実力差
「痛てて……何発かもらっちまったな」
木を背にして鉤爪は腰を下ろした。
右腕と右腿に銃弾を受けて、血が流れていた。
しかし、すぐに血は止まり、肉が盛り上がって傷口から弾丸を押し出した。弾丸はポロリと地面に落ちた。
「こんなところを陸に見られたら、何て言われるか……」
鉤爪は、生乾きの血がこびりついている右腕をさすった。
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呪印の解除に疲れて、休憩を取っていた時のことである。
鉤爪と陸が雑談していると、戦闘の話になった。
案の定、鉤爪と陸の戦い方には大きな隔たりがあった。
あらゆるリスクを考慮して入念に準備する陸の戦い方に対して、鉤爪の戦い方は、良く言えば臨機応変、悪く言えば行き当たりばったりだった。
「どうでもいいが、お前は相手をみくびりすぎだ。何をしてくるか分からない相手に、よくそんな恐ろしい真似ができるな」
陸はあきれた顔をした。
「バカ野郎。それが戦いの醍醐味というものだろうが。何をしてくるか分かってたら、あとは倒すだけだろ。面白くない」
「俺はお前みたいに戦いを面白いと思ったことはない。仕方がないから、戦うだけだ。準備した手順通り、つつがなく終われば、万々歳だ。むしろ、戦わずに目的が果たせるんなら、そっちの方がよっぽどいい」
「もったいない人生を送ってるねえ。戦いほど面白いものはないぞ。窮地に追い込まれたヤツはすごいぞ。普段からは考えられない力を発揮するし、隠し持っていた武器や技をなりふり構わず使ってくる。えっ、こんなヤツが、こんな技を!?って驚くぞ。そういう驚きに出会えるのが戦いってもんだ。そして、さらにその上をいって、そいつを叩きのめす。これが楽しいんじゃないか」
「どうしてわざわざ相手の力を引き出そうとするんだ。さっさと倒してしまえばいいだろう」
「そうは言うけどな。倒すだけなら、ただの作業だろ。すぐに終わるし、面白くない」
「早死にしたいのか?そのプロレス的な発想をどうにかしろ」
「バカだな。楽しいことはとことん楽しみ尽くす。それがオレの生き様だ。俺は戦いを楽しみたいんだ」
「……強すぎるのも問題だな。話が全く噛み合わない」
あきらめたように、陸は首をすくめた。
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鉤爪の視覚と聴覚が戻った。
撃たれた傷も痕が残っているだけだ。
「さてと。お楽しみの時間だ」
鉤爪は腰を上げた。
「しかし、人間の兵器を使うヴァンパイアも珍しいな。ヴァンパイアとしちゃあ、それなりだが、ああいう力のつけ方もあるんだな。面白い」
そう口にすると、鉤爪は愉快そうに笑った。
「なあ、これが戦いの楽しさってもんだぞ、陸」
鉤爪は、今は姿を消している弟に向かってつぶやいた。
からん、と音がした。
燐が音がした方に素早く銃を向けると、小石が転がっていた。
「しまった」
燐が慌てて振り返ると、鉤爪が拳を振りかぶっていた。
燐はサブマシンガンを盾にして鉤爪の攻撃を受けた。
直撃は避けることができたが、鉤爪の拳でサブマシンガンはへし折れた。
「くそっ」
燐はサブマシンガンを投げ捨てると、右手を横に開いた。
ガチャンと音を立てて、上腕から機械仕掛けのブレードが飛び出した。ブレードは二段、三段と伸びて、大振りの鎌のような形状になった。
「ほう」
鉤爪が嬉しそうな顔をした。
「くらえ!」
燐は踏み込みざま、鉤爪を横薙ぎにした。
鉤爪は円を描くようにステップして軽く鎌を避けた。
「仕掛けは面白いが、腕が追いついてないな」
「黙れ!」
燐は鉤爪を追ってさらに大きく踏み込み、ブレードを振るった。
鉤爪は一転、前に出て、ブレードのついた燐の右腕を抑えつつ、肘でその顎をかち上げた。
燐の頭が跳ね上がった。
「がっ」
燐はよろよろと後ずさり、仰向けに倒れた。
脳を揺らされた。意識こそつなぎとめたが、体が言うことをきかない。
「ほら、早く立て。まだ始まったばかりだぞ」
「くそ……」
燐は必死に立ち上がったが、足がもつれて、尻もちをついた。
「何だ?もう終わりか?さっさと立たないと、殺すぞ」
鉤爪が燐を急かした。
燐は何とか立ち上がった。
しかし、足がガグガクして構えを取るのもままならない。
「さあ、次は何を見せてくれるんだ?」
鉤爪が期待した目を燐に向けた。
「……」
燐は右手を森に向けると、ワイヤーを飛ばした。
「む?」
燐はワイヤーを木の枝に絡ませると、一気に巻き上げた。
燐の体がワイヤーに引っ張られて、森に向かって飛んだ。
「おおっ」
鉤爪が感嘆の声を上げた。
燐は木の枝に着地した。そして、ワイヤーを飛ばしての移動を繰り返した。
今はとにかく、頭を冷やして、体勢を立て直す時間が欲しかった。
「まともに戦ってはダメだ。歯が立たない。でも、どうすれば……」
森を奥へ奥へと進みながら、燐は必死に頭を回転させた。
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次回は6/25(火)投稿予定です。




