死の瀬戸際で
落ち着いて、戦え。
第二ラウンドなんて言ったが、早く終わらせないとまずい。
フロースは傷も回復するのに対して、私は内臓は傷ついてるし、怪我がすぐに回復するわけじゃない。
改めて魔人と人間の差を思い知らされる。
「僕決めた。お前はじっくり殺すことにするよ」
フロースが指をポキポキ鳴らし、見下すように睨んできた。
くる。
フロースが動いたと同時に、横か植物の枝が伸びてきた。
私は腕でガードして対応する。
「ガードしても、無駄なんだよねぇ!」
ガードした状態で道路へと押し飛ばされた。
道路はがらんとしていて、人一人いなかった。
「避難は終えたようだな……」
視界の隅にフロースの姿が見えた。
私はフロースに向かって走り出した。
植物の枝がうねりながら襲いかかってくるが、冷静に全て回避した。
フロースとの間合いがゼロになったところで、心臓めがけて貫手をする。
フロースもこれを交わすが、体勢を少し崩した。
今だ。
すかさずに魔力を込めた拳で、素早いラッシュを叩き込む。
1秒、2秒、3秒、時間が経つにすれ、フロースの体にダメージを蓄積していく。
「おえぇええっつつ!」
フロースが苦しそうにうめいて、私との間に植物の壁を築いた。
私は止めずに殴り続けて、壁を壊していく。
そして、壁が壊れたところで全力で殴った。
「あぁあああっつ!」
フロースは大声で叫んで、私の腕を掴んでくる。
私は腕を引き剥がして、横腹を蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされたフロースは橋の柱に壁を打ちつけられた。
傷が中々再生しないのか、動けていない。
「チャンスだ!」
今度こそ心臓を潰せる!
私は急いで殺そうとしたが、急に倒れた。
動かそうと思っても、全く動かすことができない。
それどころか、自分の魔力を全く感じない。
「何が起きた……?」
今動かないとあいつを殺すことができない!
なのに、なぜ動かない!?
「ははっ、僕の勝ちだ」
立ち上がったフロースが近づいてくる。
先ほど与えたダメージはほとんど完治したのか、傷が塞がっていた。
「何したんだ、お前!」
「何って、自分の腕を見て見なよ」
言われた通り自分の腕を見た。
マジかよ……!?
私の腕から奇妙な植物が生えていた。
それは成長しているのか、少しずつ大きくなっていく。
これが原因か!
「僕の“ラマージ”、“ターザン”は植物の枝や幹を振り回すだけの能力じゃない。
僕が手で触った生物に植物を植え付けることができる!」
「それなら、こんなの引っこ抜いてやる!」
私は植物を抜こうとした。
だが、植物はびくともしない。
「無駄だよ!その植物は宿り主の体力や栄養、魔力を吸い取って成長する!
植物は君の体内にしっかりと根付くのに加えて、吸い取られて弱った力じゃ抜くのは不可能だ」
フロースは高らかに笑う。
その顔をぶん殴ろうとするが、力が吸い取られて体が動かない。
「もっとも、抜けたとしても、その体の部位を失うことは避けられない!
アリス・クリアベール!
僕に触られた時点で、お前の負けなんだよぉおおお!!」
下劣なフロースの笑い声が響き渡る。
フロースは笑ったまま、私を蹴り始めた。
「散々、僕を馬鹿にしたな!人間風情が!
お前ら弱者には、何の権利も与えられてないんだ!
生きる権利も、笑う権利も、楽しむ権利も、馬鹿にする権利も、殺す権利も!
これで分かったかぁ!?
お前らは死んで当然の害虫だってことぉお!」
満足したのか、最後に強い蹴りが入って終わった。
私は残った力でフロースに言う。
「……、死ぬべきなのは……お前ら魔人だ」
「無理ぃ無理ぃ!もう、お前死ぬんだから!」
調子に乗ってるクソガキに視線を向ける。
「死んでも……、地獄に……行っても、必ず……戻ってきて」
ありったけの殺意を込めて脅す。
「お前を殺す!」
フロースは気圧されたのか、顔を引きつらせた。
「できるもんなら……や、やってみなよ!
今から死ぬお前にできるわけがない!」
フロースは勝負は終わったとばかりに、この場から立ち去ろうと歩いて行った。
最後に振り返ると、フロースは馬鹿にした笑みを見せてきた。
「バイバイ、アリス・クリアベール。
あの世で人間に生まれたことを後悔するといい」
子供のように笑いながら、フロースは姿を消した。
「クソっ、クソっ、クソっ、クソっ!」
植物はすでに上半身ぐらいの大きさに成長していた。
私の体から全ての力を吸い取るまで、成長は止まりそうにない。
「絶対に逃がさない……必ず殺してやる……」
諦めずに植物を抜こうとするが、手に力が入らない。
その度にフロースに対する憎悪が渦巻いていく。
「ここまで……、ここまでなのか……?」
体に力が入らないどころか、視界も霞んできて、耳も聞こえなくなってきた。
おまけに段々眠くなってくる
「嫌だ……、死にたくない……」
だが、どうすることもできない。
体が置かれている気分だ。
ただ、着々と死に近づいていく。
死の感覚がする。
「まだ姉さんにも……会ってない……。魔人を……殺せてない……」
私は今死の瀬戸際にいる。
死という瞬間に、何を感じているだろう。
後悔か。諦めか。自分への慰めか。
何もしてない自分に対する怒りか。
私は考える。
人生の最期に何をするべきなのか。
今、できることは何か。
私はどうするべきなのか。
「あぁああああああああ!!!」
私は大声で咽び泣く。
悲しいのではなく、感動したのでもなく、怒ったのでもなく。
ーー深く深く絶望した。
「諦めるのですか?」
不意に頭の中に謎の声が響いてくる。
優しい女性の声だ。
誰の声なのか全く分からない。
「何も……できないんだ。諦めて死ぬことしかできない」
声が出ないが、頭の中で返事をする。
頭の中の声はふっと優しく笑った。
「何もできないことはないですよ。あなたには、まだできることがあります」
私は怒り狂った。
「何ができるって言うんだ!
何も残されてないのに、何をやれるんだよ!」
ふざけるなっと怒鳴る。
その声はまた穏やかに笑った。
「最期まで醜く抵抗すること。
それが、今のあなたにできる唯一のことです」
「……最期まで醜く抵抗する……?」
思わず頭の中でつぶやく。
「簡単に死を受け入れるのですか?
簡単に負けを認めるんですか?
あなたには成し遂げたい目的があるのでしょう?
成し遂げないまま、諦めてあなたは死ぬんですか?」
女性がまくしたてる。
そうだ、死ぬわけにはいかない。
諦めるわけにはいかない。
何も目的を果たせていない以上、死ねない。
力が残ってなくても、最期まで醜く抵抗することはできる。
足掻き続けることは……できる。
「ああっぁぁああっあぁあぁっ!!!!!」
腹の底から、叫んだ。
体は抵抗できなくとも、心や精神で……堅い意志で抵抗した。
「そうです。
人間誰しも醜く抵抗できるのです。
体が朽ちていこうとも、最後まで意志によって抗うことは、人間の武器です」
植物が根を広げているのが分かる。
死の瀬戸際で、私は醜く抵抗し続けた。
「死の瀬戸際であなたは深く絶望した。
そして、醜くも抵抗し続けた。
そんな強い意志を持つ者にこそーーー」
「“ラマージ”は発現する」
私は大きな力を感じて、植物を引き抜こうとする。
「あぁーーーーっ!」
ミシミシと音がして、体に巣食っていた植物を引き抜いた。
体の上半身部分ごと引きちぎれて大量に出血したが、引きちぎれた部位を力づくで元の場所へ押し込んだ。
そして固定するために、上半身の筋肉に力を入れた。
「“ラマージ”が発現したようですね」
謎の女性の声がする。
声が出せるようになった。
「そうなのか。実感が湧かない」
謎の大きな力を体に感じる以外、特に変化はない。
魔力とは違う力を感じる以外は。
「使っていく内に、自分の能力を理解していくでしょう。
さぁ、行くのです。
あの魔人を殺すのです」
言われなくても、そのつもりだ。
絶対に逃がさない。
「ところでお前は誰だ?」
どこにいるのかは分からないが、訊ねてみる。
得体の知れない声は味方か敵か分からない。
正体不明なままだと、殺意を向けることになる。
「あなたの強い味方とだけ答えておきましょう。
いずれ、会うことになるでしょうから」
「おい、会うって一体どう言うことだ!?」
訊ねてみるが、返事がなかった。
多分今はもう会話ができない。
「まぁ、いいか。今はそれよりも……」
私は目を閉じて魔力探知をした。
一度戦った敵だ。すぐに見つけられる。
「見つけた」
フロースはそう離れていない場所にいた。
この方角はーーー
「屋台街……」
自分の中に激しい怒りを感じる。
おそらく、あいつは屋台街をめちゃくちゃにする気だ。
「待ってろ……、今度こそ息の根を止める」
屋台街へ私は全力で駆け出した。




