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戦いの終わり


 二体は同時に動いた。

 咲が鉤爪(クロー)の頭めがけて剣を振り下ろした。

 鉤爪(クロー)が咲の腹めがけて爪を突き上げた。

 各々が持てる力を全てこめた最高の一撃だ。


 その瞬間、二体の間から大量のイバラが噴出した。


「なっ!?」

「何だ!?」


 両者はイバラに押し流され、引き離された。

 さらにイバラは二体に絡みつき、拘束しようとした。

 咲はすぐにその正体を見抜いた。


「何だかわからないが、生気(オーラ)の塊なら……」


 咲はイバラに斬撃を放った。

 すると、イバラは溶けるように消えていった。

 咲は拘束しようと向かってくるイバラを次々と消し去った。


「ヤツはどこだ?」


 咲はイバラを消し去りつつ、その中を進んだ。

 イバラの向こう側に鉤爪(クロー)がいるはずだ。

 生気(オーラ)を無駄に使いたくはなかったが、今が鉤爪(クロー)を殺す絶好のチャンスなのだ。

 このチャンスを逃したくはなかった。


「ええい、邪魔だ!」


 咲は黒蛇を放って、目の前でうごめくイバラの壁をまとめて消し去った。

 すると、イバラが消えた先に男が立っていた。


「やあ」


 男は軽い調子で手を上げた。


「お、お前は!?」


 男が術を放った。

 咲の体に術式が浮かび上がり、その生気(オーラ)を一気に吸い上げた。

 残りわずかとなっていた咲の生気(オーラ)が、一気に危険水準を下回った。

 咲は昏倒した。




 一方、鉤爪(クロー)鉤爪(クロー)でイバラに覆われていた。


「こんなものでオレを止められると思うなよ!」


 鉤爪(クロー)はイバラを引きちぎって、包囲網を突破した。

 すると、その先に女の子が立っていた。

 鉤爪(クロー)の動きが止まった。


「沙……良!?」


 紗良がじっととした目を鉤爪(クロー)に向けた。

 紗良の目は、引きちぎったイバラをつかんでいる鉤爪(クロー)の手に向いていた。

 紗良は涙を浮かべて、下唇を噛んだ。


「え……あ、いや、これは……その……」


 鉤爪(クロー)はしどろもどろになって、イバラを背中に隠した。

 イバラは紗良の一部だ。いや、紗良の体そのものと言っていいかもしれない。

 鉤爪(クロー)は紗良を傷つけてしまったことに気がついた。

 鉤爪(クロー)は狼狽した。


 妹を傷つけることが兄のすることだろうか?

 妹を悲しませることが兄のすることだろうか?


 鉤爪(クロー)は悩んだ。しかし、それもわずかな間だった。


 妹の全てを受け止めてこその兄だ、と鉤爪(クロー)は思った。

 戦いの勝利など、妹の涙に比べれば些細なことにすぎない。

 鉤爪(クロー)の心は決まった。


「うっ、うわあぁっ!う、動けねえっ!」


 わざとらしい大声を上げて、鉤爪(クロー)がイバラに体を絡ませた。

 紗良はにんまりと笑みを浮かべた。


 イバラが鉤爪(クロー)を呑み込み、限界まで生気(オーラ)を吸い取った。

 鉤爪(クロー)は満足そうな表情を浮かべて失神した。




 咲が意識を取り戻すと、すぐそばに若い男が座っていた。

 スマホで何かを見ている。

 咲は幻術使いだと気がついた。


「気がついたか」


 陸はスマホをしまうと、咲に目を向けた。


「今日は顔を隠さないんだな。恥ずかしがり屋は克服したのか?」


「こそこそ顔を隠して生きるのもバカバカしくなってね」


 陸は自嘲気味に笑った。


 咲は立ち上がろうとしたが、体が動かなかった。

 生気(オーラ)不足によるものではない。何らかの力で動けなくされているのだ。


「大した力だな」


 咲はあきらめて、体の力を抜いた。


「意識を失っているヤツに干渉するのは難しくないさ。それに、無防備であんたの前に出るのは恐ろしいしな」


「わたしのようなかよわい乙女に言うセリフじゃないだろう」


 陸は笑った。


「それがあんたの本当の姿か?」


「ふふっ、惚れたか?美人だろう?嫁に欲しいというなら、考えてやらないこともないぞ」


 咲は悪戯っぽい目を陸に向けた。


「美人なのは否定しないが、嫁にするのは遠慮しとく。怖いお友だちもついてきそうだ」


 咲のそばには鬼火が漂っていた。

 陸に敵意がないからだろう。鬼火が陸を攻撃することはなかったが、咲を守るように咲と陸の間をふわふわと漂っていた。


「どうして邪魔をした?」


 咲が尋ねた。


「どちらに死なれても寝覚めが悪い。あんたにはやるべきことがあるんだろ?こんなところで死ぬべきじゃない。それに……」


 陸は森の奥に目を向けた。

 森の奥にはイバラの気配がしていた。


「あんなんでも、俺の兄らしいからな」


「……そうか。お前も屍食鬼(グール)の子供なのか」


 咲はじっと陸の顔を見つめた。


屍食鬼(グール)はどうした?」


「死んだよ」


「そうか。あれほどのヴァンパイアでも死ぬんだな」


 咲は感慨深げに言った。


「あんたがやったんじゃないのか?」


「うん?わたしじゃないぞ。どうして、そう思う?」


「黒い生気(オーラ)を生み出す術式が屍食鬼(グール)を死に追いやった。あんたが使ってた黒蛇と同じものだ」


「ああ……なるほど。そういうことか」


 咲は納得した顔をした。


「心当たりがあるのか?」


「ある。だが、あれはわたしたちのような普通のヴァンパイアが扱えるものじゃないぞ。わたしの剣もその方が作られたものだ」


「あんたで普通なのか?とんでもないな」


「世界が狭いな。わたしなんかまだ修業中の身だ。興味があるなら、紹介してやろうか?」


「いや、いい。俺はまだ死にたくないんでね」


「それは残念だ」


 さして残念そうな風でもなく咲が言った。


「さて、俺はもう行く」


 陸は腰を上げた。


「おいおい、動けなくなった女をこんな所に置いていくのか?」


「いや、お迎えが来たようだぞ」


 陸は森の入口の方に目を向けた。

 そちらの方から咲を呼ぶ中村の声が聞こえてきた。


「じゃあ、元気でな」


 そう言うと、陸は姿を消した。

 咲の拘束が解けた。

 咲はふうっと息をついた。


 だんだん、中村の声が近づいてきた。


「ゆっくり休む時間もないか……」


 咲は体を起こした。

 立ち上がると、ふらりと体が揺れた。


「おっと、まだ動くのは無理か……」


 咲は座り込むと、左腕に指をあてた。

 そこには四匹の蛇がとぐろを巻いていた。


「封」


 四匹の蛇が動き出し、回転して封印の術式に変わった。

 赤い髪が黒髪に変わり、肩口までの長さに戻っていく。


「お前たち、ご苦労だったな」


 咲が鬼火に声をかけた。

 鬼火は咲の言葉に応えるように左右に揺れると、消えていった。


 咲は声がする方に向き直った。


「おーい、中村!こっちだ!」


 咲は大声で中村を呼んだ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は8/6(火)投稿予定です。


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