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現代ヴァンパイアは楽園を探す  作者: 津村マウフ
第三章 屍食鬼
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茶屋街のヴァンパイア


 茶屋街の説明をする店員の話に笑顔で相槌をうっている老ヴァンパイアのもとに、咲がやってきた。

 老ヴァンパイアは咲を見ると笑顔を見せた。


「これはこれは巫女殿。お元気でしたかな?」


 咲は店員にコーヒーを頼むと、老ヴァンパイアに非難めいた目を向けた。


「部下を試すような真似はやめていただきたい」


「ふむ。彼我の実力差を見極める力がないようでしたら、少しからかってやろうかと思いましたが、なかなかいい部下をお持ちのようだ。よく訓練されている」


 老ヴァンパイアは、うんうんと満足そうに頷いた。


 咲は苦笑いを浮かべると、老ヴァンパイアの隣に腰を下ろした。


「こちらには何を?まさか観光に来たというわけではないでしょう」


「はっはっは。実は、御屋形様から巫女殿の様子を見てくるように言われましてな。まったく、年寄り使いが荒いというものです」


 老ヴァンパイアは困ったように首をすくめた。


「わたしの……ですか?」


「ああいう方ですからな。言葉にはしませんが、心配されているのですよ。無理しているんじゃないかとね」


 そう言うと、老ヴァンパイアは確かめるような目を咲に向けた。


「お気持ちはありがたいですが、わたしの選んだ道です」


 咲はきっぱりと答えた。


「そうでしょうな。そのことにとやかく言うつもりはありません。貴女は貴女のお気持ちのまま、進めばよろしい」


 老ヴァンパイアはうなずくと、安心したように表情をゆるめた。


「しかし、お元気そうで何よりだ。御屋形様にはそのように伝えておきます」


「ありがとうございます」


「ところで、先だっての長老たちの会合の一件はお聞きになりましたかな?」


 老ヴァンパイアは表情を引き締めると、話を変えた。


「いいえ。何かあったのですか?」


「何、大したことではないのですが……」


 不定期開催だが、大手クランを率いるヴァンパイアの長老達が一堂に会し、話し合いを持つ機会がある。

 これは主としてクラン同士の利害関係の調整を図るためのものだ。クラン同士の対立を武力闘争に発展させないための安全装置である。


 原則的に欠席は許されず、欠席した場合は、会合において決定されたことで不利益を被っても仕方がないという意思表示と取られることになる。


 その席で、貨沢市の決闘騒ぎが取り上げられた。

 決闘そのものに関しては特に問題とはされなかった。ほとんど有名無実化している慣習とはいえ、決闘に至るまでの手続きは通例通りのものだったからだ。


 問題は、決闘に人間が介入したことにある。

 なぜ、決闘が行われることを人間が知っていたかという点が議論となった。

 つまり、決闘の慣習が人間に知られているのであれば、ヴァンパイアしか知らないはずのその他の情報が人間の手に渡っているのではないかということだ。


 そのやり玉として、咲が挙げられた。咲を排除すべしという声が長老の口から出たのも必然である。


「彼らは、巫女殿の行動によって、自分達が危険に曝されるのではないかと危惧しているのですよ」


「何を今さら。とっくに足元に火がついているというのに見ないふりをして、誰かが行動を起こすと非難するのですか?」


 咲は吐き捨てるように言った。


「おっしゃる通りです。ですが、いつの時代もそういうものです。彼らは、例えどのような問題があろうとも、生き慣れた世界が変わってしまうことが嫌なのです。しかも、なまじ力を持っているだけに質が悪い。ことあるごとに邪魔をしてくるでしょう」


「覚悟の上です」


「せいぜい、お気をつけることです」


 そう言うと、老ヴァンパイアは咲の目をじっと見た。。


「つらくなったら、帰ってきてもいいのですよ」


 老ヴァンパイアが囁くように言った。


「それは絶対にありません」


 咲は即座に首を振った。


「……そういうところは変わりませんねえ。一度こうと決めたら、回りが何を言っても曲げることをしない。負けん気が強いというか、何と言うか……」


 老ヴァンパイアは苦笑いした。


「頑固だとは、よく言われます」


 咲はにっこりと微笑んだ。


「御屋形様が心配なさるわけだ」


 老ヴァンパイアはハァと大きくため息をついた。


「今のところ、御屋形様が他の長老達を抑えていますが、いつまでもという訳にはいきません。いずれ巫女殿に直接絡んでくるものが出てきます。話し合いで解決する話ではありません。感情的なものですから、理を説いてどうにかなるものではないのです。巫女殿が理想を追い続けるのなら、ぶつかり合うのは避けられません。今のうちに協力者を集め、対抗できるだけの力をつけることです。聡明な貴女のことだ。そんなことは十分理解しておられるとは思いますが」


「ご助言、痛み入ります」


「老婆心ながら、つい余計なことを言ってしまいましたね」


 老ヴァンパイアは恥ずかしそうに笑った。


「いえ、そんなことは……」


「あと、これは私からのお願いですが、時間ができた時でかまいませんので、屋敷の方にも顔を出してやっていただけませんか?」


「ええ、時間ができたら、また寄らせてもらいます」


 咲は素直に頷いた。


「ぜひお願いしますよ。御屋形様も喜びます」


 老ヴァンパイアは優しく微笑んだ。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は6/4(火)投稿予定です。


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