

 

 アリスは徐々に近づいてくる。

 フロースは少しずつ後ずさった。


「お前を殺さないと前に進めない!

 進まなければ、目的を絶対に果たせない!

 殺す理由はそれでいい」


 アリスの魔力をずっと肌で感じている。

 殺気だ。

 アリスの魔力は殺気そのものと言っても過言じゃない。


 フロースはゾクっとした。

 恐怖を感じていた。


 こいつは、今殺さないといけない!


「死んでないのは驚いたけど、慌てることはないんだ。

 もう一回、植物の糧となってもらうよぉ!」


 フロースは全身に魔力を巡らせると、力強く踏み込んだ。





 (やはり厄介だ。この“ラマージ”)


 私はフロースの攻撃を交わしていた。

 さっきよりも速いスピードで植物の枝が暴れ回る。

 今の自分だとその全てが致命傷になる。


 “ターザン”の厄介な点は応用力と汎用性にある。

 圧倒的な手数、伸縮可能な枝、植物の幹の硬さ。

 それらは攻撃にも防御にも上手く使うことができる。

 魔力で強化されたことにより、更に脅威になる。


 (それに加えて……あの手)

 

 触れられただけで死、助かったとしても弱体化させられたり、抜く際に体の部位を持ってかれる。

 次、まともに喰らったら今度こそあの世行きだ。


 私はフロースの猛攻を耐え凌いで、攻撃を仕掛ける。


「粉々にしてあげるよ!」


 植物の太い枝が私めがけて突進してくる。

 私は“ラマージ”で得た謎の力を右手に込めて、殴って破壊した。


「はぁ!?嘘でしょ!?」


 フロースが距離を取ろうとするが逃さない。

 全速力でフロースを走り殴った。


「痛ったいなぁ!ほんとぉ!」


 フロースが自分ごと周囲を枝で吹き飛ばした。

 巻き込まれないように、その攻撃を避けた。


「何、お前。さっきよりもスピードもパワーも段違いぃ!」


 フロースが歯ぎしりを始めた。

 相当頭にきているらしい。


「さては“ラマージ”に目覚めたなぁ!

 それしか原因が思いつかないんだけどさぁ!」

 

 フロースの魔力が大きくなっていくのを感じる。


 私は自分の“ラマージ”についてよく知らない。

 分かってるのは自分の中に謎の力があって、それが身体能力を高めていることだけ。

 ただ、それだけでも、フロースと互角の勝負ができている。


 (理解してものにしてやる……!そして、殺す!)


「使いたくなかったけど、使うしかなくなった。

 怒らせたらいけないのが、人間だけだと思うなよぉ!」


 フロースは両手を合わせた。

 そして、目を閉じて叫ぶ。


「“樹木鎧(ジャック)”!」


 何かくると思って、私は止めるために全力で殴ろうとした。

 だが、逆に私の方が強い打撃を喰らって、ぶっ飛ばされてしまった。


「がふぅっ!」


 死にものぐるいで受け身を取って、すぐに体を起こす。

 今の攻撃は魔力を込めても……死んでいた。

 謎の力のおかげだ。


「少し強くなったからって、図に乗るなよぉ!

 僕たちには遠く及ばないんだからさぁ!」


 全身を硬い木の幹や枝で固めたフロースが歩いてきた。

 背中からは太い木の枝が四本うねっていた。

 まるで、木の鎧を着ているみたいだ。


「はぁはぁ、ようやく本気で戦う気になったか」


 私はふぅーっと深呼吸をする。

 

 長くは持たないけど、体力も魔力も謎の力もまだ残っている。


 まだ……戦える。


「人間相手に最初から全力を出すわけないでしょ。

 じわじわとなぶり殺していくのが楽しいんだから」

「人殺しが楽しいなんて、マジでお前はイカれているな。

 だから、私に殺されるんだよ」

「うるさいなぁああ!!」


 フロースがすごい速さで襲いかかってくる。

 それを交わして、カウンターに出ようとする。

 しかし、フロースがすごいスピードで殴りかかるのと、背中から生えてる木の枝を同時に振り回すせいで近づけない。

 むしろ回避に集中しないと、当たって死ぬ。


「ちょこまかちょこまかと逃げんなよなぁ!」


 フロースの素早い体術と木の枝による攻撃をギリギリで交わしまくる。

 反撃をするにも、全く隙がない。


 私は木の鞭とフロースのパンチ六連撃を交わす。

 そして謎の力を両拳に交互に込めて殴り始めた。

 さすがに硬い幹でも、私の一発の方が勝っている。


「このまま、そのダサい鎧を破壊してやる!」

「やってみなよぉお!できるもんならさぁ!」


 木の枝が背後から刺そうとしてるのが分かる。

 私は避けずに喰らったが、そのままフロースの鎧を殴り壊し続ける。


「お前は本当に狂ってるなぁ!

 普通、避けることを優先するはずだからさぁ!!」

「私にとっては、お前を殺すのが最優先だ」


 とうとう鎧を完全に破壊して、心臓を殴った。

 フロースは心臓を守るため、それを交わして私に蹴りを入れる。

 ガードしたものの、数メートル退いてしまった。


「はぁはぁはぁはぁ」

 

 腹から血が出始めた。

 失った部位も筋肉で強制的に引き締めてるだけなので、このままだと即死しかねない。


「もう驚かないよ。3度目だ。

 お前は多分、一撃で確実にトドメを刺すまで戦い続けるんだよね?

 しつこさだけは見事なものだよ」


 フロースは再び全身を木の枝で覆っている。

 一撃で殺らなきゃいけないのは、こっちだ。


 (何とかあいつを弱体化できれば……)


 謎の力での自身の強化ができるなら、相手の弱体化もできそうだ。


 いや、できるという確信が私にはある。

 やってみせないといけない。


「いい加減、終わらせようよ。

 これ以上は面倒臭いしさぁ!」

「今までの会話の中で、そこだけは唯一同感だ。

 そろそろ終わらせる!」

「それは僕の台詞だぁあ!」


 フロースが飛びかかってくる。

 私も謎の力を脚に集中させて、強く踏み込んだ。


 お互い相手の攻撃を牽制し合う。

 私の拳をフロースの拳で防ぎ、フロースの拳や木の鞭を私の拳で防いだ。

 

 その最中で私は謎の力を相手に送ろうと意識した。

 弱体化しろ、と強い意志を込めながら。


 すると、フロースの動きが急に遅くなった。

 生まれた隙を見逃さず、謎の力を込めてフロースを蹴り飛ばした。






 フロースは運河の方へと飛ばされた。

 運河に無人で漂っているゴンドラになんとか着地する。


「何なんだ!あいつは!あいつの“ラマージは何なんだ!」


 さっき、あいつとやり合っていたら、僕の動きが急に遅くなった。

 いや、遅くなったというよりも、()()()()()()()と言った方が正確だ!

 

「やばい、やばい、やばい、やばい!

 逃げないと!完全に再生するまで逃げないと!」


 体の再生が遅くなっている。

 魔力もほとんど使い切ってしまった。

 “樹木鎧(ジャック)”は魔力消費が激しいから、短時間でしか使っちゃいけない。


「あいつは人間なんだ……。

 僕はまだ生きれるけど、あいつはほっといても死ぬんだ!」


 とにかく、早くこのゴンドラから降りないと!

 水の中へ避難するんだ!


 水の中へ避難しようとすると、ゴンドラに強い衝撃がして大きく揺れた。


 目の前にはーーー。


「絶対逃がさないって……言ったはず……だ!」

「ふざけるなぁよぉおおお!!!」


 残った力を全て振り絞って猛攻撃を仕掛ける。

 アリスはフロースの攻撃速度よりも速く攻撃する。

 1秒、2秒、3秒…………

 時間が経つほど、アリスが優勢になっていく。フロースが押されていく。


「うぁああああああ!!!」


 抵抗しても、すぐに潰される。

 再生速度がアリスの攻撃速度に追いつかない。


「来るな!来るな!来るな!来るな!来るなーっ!」


 フロースは叫ぶことしかできない。


「僕に近づくなぁああああああ!!!」


 こうなったら、道連れだ!

 僕が触って、こいつもあの世行きだ!


 アリスを触ろうと手を伸ばす。

 アリスは冷静に手を破壊すると、拳を振り上げた。


「お前はあの時、煽ってないで、私の首を引きちぎるべきだった!」

「あぁあああぁあああっつ!!」


 アリスは謎の力と魔力を全て拳に込めた。


「“葬魔拳(そうまけん)”!」


 バチバチと紫色と赤い火花が鳴って、でたらめなパワーで殴り飛ばされた。


 心臓は跡形もなく消し飛ばされて塵となり、その衝撃でフロースの体も消し飛んだ。


 これが……死なんだ。

 僕は死ぬんだ……。


 ……あっけないな……。


 フロースは最期にそう思い、塵と化した体は風に吹かれた。







「はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!はぁっ!」


 酸素が入ってこないっ!


 フロースを倒したものの、私はゴンドラの上から動けないでいた。


 全ての力を使ったせいで、押し留めていた体の部位が出てしまう。

 出血も止まらない。

 臓器も傷ついたままだ。


「駄目だ……。ただ殺すだけじゃ駄目だ……!

 生きなくては!生きなくては!

 まだ、目的は果たせて……ないっ!」


 ゴンドラの船縁に上半身を預けた。

 しかしバランスを崩して、運河に落ちてしまった。




 深く深く水の底へ沈んでいく。

 水面上にある光から離れていく。


 もう、力は本当に残されていない。

 だが、抗い続ける。

 強く堅い意志で醜く抗った。






「本当に、もう殺すしか……方法は残ってないんですか?」


 茶髪の小柄な女子が言う。手には知らない武器を持っていた。


 見たことがない部屋だ。

 ホワイトボードとかテーブルとかが置かれている。

 見たところ会議室のようだ。


「あいつはもう、俺たちの知ってるあいつじゃねぇぞ。この世界を滅ぼそうとしてやがる。

 殺すしか、俺たちが生き残る道はない」


 今度は長い黒髪を後ろで一つに束ねた男が言った。

 男の目は切羽詰まったような、深刻な目をしていた。


楠鳥栖(くすとす)さんの言う通りだよ〜。

 友達を殺すのは辛いけど、覚悟を決めないとね〜」


 間延びしたような語尾で話したのは、ウェーブのかかった黒髪をショートカットにしている人物だ。

 美しい顔だが、中性的で性別がわからない。


八雲(やくも)の言う通りだ、未雷(みらい)

 お前も覚悟を決めて選べ。

 あいつを殺すか、お前が死ぬか」


 楠鳥栖という男が睨む。

 未雷と呼ばれた小柄な女子は考えていた。

 

 やがて、覚悟を決めたのか堂々と言い放った。


「私は……殺します」




 何だ、これは。


 沈んでいく中で、私は奇妙なものを見た。


 確かに、自分はこの光景を見ている。

 身に覚えのない、状況、場面。


 今は水の中の暗闇しか見えない。

 自分の今の眼にはそれしか映っていない。


 だが、さっきはよく見えた。

 はっきりと鮮明に。


 (一体、今見えたものは何なんだ?)


 考えようとするが、ゴボゴボと苦しくなった。

 呼吸ができない。酸素が足りていない。


 私はだんだん溺れていく。



 ーーそこで私は意識を失った。


 

 


 


 



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