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エピローグ


「さて、問題はコレをどうするかだが……」


 陸は腕組みをした。

 目の前には鉤爪(クロー)が気を失って倒れていた。

 獣化は解けていたが、筋肉が膨れ上がった影響で服が破れ、全裸である。


「せっかくだから、市役所の屋上から吊り下げてみるか」


 いいアイデアが浮かんだとばかりに、陸はポンと手を叩いた。

 隣にいた紗良がジトっとした目で陸を見上げた。


「……冗談だ」


 陸は紗良から目をそらした。




 中村は咲を負ぶって、森の出口に向かっていた。


「中村」


 背中でぐったりしている咲が中村に声をかけた。


「何です?」


「世話をかけるな」


 咲は申し訳なさそうに言った。


「ははっ、今さらです」


 中村は笑い飛ばした。


「そうだな」


 咲は疲れた顔を中村の背中にうずめた。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 吸血部隊はとある漁村にやってきた。

 村民がヴァンパイアに襲われたという連絡があり、急遽、隊を編成して出発したのだ。

 到着したのは夜も更けた時間だった。


 吸血部隊の車が到着した時、船着き場では篝火が焚かれ、ずらりと係留している底引き網漁用の小型漁船を照らし出していた。

 その一角に人だかりができており、怒号が聞こえていた。人だかりの中心は漁師であろう男達で、遠巻きに女達が不安そうな顔でその様子を見ている。中にヴァンパイアがいるようだ。

 

 咲が車から下りると、すぐに人だかりの中から地元の警察官が出てきた。


「ご苦労様です」


 警察官は咲に敬礼した。


「住民がヴァンパイアに襲われたということでしたが?」


「はい。ただ、住民の皆さんがヴァンパイアを取り押さえられました。あちらです」


 警察官に案内され、咲が住民の中に割って入ると、中心に一体のヴァンパイアが転がっていた。


「うううぅ……」


 ヴァンパイアはまだ息があった。


 見ると、ヴァンパイアになりたての年若いヴァンパイアだった。訳も分からず、衝動のままに人間を襲ったのだろう。

 手足が折られ、いたるところに暴行を加えられた痕があった。


 いくらヴァンパイアとはいえ、この若さで、この傷では長くは保たないだろう、と咲は思った。


「どうだ、婦警さん!俺達で化け物を懲らしめてやったぞ!」


 血の付いたシャベルやバールを持った漁師達が誇らしげに胸を張った。


「こいつ、ウチの娘を襲ったんだ」


 一人の漁師がシャベルでヴァンパイアの背中を突いた。


「ぐあっ!」


 ヴァンパイアが悲鳴を上げた。


「お願いします。もう許してください……」


 ヴァンパイアは漁師に懇願した。


「うるせえ!化け物のくせに、口をきくんじゃねえ!」


 漁師はシャベルでヴァンパイアの頭を殴った。


「ぎゃっ」


 ヴァンパイアは頭を押さえて呻いた。


 警察官が何人かそばにいたが、漁師を止める様子はなかった。


 この辺りは住民同士の結びつきが強い。警察官達にとっても、被害者は親戚の子供のようなものだ。

 手を出してはいないが、心情的には漁師と同じである。彼らは憎々し気な様子でヴァンパイアを見ていた。


「……他にヴァンパイアはいませんでしたか?」


 努めて平静を装い、咲は漁師に声をかけた。


「いいや、俺達が見たのはこいつだけだ」


「なるほど。それで、被害に遭ったという娘さんは?」


 咲は案内してくれた警察官に尋ねた。


「病院で治療を受けています。命に別状はありませんが、ひどくショックを受けておりまして。しばらくは入院が必要になるかと思います」


 警察官はハキハキと答えた。


「そうですか。命が助かったのは、不幸中の幸いです」


 そう言うと、咲はヴァンパイアを取り囲んでいる漁師達の前に立った。


「取り調べを行います。皆さんは少し下がってください」


「ええっ、動けねえようにしてやったけどよ。あんたみたいな女が近づくと、危ねえぞ」


 漁師は心配そうな顔をした。


「いえ、仕事ですから。慣れてますので、大丈夫です」


 咲は漁師たちから離れると、ヴァンパイアの前で膝を折って、その顔を覗き込んだ。

 吸血部隊の隊員達が、漁師たちから様子が見えないように、咲の周りに壁を作った。


 咲は先ずヴァンパイアに自分の正体を伝えた。

 ヴァンパイアは最初、驚いた顔をしたが、自分の死を悟っているのだろう、悔しそうな顔で咲に思いのたけをぶちまけた。

 咲は黙ってヴァンパイアの言葉を受け止めた。


 最後に、咲はヴァンパイアに一つの提案をした。

 しばらくの間、ヴァンパイアは迷った様子を見せたが、意を決した様子で提案を受け入れた。


 咲は立ち上がると、すらりと刀を抜いた。

 ヴァンパイアは目を閉じた。

 咲が刀を一閃させた。

 ヴァンパイアの首がアスファルトの上にごろりと転がった。


 咲は小さく言葉を紡ぐと、ヴァンパイアの死体に手のひらを向けた。

 ヴァンパイアの体から青白い光が浮かび、その手に吸い込まれていった。

 咲の体が淡い光を放ち、やがて消えた。


 咲は刀を鞘に納めた。

 ヴァンパイアの死体は担架に乗せられ、吸血部隊によって運び出された。


 指揮車に戻ると、中村が近寄ってきた。


「やはり育児放棄(ネグレスト)の仕業ですか?」


「そのようだ。ヴァンパイアにされた後、すぐにいなくなったそうだ。気に入らなかったんだろうな」


 怒りを押し殺した声で、咲が答えた。


「あいつはポコポコ子供を作るくせに、気に入らなかったら放置していなくなってしまう。生まれたばかりのヴァンパイアなんて、血を求める衝動があるだけで、人間と大して変わらない。ヴァンパイアになったばかりの時が、一番手助けを必要とするというのに」


 咲はシートに座ると、窓の外に目を向けた。

 窓の外では、集まっていた漁師達に警察官が今後のことについて説明を行っていた。


「あんな無責任なヤツがいるから、無駄にヴァンパイアが敵視され、死人が増えるんだ!」


 咲は吐き捨てた。


「中隊長」


 電話をしていた隊員が振り向いて、咲に声をかけた。


「何だ?」


 咲はじろりと隊員を睨んだ。


「あっ、すいません。そのぉ、三木隊長から連絡がありました。準備が整ったそうです。至急、戻って来てほしいと……」


 咲の圧力に圧されて、隊員の声がか細くなった。


「やっとか!待ちかねたぞ!すぐに戻ると伝えてくれ!」


 咲の顔がほころんだ。今までの不機嫌な様子が嘘のようだ。


「何をやらせたんです?」


 怪訝な顔で中村が尋ねた。


「戦力強化だ。今まで我慢してきたが、これでようやく育児放棄(ネグレスト)に対抗できるだけの力が手に入る。吸血部隊の新たな一歩だ!急いで戻るぞ!」


 興奮を隠せない様子で、咲はまくし立てた。



ここまで拙い作品をお読みいただき、ありがとうございます。


予定したところまで書き進めましたので、ここで一旦、更新を休止したいと思います。

勢いだけで書いてきましたので、色々と見直しをしてみるつもりです。


他にも短編などを書いてみたいと思いますので、またのぞいてもらえると嬉しいです。


それでは。

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