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現代ヴァンパイアは楽園を探す  作者: 津村マウフ
第三章 屍食鬼
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小さな冒険


 陸は呪印解除を続けていた。


 相も変わらず、黒い生気(オーラ)に阻まれて、呪印に干渉することができずにいたが、何度も繰り返すうちに、黒い生気(オーラ)が一度に出現する数に限りがあることが分かった。


 現時点で、黒い生気(オーラ)が一度に出現する数は最大で九。

 しかも陸が社にやってきた時に比べて、明らかに黒い生気(オーラ)は出現数も少なく、小さくなっていた。


 これはおそらく、屍食鬼(グール)生気(オーラ)が尽きようとしているのだ。

 屍食鬼(グール)生気(オーラ)が残り少なくなるにつれて、当然ながら、黒い生気(オーラ)も作られなくなる。ということは、屍食鬼(グール)の命が幾ばくも無いということを意味していた。


 陸はどうでもよかったが、鉤爪(クロー)は焦った。

 何とかしてくれ、としつこく陸をせっついた。


 陸は生気(オーラ)の塊を作って、呪印の前に置いた。すぐに黒い生気(オーラ)が陸の生気(オーラ)に反応した。


 黒い生気(オーラ)は体を伸ばして白い生気(オーラ)に喰いつこうとした。陸はゆっくりと白い生気(オーラ)を黒い生気(オーラ)から遠ざけた。黒い生気(オーラ)は白い生気(オーラ)を追って、さらに体を伸ばした。しかし、二メートル程伸びたところで、動きが止まった。


 この長さが限界のようだ。黒い生気(オーラ)は、白い生気(オーラ)の塊の前でふるふると震えていた。


 陸は囮を使って、黒い生気(オーラ)をおびき寄せることを思いついた。黒い生気(オーラ)が囮に向かっている間に、別の生気(オーラ)を使って呪印に干渉するのだ。


 九つの白い生気(オーラ)の塊を作って囮にすれば、黒い生気(オーラ)に邪魔されることなく、呪印に干渉することができるだろう。

 この数ならば、練習すれば何とかなりそうだ。


 明るい材料が出てきたところで、ほっとした鉤爪(クロー)が買い出しに行くと言い出した。


「包帯も手に入れたいし、血も補充しなきゃいけないしな」


 鉤爪(クロー)は大ぶりのバッグを肩に担いだ。


屍食鬼(グール)だけにして大丈夫なのか?」


 目を向けると、屍食鬼(グール)は社の隅で膝を抱えていた。


「大丈夫だ。親父は陽の光を怖がるようになってな。自分から社の外に出ることはない」


 陸は何となく嫌な予感がした。


「なら、俺も行こう。ヴァンパイア専門部隊がうろうろしているからな。お前だけで行かせるのは不安だ」


「バカ言うな。そんなものに見つかったところで、軽く蹴散らしてくれるさ」


 鉤爪(クロー)は片手を爪に変えて、ポーズをきめてみせた。


「……そういうところが不安なんだ」


 陸は鉤爪(クロー)に白い目を向けた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 辰巳山の展望台へと登っていく貸し切りバスの中は、席を埋めた小学生が騒ぎ立てていた。


 校外学習という名目だが、実質は遊びに行くようなものだ。

 天気も良く、子供達は完全に興奮状態だ。

 教師も半ばあきらめた様子で、特に注意することもなかった。


 その中で一人、健太郎だけが沈んでいた。

 友達に声をかけられても生返事で、席に座ってぼうっと窓から外の風景を眺めていた。


 陸がいなくなってから、健太郎の世界は灰色に変わった。


 家に帰っても誰もおらず、冷えた食事を電子レンジで温めて食べるだけのさみしい生活だ。夜遅くに母親が帰ってきても、疲れて機嫌が悪く、甘えることもできない。


 一人でゲームをやってもちっとも面白くない。あれほど夢中になったゲームが、今では宿題をやるのと変わらないつまらなさだった。


 日に日に陸恋しさが募った。


「兄ちゃん……」


 そうして健太郎がぼうっとの外の景色を眺めていると、木に覆われた山道から二人の男が出てきた。

 バスはあっという間に二人の前を通り過ぎてしまったが、健太郎にはそれが誰かすぐに分かった。


「兄ちゃん!?」


 バスが展望台に到着すると、すぐに生徒たちが集められ、点呼が取られた。

 教師が今日一日の注意事項を説明している間も、健太郎は先ほど見た陸のことで頭がいっぱいになっていた。

 何とか抜け出して、陸に会いに行くこと以外、何も考えられなかった。


「それじゃあ、解散!いいわね!展望台の敷地から絶対に出ないこと!」


 黄色い帽子を被った生徒達がずらりと並ぶ前で、若い女教師が生徒たちに号令をかけた。


「はーい!!」


 生徒たちは元気よく返事をすると、各々が目をつけていた遊具に向かって一斉に走り出した。


 健太郎は教師に見つからないように、こっそりと展望台を抜け出すと、バスが登ってきた道路を下に向かって走り出した。一本道なので、迷うこともなかった。


「たしかこの辺だと思ったんだけど……」


 健太郎は陸を見かけたあたりに辿り着いたが、陸の姿は見えなかった。


「兄ちゃーん!兄ちゃーん!兄ちゃーん!」


 健太郎は大声で陸を呼んだが、返事はなかった。


 陸を探し回っていると、道路脇に森の奥に進む山道が見つかった。

 山道にしては広く、道の両側が丸太で仕切られている。荒れてはいるが、通れないことはない。


「こっちに行ったのかな?」


 地面には足跡が残っていた。


 健太郎はおそるおそる山道を進んだ。

 進むにつれて、次第に森が深くなり、どこからか野鳥の鳴き声が聞こえてきた。

 すぐそばに何かがいるような気配がするのに、草木の緑以外何も見えない。


 健太郎は不安になった。


「兄ちゃーん!兄ちゃーん!」


 健太郎は大声で陸を呼んだが、やはり返事はなかった。


 道は森の奥に続いていた。

 健太郎は勇気を振り絞って先に進んだ。


 やがて健太郎は開けた場所に出た。

 草ぼうぼうの真ん中に、古ぼけた社がぽつんと建っている。

 社の扉は少し開いていた。


「兄ちゃん、いるの?」


 健太郎は扉を開けて、社の中に入った。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は6/7(金)投稿予定です。


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