再生と消滅
陸は社があった場所にやってきた。
あの時は感情を爆発させて社を飛び出したが、その後が気になっているところに爆発音が轟いた。とるものもとりあえず、様子を見に来たというわけだ。
数日を経て、荒れ狂った心も落ち着きを取り戻しつつあった。
社は跡形もなく消え失せ、代わりに焼け焦げた大穴ができていた。
事情は分からないが、何か爆発物が使われたらしい。
穴の周辺にはバラバラになった大小の木片が散らばっていた。
「あいつらはどうなったんだ?」
陸が穴の縁に立って中を覗き込んでいると、かすかに生気を感じた。少し離れた草むらからだ。
「こっちの方か」
草むらをかき分けて進んでいくと、毛の生えた肉片が落ちていた。生気はこの肉片から発せられていた。
知っている気配である。屍食鬼の気配だ。
「これは屍食鬼なのか?しかし、死ねば生気も消えるはずだが……」
怪訝な顔で陸が見ていると、ごぼごぼと肉片が泡立ち始めた。
「何だ?」
泡は次第に下方に大きく広がっていき、肉片を持ち上げた。そして、肉片が陸の膝くらいまでの高さになると、泡がはじけて頭蓋骨が現れた。二つの眼窩があり、梨状口の下に歯が並んでいる。犬歯だけは鋭く尖っていた。ヴァンパイアの頭蓋骨だ。
どうやら肉片は頭の一部だったようだ。頭蓋骨に天辺に貼り付いている。
肉片から赤い筋が伸びて頭蓋骨の外側を覆い始めた。筋が結合して表情筋を作っていく。頭蓋骨の中が激しく泡立ち、空虚だった眼窩の中に目玉が形成された。剥き出しだった牙と歯が唇で覆われていく。
「バカな!?ここから再生しようとしているのか!?」
いくらヴァンパイアといえども、ここまで体を破壊されて、再生するなんてことがありえるはずはない。
何か別の力が働いている、と陸は思った。
頭が出来上がると、今度は首の下が泡立ち始めた。体が作られようとしているのだ。
どうすべきか、と陸が頭を悩ませていると、屍食鬼の上に術式が浮かび上がった。
「呪印!?」
屍食鬼の再生が止まった。
いや、完全に止まったわけではないようだ。再生は続いていた。
首の下が泡立ち、少しずつ頚椎と肉が作られている。ただ、先ほどまでと比べて、その速度は極端に遅くなった。
「呪印が再生を妨害しているのか?」
陸が状況を見極めようとしていると、屍食鬼の目玉が動き、陸を捉えた。
「う……」
陸は息を呑んだ。
屍食鬼の目は、何かを訴えるような、救いを求めるような感情に満ちていた。
不意に、陸はごっそり生気が抜け出る感覚を味わった。
目の前に紗良が現れた。
沙良が屍食鬼の頭に手のひらを向けた。
手のひらからイバラが生じ、するすると屍食鬼に向かって伸びていった。
「おい」
陸が制止したが、沙良は無視した。
イバラが屍食鬼に近づくと、呪印から二本の黒い生気が現れた。
出現数があの時より減っている。これが今の限界のようだ。
紗良がイバラを止めた。
黒い生気がイバラの迎撃に伸びてきたが、射程ギリギリまで伸び切ると動かなくなった。
紗良はイバラを黒い生気の前で左右に振ってみせた。
黒い生気はイバラの動きに合わせて左右に動いた。
後方の地中からイバラが伸びてきて、屍食鬼の頭に絡みついた。
紗良は陸と鉤爪の会話を聞いていたようだ。白い生気を囮に使う呪印解除の手順である。
しかし、紗良は逆のことをやった。
イバラが屍食鬼の生気を吸収し始めた。
再生が完全に止まり、泡がはじけて消えていった。
屍食鬼の目がゆっくりと光を失い、白く濁っていく。
屍食鬼の頭がごろんと倒れた。
生気を失った屍食鬼の頭は形を保つことができず、どろどろと溶けていった。
呪印が消えた。
後には、悪臭を放つ、濡れた地面だけが残った。
生気を感じることもない。
屍食鬼は完全に消滅した。
紗良が振り返った。
冷たい目は相変わらずだったが、口元に笑みを浮かべていた。
何を言えばいいのか、陸にはわからなかった。
紗良は陸の中に戻った。
陸はふうっと大きく息を吐いた。
その時、森の奥の方から咆哮が聞こえた。
陸にはそれが誰かすぐにわかった。
「あいつ、リミッターを外したのか。一体、何が起こってるんだ?」
今度は何かがぶつかり合う大きな音が聞こえてきた。続けて銃声が響いた。
「あー、くそっ。面倒ごとはごめんなんだが……」
陸はうつむいて、がしがしと頭を掻きむしった。
「……行くしかないか」
陸はあきらめたような表情で顔を上げると、森の奥に向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回は7/26(金)投稿予定です。




